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パンダの群れと見つめ合う/2025年1月19日(日) 生活者になりたい14
疲労困憊の状況で起き上がり、親子三人自転車で天王寺へ行く。
もう考えてもわからんし、某塾が開催している無料の学力診断テストを受けてみようの日。息子が生後初の学校以外の試験に立ち向かうまさにこの時、全国各地で中学受験が行われているのだ。
試験の間、夫婦で説明会を聞く。いわば塾にとってハレの日、まだお客さんではない我々に、驚異的な熱量で話が展開され素直に脱帽する。その熱量のいくらかの割合は、急激な少子化への危機感が占めるとは思うが、35年前に体感した塾の先生の佇まいからはほぼ何も変わっておらず、実家に帰ってきたような謎の肌馴染みを感じていたのは確かだ。
結果として大変ためになる説明会で、来てよかったと妻も言った。入口で待っていると、試験の部屋から出てきた息子は、憮然3割・苦笑い4割・安心3割といった見たことない表情で、夫婦で頭を撫でて「えらい」「えらい」「ようやった」「ようやった」と褒め続け、それはビルの一階にエレベーターが到着するまで続いた。
息子はルシアスにある書店へ走っていく。真横から見るあべのハルカスはいつも細くて、天王寺動物園のキリンにハルカスという名前を付けた人はファインプレーだと思う。「あべの銀座」という、新世界へ続く商店街の跡地にできたプチ飲食街に、11時半にして人が並び始めている。冬の見本のような黄色がかった底抜けの空色の下。
息子は『ドラえもんの科学ワールド』を手に取って、これだけドラえもんのシール入ってる! とパウチを見て嬉しそうだ。レジへの道中、自分はやにわに星座のお風呂ポスターが入った筒を手に取った。電気を消すと星が光るという売り文句は、あまりに魅力的過ぎないか。
普段行かないゲームセンターにも足を向け、100円を握らせてあげる。UFOキャッチャーの巷を往復すること10分あまり、彼が指差したのは、5センチほどの大きさのふわふわのパンダの群れだった。
地面に直置きの小さな筐体は幼児向けだろうけど、大きな身体を折り曲げて向き合う。息子の顔に青いライトが映り、次いで虹彩にオレンジが入って、きれいだなと思った。
1回目はあっけなく成果なしに終わった。息子が振り返る前に、もう1枚握っていた100円を手のひらに滑り込ませた。ありがとう、と正座に直って向き合う。すると彼が操るアームは4つを力強く鷲づかみにし、この上ない確かさで運んで吐き出し口に落とした。
満面の笑顔で飛び上がる息子。この弾けるようなこころが損なわれなければ塾なんか小さすぎることだが、残念ながらそうはいかないんだろうな。けたたましい音の中で、第一志望の大学の雪の合格発表を思い出していた。未だに呼吸が浅くなる。無邪気に喜ぶ息子の顔を見て胸が苦しくなり、少し先を歩いてなぜか出てきた涙を拭いた。
100均をハシゴしてUFOキャッチャーのペーパークラフトを買った頃には、どの飲食店も長蛇の列になっていた。仕方なくキューズモールのフードコートで適当に食う。
黄緑・紫・赤・茶色のパンダは、それぞれ長堀鶴見緑地線のつるみくん、谷町線のたにまちくん、御堂筋線のみどうくん、堺筋線のさかいすじくんと名付けられ、とんかつ定食を食う私の前に並んでその様子を見つめてくるのだった。
胃が悪いのをすっかり忘れていて、とんかつは半分も食べられなかった。
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お前が丸くなるんかい、ほんでマルクナールそのものは一体なんやねんと、5秒くらいの間に突っ込んだ