ZOZOマリンスタジアムの彼氏と彼女
とてつもなく暑かった2023年の夏の思い出の中でも、一生忘れないかもしれない7月22日のお話。
Black Summer Weekと銘打たれた千葉ロッテマリーンズの試合観戦に向けて武蔵野線に揺られる。
コロナ禍の時期を挟んで、3年ぶりか、あるいは4年ぶりになってしまうのかも。
以前は年間30試合も観戦していたけれど、久しぶりのマリーンズ戦の現地観戦に緊張している。
観戦ルールや応援のお作法はどれくらい変わっているのだろう。そして、僕はどんな表情で応援席につくのだろう。
2007年、僕は10歳の彼とともに千葉マリンスタジアムを訪れた。
ドラフト1位で入団した同じ郷里出身の投手が登板する2軍戦を観戦するためだった。
そして僕らは、千葉ロッテマリーンズの大応援団「TEAM26」のすばらしい応援風景を目の当たりにする。
あまりにも格好の良い応援に圧倒され、その日のうちには「TEAM26」の、そして千葉ロッテマリーンズのファンになってしまった。
それから6年の間、僕らは、彼の中学受験や僕の単身赴任の合間を縫って、機会を見つけてはマリーンズの応援に行った。
中学に入った彼は、バカ親が買い与えたFenderのジャズベースに夢中になり、僕とマリンスタジアムに行く機会も減ってしまった。
それでも、彼が高校生の時と大学生の時にはSummer Sonic(サマソニ)を観にマリンスタジアムに出かけてQUEENやNoel Gallagherの演奏を楽しむ機会にも恵まれた。
それから数年が経って、社会人になった彼と二人で飲んでいるときに、彼は僕に言った。
「僕さ、彼女を初めてお父さんに会わせる場所はマリンにしたいんだよね。」
一緒に暮らしはじめた彼女がいかにすばらしい人なのかを丁寧に説明し終えた後、ぼそっと息子は言ったんだ。
息子は、彼女の彼氏になって、今では二人してマリンスタジアムに行っているとのこと。彼らの大学の同期に当たる選手が32番を付けて活躍していることも相当に効いているみたい。
そんなわけで、その日、僕は、息子から彼の彼女を紹介された。
海浜幕張駅に着いて、サイゼリヤでピザとビールのランチ(ほら、さっそくオタオタしている。)を済ませて、駅前からスタジアムまでの100円のバスに乗る。
数分の車中で息子からのLINEをみるとスタジアムの側にあるショップの行列に並んでいるとのこと。
行列をさかのぼっていくと、いたいた、背の高い彼女の隣でサッポロ赤星の500ミリ缶をあおっている息子(なんかえらそーだぞ)。
行列に合流して、お互いにそつのない「はじめまして。」をして、「一緒に来ていた頃はショップで行列なんかなかったよねー。」とか話す息子から来場プレゼントのクーリッシュをいただいて。
さて、いよいよ入場。
熱中症対策のソフトドリンクを除いては飲食物の持ち込みが厳禁になっていた(柿ピーはチェックを免れたのでお菓子類は認められているみたい。)。4年前はまだ入場時に紙コップへの注ぎ換えのサービスがあったのだけれど、まあ、御時世に沿った適正化と納得。
息子が手配してくれたチケットはホーム側ベンチ上のとても良い席だった。僕からは、「(この日予定されていた)花火が見やすいところ」とだけオーダーしてあったのだけれど、彼女を紹介する特別な日の特別な席として奮発してくれたのだと思う
Black Summer Week仕様のユニホーム(この日のチケットに付属していた。)を三人して羽織ってから、「じゃ、とりあえずこれでスタートね。足りなくなったら補充するね。」と言って息子に千円札10枚の束を握らせた。
息子と彼女はビールとチキンとポテトのセットとかを買ってきてくれた。ビールがすすむ。僕が好きなサッポロ黒ラベルの売り子さんを狙い撃ちしてPay Pay決済でどんどんビールのカップは重なっていく。海浜幕張からほど近い南船橋の工場で作られるサッポロビールはことさらに美味しい。
お酒は飲めないという彼女はアホみたいなペースで飲む親子を賢そうなまなざしで穏やかに眺めている。いや、彼女が引いていることくらい僕にだって分かる。
彼氏と彼女は僕にものすごく気を遣ってくれている。
1回の表にさっそく対戦相手のホークスに先制を許すもその裏にはすぐさまマリーンズが逆転。両チームともに継投を重ねての接戦。マリーンズの坂本光士郎投手の登場曲「愛の世代の前に」(浜省!)がカッコいい。福浦コーチの背中にグッとくる。ホークスの柳田選手はスタンドからみてもとっても大きい。巷で評判が悪いおかっぱ頭はやっぱりなんか変。
Black Summer Weekの目玉のひとつ5回の裏の花火は彼氏と彼女を祝福するようにとても華やかできれいだ。
応援歌を歌って、チームタオルを掲げて、拍手をたくさんして、マリーンズは延長戦を制してホークスにサヨナラ勝ち!
スタジアムを出て、今はアパホテルに変わっている旧幕張プリンスホテルを見上げながら「七五三はここでやったね。」とか話しつつ三人で歩く。ちゃっかり手をつないでいる彼氏と彼女がほほえましい。
海浜幕張駅にたどり着くと、彼らが乗る電車は出発の2分前。
「今日はありがとう。さあ、急いで。」って急かしても彼らはなかなか改札を抜けようとしない。
と、一瞬の間に、息子がポケットから出した1万円札を僕のリュックにねじ込んで、すぐさま彼女の手を引いて改札を抜けた。こどもみたいな笑顔の彼氏と、軽い会釈の彼女。
ZOZOマリンスタジアムの彼氏と彼女、今夜は本当にありがとう。
また一緒に応援してくれるとうれしいよ。チケットを用意する前に連絡するよ。