新迫という男との話
「新迫部活やめるってよ」
「なんかそんなタイトル聞いたことあるな笑」
「いや、マジで。」
「は??」
そんな話をした。普通に混乱した。
忘れもしない。
夏が過ぎ去り、急に寒くなった10月4日のこと…
5日だっけ?…6か。
てか、暑かったか。
忘れた。
まぁ、そのへんの日のお話。
あまりに急過ぎる情報に困惑しながら、気付いた時には携帯の画面をバコバコ叩き文字を打ち込み、新迫に連絡していた。
画面が割れていたら、どうしてくれたんだまったく。
「今日、晩ご飯いこ」
「いーよ」
二つ返事で予定が決まった。まぁいつものこと。
近くのお店に入り、何から聞いていいか分からず、
とりあえず飲み物を頼んでお疲れ様の乾杯をした気がする。
「で、本当にやめんの??」
「うん、そういうことになったわ笑笑笑笑」
いや、そんな話をいつもみたいに笑いながら話すな。
こっちが泣きそうになるだろうが。
「もっと早く教えといてよ」
「おれも昨日、言われたんだって笑」
あ、そうなん。
そりゃ分かってたらすぐに言ってくるわな。
なんか意外と平気そうじゃん…
そんなことまで思ってしまった。
「うま〜、やっぱ誰かと飲む酒は美味いわ〜」
新迫はビールを、ビールが苦くて飲めない自分は梅酒を飲みながら話した。
「でもさ、昨日の酒が美味くなくてさー、全然飲めずに残したんよね〜」
そうポツリ呟いて美味しそうにまたひと口飲む。
当たりまえじゃん。そんなの当たり前。
ビールが飲めない自分に、
「走って汗かいた後に飲むビールが最っ高に美味いんよ〜」
いつか、そう教えてくれたの新迫だろ。
君にとって、走って汗をかいていない時に飲むビールが"最っ高"じゃないことはおれにもわかる。
もう10年以上の付き合いなのに騙されかけた。
こいつ全然、平気じゃないわ。
「とりあえずまた、中島も呼んで集まろ」
その日は早めに解散した。
帰ってからは、今まであったことを思い出してた。
高校の陸上部で3年間唯一、同じクラスだったこと。
3年の時にはキャプテンと副キャプテンになったこと。
キャプテンとして色々悩んでチームのために頑張る新迫と、1年間副キャプテンとして何もしなかった僕のこと。
寮生活、放課後の部活、授業、晩ご飯、日曜日、お風呂、テスト勉強、買い物、インターハイ…
まじで、どこにでもいたな笑
陸上を本格的に始めた中学生の時から社会人まで、
追いかけて、並んで、競い合った人が、
そんな急にいなくなったら、自分の陸上人生では大事件です。
わかってる???
そうはいっても、とりあえずお疲れ様。
新迫の分まで頑張って走るわ。
なんて簡単に言えるか!
自分のことでも精一杯なのに、そんなスター選手の分まで頑張ったら3日で心も身体も疲れ果ててしまうわ!
だから自分はとりあえず、頑張って結果出して、
テレビとか出て、それを見てくれて、
なんかまた走ってみよっかなあ〜
って思ってくれたらいいな。
ただ、なるべく早めに思ってほしいな。
それまでなんとか、この脚は止めないでおくから。
ゆ〜っくり走る練習にでも付き合ってよ。
なんか、泣きそうになってきたわ。
おわりおわり笑笑
チョコしか買わん。