白い部屋
側に腰掛けて彼女は遠くを見つめている。それはすぐそこにあるものを見ているようにも見えるし途方も無く遠い彼方を見ているようにも見える。
僕に話しかけているわけでもなく彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
「ここにいるといろんなことを思い出すのよ。その都度いろんなことを。感じて思って考えたり紡いだりしたことを」
僕は何も言えなかった。なんて言っていいのかもわからなかったし返事していいのかどうかもわからなかった。
彼女はどこかの遠い過去の思い出に向けて、目を細めながら懐かしそうに言った。
「それで気づくの、自分に何の価値もないことに」
5月みたいな風が2人の間を通り抜けた。
初秋だった。