さよならだけが人生か。でもさよならにも言い方がある。(17)
12月27日。
いよいよ、療養型のリハビリ病院の面談。
今日話を聞いて、気に入ったら契約してもよい
とのこと。
うちから車で1時間ほどの
西東京の山深い場所に、
そのリハビリ病院はあった。
この病院を選んだ決め手は、
リハビリの学校が併設されており、
ほかのどこよりも多くの時間、
リハビリを受けられること、
経鼻胃管を装着していても、なお、
嚥下のリハビリを受けられるのは
ここだけだった、という理由による。
ほぼ寝たきりの状態になってしまった母には、
たとえマッサージだけでもいいから、
1日のうちで、少しでも気持ちがいい、とか、
身体がほぐせたなぁ、とか、
快適に思える時間を持ってほしかったから。
また再び口から食べる、という希望も
捨ててほしくなかった。
この日は、面談といっても、
コロナ禍で施設の見学はできず、
担当者から説明を聞くだけの訪問である。
リハの内容やポリシーなどについては、
よかったのだが、料金体系が微妙だった。
母はパーキンソン病で、東京都の「難病認定」を
受けているため、医療費はほとんどかからない。
なのに決して安くないその月々の支払いの大半は、
保険外負担となる入院用品セットの
レンタル代だった。
これがなんと1日2500円、オムツ代が1日1900円、
病衣が、1日275円。
あわせて1日約4700円、月に14万円である。
そして、このレンタルセット、
オムツの人には不要な下着や、
お風呂に入らない日には不要なバスタオル、
(お風呂は週1回とのこと)
経鼻胃管をしている母には不要な食事用エプロン、
さらに大半の患者に必要のない拘束用のつなぎなど、
とにかく不要なもののオンパレードなのだ。
これを、セットで毎日、指定業者から強制的に
レンタルするという仕組みになっている。
明らかに、業者とズブズブなのである。
それでも、その不当なレンタル代が不服だから
といって、別のリハのない病院へ転院させて、
毎日天井を眺めるだけの余生を
自分の親に強いることができる人なんて、
きっとほとんどいない。
私たちは、少しでもベターな親の生活のために、
自ら、甘んじて、相手の手中に落ちるのだ。
これに加えて、週に一度来るという
神経内科の専門医は、母が以前に入所していた
施設の担当医でもあり、
正直、母にとっても、私たち家族にとっても、
お世辞にも「よい先生」という印象はなかった。
それでもやはり、日々のリハビリには代えがたい。
背に腹は変えられず、入院の意志を伝えて、
転院は1月6日午後2時と決まった。
この病院が、おそらく母の終いの住処、となる。
と、少なくとも、ここをあとにするときは、
私も弟も、そんなふうに思っていた。