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10月9日(水)の日記:不思議なトースト

朝目覚めたら、ベッドの上に巨大なトーストが置かれていた。もちろん、私が食べた覚えはないし、昨日買ってきたパンは普通のサイズだったはずだ。それでもお腹が空いていたので、巨大トーストにかじりつく。トーストの裏面には、何故か「あなたの運命はバターに塗られる」と焼き印されている。深い意味は分からないけれど、なぜか納得してしまう自分が少し怖い。

朝食を終えて、散歩に出かけることにした。外に出ると、いつもの通りが氷でできた川になっているではないか。靴が冷たい氷に触れると、その瞬間、靴がスケートシューズに変わった。驚きもせず、私は自然とスケートを始めた。すれ違う人々も同じようにスケートを楽しんでいる。普段は自転車に乗って通勤するおじさんまで、スケートで颯爽と通り過ぎていく。まるで誰もがプロのフィギュアスケーターだ。

そのままスケートで会社に向かう途中、道端の自販機が話しかけてきた。「ちょっと、飲み物じゃなくて、君に人生相談があるんだ」と。思わず足を止めると、自販機は大きなため息をついてこう言った。「最近、売れ行きが悪くてさ…。みんな、氷の川を滑ってるから、水が必要ないんだ。僕の存在意義って何だろう?」どう答えたものか分からなかったが、「きっと何かの役に立つよ」と励ましてみる。自販機は少し元気を取り戻したように見え、何かを吐き出した。見ると、中から冷えたカレーライスが出てきた。どうやらこれはお礼らしい。

会社に着くと、ビルが上下逆さまだった。入口が天井にあり、エレベーターに乗るためにはビルの外壁を登らなければならないらしい。どうやって登るのかと眺めていると、同僚が「ああ、今日は逆さビルの日か。よくあることさ」と言って、ゴムでできた靴下を取り出した。どうやらそれを使うと壁を歩けるらしい。私もその靴下を借りて、無事に会社に到着した。逆さビルの中では、机や椅子が天井から吊り下げられていて、まるで逆さの世界にいるような気分だ。いや、実際に逆さなのだが。

仕事を始めようとしたら、デスクの上に植木鉢が置かれていた。よく見ると、中には小さな人間が住んでいる。「水をください」と頼まれたので、手元のカレーライスにかけていたスプーンで水を注ぐと、小さな人間は喜んで踊り始めた。どうやら、水をもらうと踊る文化があるらしい。仕事が進まないが、彼らの踊りを見ていると不思議と心が落ち着く。

午後になると、上司から呼び出しがかかった。いつもの会議室に向かうと、今日はなぜか会議室が海の中に設置されていた。会議に参加するには、シュノーケルとフィンが必須だったらしい。周りの同僚はイルカと一緒に会議を楽しんでいる。内容は至って普通の業務報告だったが、イルカの「クリック音」に対して、上司が「その提案は面白いが、予算がない」と返事をしていたのが印象的だった。

夕方、仕事が終わる頃には、空が真っ赤に燃え上がっていた。火事ではなく、どうやら今日は「夕焼け強調日」だったらしい。空を覆う赤い雲の下、街中の建物が次々と赤く染まっていく。自分もその光景に吸い込まれそうになり、思わず手を伸ばしたが、なんとか我に返る。家に帰る途中、パン屋の店先には「今日のおすすめ:燃えるクロワッサン」と書かれていた。燃えるのは良くないんじゃないかと思いながらも、買ってみると、口の中でふんわりと温かく、少しだけ火花を散らしていた。

家に帰ると、ベッドの上には再び巨大なトーストが置かれていた。


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