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高知出張1日目・豚モツと文章と/2025年2月5日(水) 生活者になりたい31
朝5時に身体を起こし、身支度をしながら水筒の茶をつくる。
できたての茶を一口飲んで、コートのボタンを首元まで閉めて最寄り駅までキャリーケースを持って歩く。軌道を吹き貫く風に身をすくめ、遠くに見えるはずの電車のライトを待つ。寒さには強い自負はあるが、今日の冷え込みはしばらく高知に通うこれからを不安にさせた。
首をがっくり垂れたエッセンシャルワーカーや出張族を、がたごと路面電車は運んで行く。朝6時に伊丹空港へバスが出発し、7時25分にボンバル機が飛び立ち、レンタカー屋で手続きをする。何十回も経験した道程だ。
それから私はハンドルを握りながら旅程と今日の取材内容を説明し、信号待ちでお茶を啜ってサングラスを着ける。行き先が違うだけでいつも同じ旅の始まり。
遠方出張の恐ろしさはその一回性にある。
綿密に調べても天候や不慮のトラブルで挽回不能になることもあって、昼食以外に息を吐く暇もない詰め込んだスケジュールになることがよくあった。
多忙なスタッフの日程は何週間も前に抑えてある。さらに一軒いくらの依頼ゆえ、一日1-2軒だと申し訳ない気持ちになってくる。だからその葛藤が生まれるたびに心で第三者委員会が開かれてきたのだが、自分ももう随分年を取った。遅すぎた卒業かもしれないけれど、その詰め込みパズルは今年で捨ててしまおう。スタッフに気持ちよく働いてもらいたいし、よい加減を見つけていく。
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この日は愛媛よりの嶺北地域から高知市内を回って計3軒。
日記の元祖である紀貫之から現在まで、政治家やマンガ家も含む名文家や文人墨客を高知県が大量に輩出してきた理由を考える一日。
上辺を四国山地、三方を海というスケール感のある自然に囲まれて、隔絶されて生きてきたゆえに形成されるものは大きいだろう。それだけでなく、「人に伝える」という他者への根源的な指向性の強さを感じる。ただ「若者が遊ぶところが少ない」というのもあるだろうけど。
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夜、常宿で仕事をしてから[弐階屋]へ。メニューの9割9分が豚のモツという逆ヴィーガンな店で、行ったことはないが京成立石の[宇ち多]によく似たスタイル。同道するのは20年前に1年だけ同僚だった高知の友人・西村さんだ。
アラサーから学びなおして薬剤師になった彼女は、現在は地元・高知の大学病院で働いている。本作りにもさまざまな協力をしてもらっていて、特に音楽関係のバーや酒場の情報収集には彼女の協力が欠かせず、かつて「ミナミの深海魚」と呼ばれた実力を今なお発揮している。
それはただの酒好きという言葉では括れなくて、人間臭く、時に面倒臭い我が道を行く人々が集う場所を、色眼鏡で見ず楽しんでいるということだ。どこの街で暮らしても、しっかり深部まで入り込んで楽しんでいる姿勢はとてもオリジナルだ。そんな人だから、書く文章も当然おもしろい。
梅津酒造のにごり酒「笊」のソーダ割りとイリカスやカシラ、アブラをいただく。混んできたので移動した久々のバー[満月]でも、延々と文章の話をしていた。雪がちらつく外に出てタクシーに乗る彼女を見送り、自分は常宿への道を急ぐ。
明日は7時にホテルを出発する。寝る前に町田康『俺の文章修行』を少し読んだ。
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