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富士フィルムのストリートスナップ動画炎上事件で改めて考える「ネット時代の発信」について

こんにちは、フリーランスフォトグラファーのまちゃるです。

カメラや写真の話題にあまり関心を持たれない方はご存しないかもしれませんが、ここ最近、少しカメラマン界隈で話題になっていることがありました。

大手カメラメーカーの富士フィルムがカメラの新発売にあたり、プロモーションビデオをネット上で公開したのですが、この動画が物議を醸しました。
動画はストリートスナップ(街なかなどで日常風景を瞬時に撮影する手法)で有名なあるカメラマンの撮影風景を追ったものなのですが、無許可(と推測される)でしかも嫌がる通行人を無理やり正面から撮影するものだったのです。

このルール無視の撮影方法を一流企業の公式動画として公開した挙げ句、批判が相次いだことから公開後すぐに、富士フィルムが動画とホームページの該当箇所を削除。その後、ホームページで謝罪コメントを発表するという騒動に至りました。

当該動画はその後も複製・違法ダウンロードを続けられていますが、直接のリンクは問題があるため、ご覧になりたい方は自己責任で検索をお願いします。

この騒動を受けて、動画に登場したカメラマンへの個人攻撃や富士フィルムの製品に対する批判、ストリートスナップそのものへの攻撃など泥沼の様相を呈しています。

そういった議論や意見に関しては、検索で無数に出てきますのでご覧いただければと思います。

カメラで生計を立てているフォトグラファーの1人として、個人的に思うことは多々ありますが、今日は今回の騒動で最も感じた「インターネット時代の発信とはどうすべきか?」について書いてみます。


一流企業がなぜこのような発表と対応をしたのか

今回の騒動で僕が最も疑問なのが「一流の企業であり、これまでしっかりと広報を行ってきた富士フィルムがなぜこのような物議を醸す動画を公開し、その後の対応を誤ったのか」という点です。

この騒動をTwitterで見た直後につぶやいたことですが、正直「写真撮影についての議論を呼びかける動画か炎上商法だろう」と思っていました。
それくらいあの動画はカメラや写真に日ごろ触れない方が見ると、嫌悪感を抱くものだろうというのは容易に予想が付くからです。

上の流れで言うと「炎上」の段階で僕は騒動を知ったわけですが、その後すぐに「非公開」となったのを知り、「すぐに何らかのコメントが出るだろう」と予測していました。

しかし実際は半日以上も放置され、出てきたコメントも上の発表のようにいたって簡素で、とても閲覧者の疑問に答えるようなものではありませんでした。
この点については今後の富士フィルムの対応も見たいと思いますが、とても一流企業らしからぬ絵にかいたようなお粗末な対応の例としか言いようがありません。


「写真を公開する」というのはとてつもなく難しく、危険な賭けである

少し個人的な体験になりますが、僕自身も「写真を公開する」ということで良い思いも悪い思いも日々味わっています。

①ある雑誌の依頼で街の風景を撮影して掲載したところ、写っていたカップルからクレーム。調べたところ浮気現場が写っていたらしい。
②同じく街の風景を雑誌に掲載していただいたところ、「通行人の中に行方不明になった家族がいる」と連絡。後日、その写真を手掛かりに見つかったとのこと。
③個人的に掲載した花の群生地の写真に対し、「花を踏み荒らしている」とクレーム。実際は望遠で群生地の外から撮影したものだが、納得せず一方的に拡散される。

この手の公開した写真へのクレーム、トラブル、逆に良いことは挙げればキリがありませんが、写真に関わる方なら多かれ少なかれ体験されているのではないでしょうか。

ネットやSNSが爆発的に発達し、写真を通じて誰もが交流出来たり、情報共有できるというのはとても素晴らしいことです。
その反面、ネットが発達する前のカメラ業界・写真愛好家界隈にはなかったようなトラブルも生まれてきました。そしてその情報が一気に拡散されるようになりました。
(不法侵入や肖像権・著作権など各種権利侵害など)

