⑦"生命の味がする天然塩"って、何が生命の味なの?
この「生命の味がする天然塩」は、自然と時間、人の手が絶妙なバランスで助け合いながら生まれます。過剰な人の手や余分なモノは入らず、時間をかけて生み出す自然の恵みです。
生命の味がする天然塩はこうやって作っています。
・満潮時に広大なマングローブの原生林を経て、海水が塩田に届きます。
・その塩田の土は潮の干満の繰り返しで肥沃な栄養分を含む土になります。
・その土を取り出して積み上げます。
・その土に含まれた水分を重力だけで濾します。
・時間をかけて滴り落ちた水を鉄鍋で5時間煮込んで水分を蒸発させます。
・その鉄鍋に沈殿する白い顆粒が塩です。
・それらを丁寧に掬い取り、さらに重力だけでにがり分を切る。
・よく乾燥させたら出来上がり、「生命の味がする天然塩」の完成です。
この塩を”生命の味がする”と言うのは、実際のところ生命に明確な味があるとは思ってはいませんが、「もし味があるならば…」こんな感じではないだろうか、という想像に基づくイメージです。
この塩を舐めてみると、さやかな塩辛さの後にほんの少しの甘みを感じる。言葉では表現しにくいのですが、深い部分に旨味とも言える後味があることに気が付きます。今まで味わったことが無い、土や植物とは違う何かの風味です。きっとマングローブの原生林を経ていることから、熱帯特有の小生物の生態が影響しているのでは、と考えました。マングローブの根は放射状に立ち上がって広がり、その内部は外敵から命を守る小生物にとっては恰好のシェルターになります。潮の干満の繰り返しで海水は上下左右に揺れて特殊な生態系が構成されます。これが塩の深い味わいに繋がるのではないだろうか?と考えました。マングローブの根もとに潜む貝やエビ、カニ、ハゼなどの小生物、その生命を育む生態系が生み出す天然塩、これを”生命の味がする”と表現しました。
この塩に出会ったのは偶然でした。ユーチューブを見て、気になって…。で、いつもの悪い癖が出てその現場を見たいと思い、実際に各方面に無理を言って塩作りの現場へ行きました。そこで出会ったのが今も120年前の製法と道具で塩作りを続ける職人さんたちでした。気の良い人たちで、私達は何時間もおしゃべりを続けました。そこで塩作りの喜びだけでなく、彼らの苦悩も知りました。安価な化成塩に押されて価格を上げることができず、儲けが少ない塩作りを諦める職人が続出しているそうです。跡継ぎどころか、現役の職人が諦めて違う職種へ転向してしまう現実。生活のために塩作りが本業では暮らしていけず、家族が別業種の本業を持ち、塩作りが副業のような状態であること。
20年前は100人を超える塩作り職人がいた村で、今でも塩作りを続けているのは数名だけになっていました。絶滅危惧の塩になっていました。
この"生命の味がする天然塩"は、その継続も危うい状態でした。まさかの事実、"生命の味がする天然塩"自体の生命の危機でもありました。文字どおりの生命の味でした。