「世界でいちばん長い写真」(誉田哲也作)を読んで感じたこと
けっこう前から本を読むことが好きです。特に漫画と小説はよく読みますね。
最近、せっかくカメラを仕事にしているので写真やカメラに関する小説がないかと探していると、有名どころで誉田哲也さんの「世界でいちばん長い写真」という本を見つけました。(誉田さんというとストロベリーナイトなどのミステリー&刑事ものが有名かもしれませんが、疾風ガールなどの青春小説も個人的に好きです)
内容はフィルムカメラ(といってもかなり特殊)がメインですが、写真というものについてかなり考えさせられる内容だったので、写真に携わる方は読んでいただけるとかなり楽しめると思いました。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
この本の中で出てくるのは、「スーパーパノラマ撮影カメラ」とも呼べるもので、フィルムカメラを独自に改造して360度撮影できるようにしたものです。物語中盤からはそれを超えて、何十メートル・何百メートルも印刷できるようなパノラマ撮影ができるカメラが登場します。
ある製作者が改造したこのカメラを主人公が手に入れ、四苦八苦しながら素敵な作品を撮れるようになる姿を描いているのですが、わりと最初の時点で主人公はかなり素敵な作品が撮れてしまいます(自分の周り360度をあるものが埋め尽くす美しい写真)
しかし彼は早い段階で素敵な作品が撮れてしまったことで、ある疑問を抱きます。「これを超えるような被写体はあるのか?何を僕は撮ればいいのか?」と。
その後、主人公はカメラの製作者と会うことになります。そこでカメラの改良が重ねられ、360度どころか何回転も撮影できるカメラが完成していることを教えられます。
しかしそんなカメラを作った製作者も悩んでいました。「こんなカメラを作ったのはいいが、何が被写体としてふさわしいのか」
確かに自分の周りを何回転もさせて面白い写真を撮れる場所というのは、かなり難しいと思います。
そして製作者はある1つの被写体に出会いました。それが「世界でいちばん長い写真」につながっていきます。
というのが大まかなあらすじです。
「いい写真を撮る」=「いい撮影体験をすること」
みなさんがカメラを持って写真を撮ろうとする理由って何でしょうか?
人それぞれ理由はありますが、当然「目の前の風景を記録するため」「いい写真を撮って人に見せるため」という理由がかなり大きいんじゃないかと思います。確かに「写真という形に残し、きれいに撮りたい」というのがカメラが人気の理由だというのは間違いありません。
一方で「写真を撮っている瞬間が楽しい」「(ポートレート写真など)誰かといい写真になるように試行錯誤するのが楽しい」という意見もあるかもしれません。
この小説の中でもそんな楽しそうな撮影風景が描かれています。
(何回転も回るカメラがあったらそれは面白いでしょう)
詳しくは読んでいただきたいですが、撮るほうも撮られるほうも準備とコツと工夫が必要なので、撮影自体が楽しいのです。
(おまけに当然のフィルムカメラなので、一発勝負でちょっとしたミスも起こる)
仕事でカメラマンをしていると、もちろん最大の目的は「依頼された内容でクオリティーの高い写真を撮ること」です。
しかし同時に提供したいのは「撮ってもらった。撮影が楽しかった」という「撮影体験」でもあります。
おそらく七五三や成人式、結婚式など一般の方からの撮影依頼ではこの「いかに素晴らしい撮影体験も提供できるか」というのが大切になってくると思っています。
もちろん仕事でカメラを扱う場合だけではありません。趣味で写真を撮るということにおいても、撮影自体が楽しいからカメラが好きという人も多いでしょう。
そんな「撮影体験の大切さ」をあらためて感じさせてくれる小説でした。