(紹介)エンターテイメント中編小説。散歩が趣味の会社員と市井の市民をスケッチするのがライフワークの老画家が出会う。関西でずっと過ごしてきた会社員だが、ふとしたミスが原因で、青森に転勤する。アンリ・マティスの絵を巡る別れの物語。 (はじまり) 「趣味はなんですか?」と人に訊かれたら、僕は「散歩が趣味です」と答える。とても良心的な人であれば「ふーん、どこを散歩するのが好きですか?」などと言って会話を続けてくれるが、大抵の場合は「ふーん(つまんない答えだなあ)」という反応で話題
(紹介)エンターテイメント短編小説。仕事帰りに水切りをする水切りコーチと、いくつかの工場を巡るものがたり。 (はじまり) 1、二人の友 仕事の後にビールを買って川辺に行き、水切りをするのが楽しい。最初は五回くらい続くだけでもうれしかったが、毎日やっているうちに数えるのが面倒くさいくらい続くようになった。水切りのコーチをするようになったのもそのころからだ。 初めての生徒は近所の子供だった。僕が水切りをしているとじっと見ている。僕が休んでいると必死になって石を川にボコ
(紹介)エンターテイメント中編小説。ギターの銘器ドミンゴ・エステソと大阪・茨木市の若き製作家の織りなすものがたり。 (はじまり) 昔から衝動買いする癖があった。CDや本は言うに及ばず、冷蔵庫や車も衝動買いした。どうしても冷蔵庫が二つ欲しくなったのだ。僕にとってはビールは聖なる存在、それにふさわしい待遇を与えたかった。ビール専用の冷蔵庫が必要だった。この家自体も衝動買いみたいなものだ。つきあって2ヶ月の彼女がいたころ、結婚してくれるものだと早合点し、ならば家が欲しかろうと
(紹介)エンターテイメント中編小説。京大新入生の田村くんはギターを始め、先輩の未雪さんに憧れる。厳しくも楽しい研究生活を送る未雪さんは、田村くんをかわいがるものの、なかなか弟分としては認めない。田村くんはギター初心者ながらもバリオスの名曲に挑戦する。京大とギターを舞台とする物語。 (はじまり) 僕の誕生日はいつも山が焼けていた。親戚のうちで毎年山が焼けるのを見た。僕の誕生日は五山の送り火と同じ日だった。山の火は他の火と違っていた。誰かの誕生日で、ケーキのロウソクに火が灯