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小学校の動物を幸せにする④

僕が獣医師会内の、学校動物飼育委員会に所属してしばらくが経った。
そろそろ新しい年度になろうかという一月、飼育委員会内で役割分担を決めよう、という事になった。
委員会の先生は、それぞれ自分の動物病院で働いているため、全員の診療が終わる夜に、委員長の先生が営んでいる動物病院に集まった。

・委員長
・副委員長
・会計
・巣箱を作る係
・県指定の学校動物飼育強化校の担当
・獣医師会会員への勉強会担当
・行政へ予算を出してもらうように交渉する係

現委員長がホワイトボードに書きだしたのは、上記の六つだった。
これを学校動物飼育委員会の先生八名で分担する。
新参者の僕には、学校動物飼育委員会がどんな仕事をしているのかを知れる機会になり、助かった。
それまでは、言われたことを「ハイ!」と、やっているだけだった。
そして話し合いの結果、僕は『行政へ予算を出してもらうように交渉する係』への配属が決まった。
この係は仕事としては難しいため、僕を含めて三名の先生が担当する事になった。

後日、対行政の三名で会議が開かれた。
そこで二名の先生から語られたのは、厳しい現実だった。
まずは『行政へ予算を出してもらうように交渉する係』の仕事内容。
行政からは、基本的には学校飼育動物に対しての予算は出ていない。
餌代や飼育小屋の修繕や掃除用具は、小学校の雑費や予備費や備品代などでまかなっている。
病気やケガの際、診療費は出ない。
予防のための健診や、不妊手術費も当然出ない。
しかし、ウサギは繁殖力が高いため、不妊手術をしておかないとあっという間に数が増えてしまい、飼育しきれなくなってしまう場合がある。
これが、我々獣医師会が管轄している10市町村の現状である。
それぞれの地域や小学校で多少の差異はあるが、どこも大同小異といった所、だそうだ。

小学校の飼育担当の先生は、そんな状況で動物の御世話を急にまかされる。
ウサギやチャボが体調不良になって、近くの動物病院に連れて行く。
ポケットマネーから診療費を払う、のは良心的な先生。
しかし多くの先生は、小学校の動物だから、という理由でお金を払わない。
動物病院の獣医は、他の患者さんに使っていたはずの時間や労力を傾けて治療や手術を無償でする事になってしまう。
そのため、獣医師会の先生の中には、学校飼育動物の診療を好まない人もいる。全く無理のない話である。
さらにもっと酷いケースもある。
明らかに病気やケガでも、どこの動物病院に連れて行ったら良いか分からない、勤務中なので時間が無い、お金が無い、などの理由で見殺しにされてしまう動物もいる。
流石に特殊なケースかも知れないが、児童からウサギの具合が悪そうだと報告を受けた飼育担当の先生がパニックになり、まだ生きているのにウサギを土に埋めてしまったという事例もあるそうだ。

一息に、先輩の獣医師お二人からそんな話をお伺いして、僕は暗澹たる気持ちになった。
また、同時にこの状況は是が非でもなんとか改善させなければ、と強い気持ちが沸き起こるのを感じた。

ちなみに、行政や小学校の状況は、学校飼育動物委員会が活動を始めた数十年前から、ほとんど変わっていないそうだ。

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