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ギリギリな時はこのアパート住人に会いに行けばいい【漫画「コーポアコーポ」】
あらすじ
岩浪れんじによる漫画『コーポアコーポ』は、大阪の古びたアパート「コーポ」を舞台に、訳ありな住人たちの人生が絡み合う人情群像劇です。物語は、住人たちの日常と過去が織り交ぜられ、それぞれの苦悩や葛藤を浮き彫りにしながら展開されます。アパート内外でのエピソードが連鎖し、住人同士の関係性が複雑に絡み合う中で、昭和のレトロな情緒も感じられる作風が特徴です。
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ストーリーの魅力
『コーポアコーポ』は、登場人物の生々しい人間ドラマを描く一方で、独特のユーモアと温かさを持っています。住人たちは、一見平凡ながらもそれぞれ秘密や問題を抱えており、物語が進むにつれその背景が明らかになります。読者は彼らの喜びや悲しみに共感し、次第に引き込まれていきます。特に、アパートという閉鎖的な空間で交錯する住人たちの関係性は、どこか懐かしくも切ない感情を呼び起こします。
中毒的な魅力
この作品が多くの読者を惹きつける理由の一つは、「人間関係のリアルな描写」と「先が読めない展開」です。住人たちの心情の変化や、彼らが過去に抱える痛みが徐々に明らかになることで、物語に没入感が生まれます。また、昭和レトロな情景や、どこか哀愁を帯びたアパートそのものが、作品全体の雰囲気を深めています。連続ドラマのように、各話ごとに異なる住人の視点が描かれる構成も読者を飽きさせません。
読者へのメッセージ
『コーポアコーポ』は、日常の中に潜む小さな幸せや悲しみを丁寧に描くことで、誰もが感じたことのある孤独や温もりに触れることができる作品です。レトロな情緒を楽しみながら、どこか現代にも通じるテーマに気づかされるでしょう。
感想
映画化を機に気になっていたが配信は来ず、古本屋でようやく百円で売り出されていたので読んだ。
色んな過去からなんとなくアパートに行きついた住人らが自然と玄関で顔を合わせ、誰も干渉しないまま毎日関りあっていく様が優しく丁度いい。
この作品の良いところは住人や彼らと関りを持つ人間全員の複雑だらけな過去を詳細にきちんと描き切り、成り行きのままにまたアパートの話へ放置してくれることだろう。
映画では物語として彼らのきちんとした解決策が掲示されないことに批判的な人もいたようだが、複雑な現実に対して早々上手い解決策は掲示されることもないことを見せるのがこの作品の良さである。
現実には真っすぐに進んで生きられる人ばかりではなく、一旦保留できる生活がなければ今がやりきれない人もいる。一言二言では人には語りづらい過去を持っていても、ぼちぼち生きていれば良いこともあるかと思わせるのが作品の魅力である。
それぞれの過去やアパートの外の複雑な事情はよく描かれるが、住人らはわざわざそれを深く訪ねたり自ら話すこともしない。それは彼らも同じようによく分かっているからである。
個人的に好きなのは、住人が土方現場で出会った女子大生ちゃんの存在である。彼女はおっとりしたまま真っすぐ大学進学から就職の道に進んだ純粋で普通の女子大生。
原作ではアパートにも何度か訪れるようになるが、住人の彼らに純粋に興味を抱いていき表層的な質問から少しずつ見えない人となりを知ろうとしていく。その様が作品では少し異端な存在になるのが面白くなる。
しかし彼女が何かを聞いても彼らの答えの口実は建前で自然と一致していたり、慣れたジョークではぐらかされる。彼らもそういう現実の術には慣れているのが彼女の存在を通じてしれっとした所でうかがえる。
またタバコ交換おばちゃんの存在と過去も詳細に見せたのもこの作品の良さであり優しいところ。映画ではなかったらしいのでこの辺は原作を読むことを勧める。
舞台が関西なのもまた温度を感じれるところもあるのだろう。社会からは外れる正しくないものでも関西弁なら大体は涼しく受け入れられてしまうような不思議な力もある。細かい関西ネタ散りばめられてるのも時代感じさせる。
住人は確かにみんな若いからか読み進めると徐々に大家のおじいさんの方の視点もいく。複雑な事情も歳と共に過去として段々忘れて寝てしまうのが待っているならそれでいい気もしてくる。
「あっちの方はもうお役御免になった」といえる爺さんになっていきたい。