これだけ発達したネット社会において、「写真を公開する」というのは恩恵が大きい一方、負の側面もかなりあります。本来は高度なネットリテラシーや写真の権利に対する知識、トラブルへの対処法を知っておかなければいけない難しいもので、状況によっては危険な賭けにもならざるを得ない危険性をはらんでいると僕は思います


「インターネット時代の情報公開」=「第3者に自分の主張を認めてもらうこと」

実は自分は大学時代は法学部に通っていたり、カメラマンをしながら少しだけホームページ運営やSNS管理のアドバイスなどをさせていただくこともあります。

法律的にはおそらく「肖像権」と「表現の自由」の狭間に位置するような微妙な事例かと考えていました。
動画に写っているようなカメラマンの振る舞いが少しだけ異なった場合や周りの状況で、黒にも白にもグレーにもなりそうな事例かと思います。

法的にはnoteでその分析をされている伊藤建さんという弁護士の方の解説が分かりやすいかと思ったので、よろしければご覧ください(少し法律用語などは出てきます)


もう1つの「インターネットでの発信とそのトラブル対応」について、今回の事例で再認識したことをまとめておきます。

僕はこれだけインターネットが発達した時代において、発信者にとって最も大切なことは「自分がAというものについて書いた時、Aの当事者や関係者以外の第3者が自分の発信をどう見ているか?」だと思ってきました。

これは法律の考え方にも近く、当事者と対象者、被害者と加害者といったトラブルや事例の直接関係者だけの主張で、どちらかの責任かや解決方法を探るのはとても難しいということです。
だからこそ裁判を中心とした第3者による様々なトラブル解決システムが準備されています。

これをインターネットの世界に当てはめると、ブログの記事にコメントしてきた読者、Twitterにリプを送ってきたフォロワー(フォロー外もあり)など、自分と対象者のやり取りを見ている第3者がそのやり取りに何を感じ、どちらの主張に理があるかを判断するということです。

今回の富士フィルムの事例で言えば、当事者の富士フィルムは炎上後すぐに動画を非公開にし、そのあと簡単な謝罪コメントを出すという対応に留まりました。
しかしその後は非公開動画を録画していたネットユーザーによって動画が拡散され、いまだに尾を引いているというのが現状です。

確かに「動画の炎上」→「動画の非公開」→「簡単なコメントのみで静観」というのは1つの対応法なのかもしれません。1度起こしてしまったネット上のトラブルはなかなか回復できないのも現実です。

ただこれだけネットが発達すると、これまで当事者やその周りの一部の興味のある層だけにしか広がらなかった炎上がより広い範囲に広がり、これから顧客になる可能性がある層や下手をすれば社会全体に不信感を生んでしまいます(実際に今回もカメラへのネガティブキャンペーン、ストリートスナップへの嫌悪感が広がっています)

やはり富士フィルムとしては、公開した動画にどんな反応が起こるのかやそれに対してどうアプローチしていくかへの想定があまりにも弱く、より広範囲の第3者が今回の騒動をどう受け止めるかへの思いが至っていないように思います。


今回の騒動から個人として学べること

今回の騒動で問題になった主要なテーマである「肖像権とストリートスナップ」「表現の自由」に関しては多くの方が述べられていますし、もし機会がありましたらその時にまとめたいと思います。

個人的には、ストリートスナップやカメラマン全体に対するネガティブなイメージを多くの方に抱かせたという点でとても残念で、腹立たしい思いもありますが、それでもこれを反面教師にカメラや写真というものについて考えていかなければいけないと考えています。

そして今回の事例は富士フィルムという超大企業が起こしたネットによる炎上とその対応策の大失敗ということを示しましたが、これは個人の情報発信にも生かしていける教訓だと思っています。

結局は、インターネットでの発信はそのスピードも規模もとてつもなく早く強いものである以上、より大きな責任が伴いますし、発言がどう受け止められるかの想像や寄せられる反応に対応していく覚悟がやはり大切なのだと改めて感じました。

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Masaru Nakanishi @石川県金沢市のフォトグラファー&写真講師
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