雀ノ涙
教室で誰とも口を利かなくなって10ヶ月以上が経った頃、雀の言葉が理解できるようになった。僕は教室から窓の外を眺めるのが好きだった。人と話すよりも枝に停まる雀の鳴き声を聴いてるのが好きだった。どこかの境目で気づけば段々と言葉として聞き取れるようになっていた。
「チョウボウ」
「フクゲン」
「タンサ」
「タンサ」
2羽が交互に話している。雀は単語しか話さない。なんとなく漢字を当てはめることはできるが会話として成立してるのかはわからない。でもまあ、通じ合っているんだろう。そんな音だ。
「トウヒコウ」
「トウヒコウ」
「ヘイゲイ」
「ボウエン」
呼応し始めた?手にしたものと失ったもの。いつも同時にあるような気がしている。ある日学校で誰も話しかけてこなくなった。こちらから話しかけても応えてくれるものがいなくなった。そのうちに誰とも目が合わなくなった。誰もこちらを見ない。だから僕からも話しかけなくなった。今では皆には僕が見えていないようだ。僕も言葉を発せれなくなってしまったのかもしれない。そして誰も僕に近寄って来なくなった。
「ユメ」
「セイヒツ」
「ナミダ」
相変わらず聞き取れるが意味が理解できない。でも彼らは僕のことを言っている気もする。ひょっとすると僕に話しかけているのかもしれなかった。
「ゴウホウ」
「ムエン」
僕も君らのようになりたいよ。そちら側に連れてってくれないか?
「カキ」
「イジョウ」
「イジョウ」
「イジョウ」
「イジョウ」
だから僕は君らの言葉がわかりつつあるんだろ?ここは息苦しいよ。なんで皆僕を無視するようになったんだろう?僕が何かしたのかな?
もしも交換条件って言うんなら何でもあげるからさ。頼むよ。
「リュウセイ」
「コウカン」
でも僕にあげれるものは何もなかった。僕には何もなかったんだ。
「アシタ」
「キノウ」
「キョウ」
「イマ」
「シュンカン」
「シュンカン」
「セツナ」
それでいいなら全部あげるよ。僕はもう何もいらない。授業も教室も生徒も教師も蚊帳の外、僕は鳥の鳴き声を聴いていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?