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浮世離れと謎の五つ子/2025年1月20日(月) 生活者になりたい15

むっくり起き上がって、支度をしてから四畳半。

随分早起きに慣れてきている(老いかもしれない)。メールチェック、日報、ゲラをできる範囲でこなして出社。土曜の疲れがまだ抜けないが、書き物はいくらでもやりたいという気概だけはある。

社を飛び出して昼に2時間、松竹座にデンして孝・玉コンビ(片岡仁左衛門と坂東玉三郎の人間国宝コンビ)で今月二度目の浮世離れ。

玉三郎さん74歳、仁左衛門さん80歳。老境の気配は隠せるものではないが、人間の色気は加齢によって減じられるものではないのがよくわかる。できる限りの研鑽と進境を重ねた人類の、ひとつの完成した姿が舞台で躍動している。それにしても、歌舞伎や文楽の話ができる友だちがいつまでもできない。オカンだけである。もう義太夫でも習いにいくしかないのか。


秒で俗世に帰宅、宿題をしている息子を横目にまた四畳半。

仕事の依頼書を丁寧につくる合間に、車谷長吉『漂流物』収録の『抜髪』を読む。実母の怨嗟の声だけで成立させた小説という代物で、強烈な播州弁の恨み・ツラミ・ハラミが続くその行間、ほんのわずかににじみ出る母の愛情のようなものに人間のひととおりでなさを思う。
この『漂流物』は、『赤目四十八滝心中未遂』より手に取る機会が多いかもしれない。パートナーの詩人・高橋順子さんが書いた『夫・車谷長吉』と共におすすめしたい。

ひと段落して、夕食のミネストローネが荒れ果てた胃腸を癒やす。

なんだかこまめに「ホワァ」だの、「オオゥ」だの小さな奇声が聞こえていて、なんやそないにスープがうまいんか、と息子の方を見ると、乳幼児から何周見たかしれない『おさるのジョージ』のセリフとそのタイミングを覚えていて、TVの画面に合わせてアテレコをしているのだった。

市下屈指のジョージ・フリークを自認する我ら一家、ほとんどのエピソードの入りを見たらオチまで言えるほどだが、まさかセリフまでとは。もちろんほとんどのキャラの名前も知っている。だが口元をスープで赤くした我々、謎の中年五つ子兄妹の名前が思い出せない。登板頻度の多い長兄の釣り好き・クイントさんだけがふと浮かぶ。

スープを吸い込みながら知恵を絞った我々、駅長をしている次男のフリントさん(彼の出てくる話は好きなのが多い)、保安官のウイントさんが食卓にまかり出た。あとはググって、長女のスプリントさんと次女の造幣局に勤めるミントさんを把握する。ちなみにスプリントさんは金メダルを3つ持っているたぶん国民的アスリートである。

彼らはメガネのかたちや、髪の色・量が微妙に異なる個性がありながらも、田舎のシーンではモブキャラ的にイベントごとに混じっていることもあるから油断がならない。謎の中年五兄妹をすぐ見つけられるようになったらあなたも一流だ。ちなみに好物は揃って「おさかなクラッカー」で、それで釣ると「ウー、ウー、ウーーン!」と色っぽい声を出して我を失うので覚えておくといい(だからなんだ)。


風呂では星座カレンダーを読み込んだ息子が「地球が半分になったらどうなるの?」「太陽をまわるのが止まったら?」「自転がなくなったら?」と全裸の質問魔となりて、同じく全裸で必死に応答を試みる。

寝る前のドラえもん英会話では突然シモ用語のオンパレードとなり、男子ふたりで盛り上がっているのを、妻が「あほちゃうか」と笑って見ていた。

I farted,and I almost leak poo!

紛うことなきあほである。


妻が書いた謎の中年五つ子兄妹。上手すぎるしミントさんはワイズマン博士に似過ぎている。
おさかなクラッカーを食べて我を忘れたい

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