年金:財政検証の賃金上昇率 なぜ?
以前の記事(「目減りする年金 物価と賃金の上昇率推移」)で
https://note.com/kazusana/n/n29bd25ace460
①そもそも、賃金上昇率が低い(物価上昇率>賃金上昇率)のは、なぜか?
②しかしながら財政検証では
賃金上昇率=物価上昇率+1.0%程度(0.4〜1.6%)で想定している。上記推移から見ても、なぜ???
と。
①については別の記事で触れましたが、
https://note.com/kazusana/n/n04ae714662db
今日は②について書いてみたいと思います。
まずは見慣れた資料でしょうが、並べてみます。
財政検証結果のポイント
コンパクトに纏められていて、財政検証についてよく「俯瞰」できます。
財政検証結果
上記の表は結果の一部であり、それぞれのケースにおいては前提を変え、より丁寧な検証が行われています。
ケースⅥはたいへんな事態であり、ケースⅢ・Ⅳ辺りが可能性が高いか、ケースVも今の環境ではありうるのではないか。こんな議論も発表当時聞こえてきました。
オプション試算
こうした中でオプションとして検討した結果、年金の改善につながる方策があるとのことで、政策化が進められました。
被用者の適用拡大と繰下げ等の施策がそれであります。
さて、当初掲げた賃金上昇率についての疑問を例にこの財政検証なるものについてみてみましょう。まずは、今回の財政検証の諸前提の部分を上げておきます。
諸前提
発表されたデータからはこういう前提だったのでしょうか。
それでは、確認していきます。
1.賃金上昇が物価上昇に比し0.4-1.6%程度高い水準になっています。しかし、こうした前提はありうるのでしょうか。(上記の「財政検証結果」の表の冒頭で、前回よりは控えめとのコメントあり、多少は気にはされているようですが)
少なくともこの約15年間賃金上昇率が物価上昇率を上回ったことはありません。(年金額計算で両データが使われており、時間的ズレは多少ありますが、自明のことです)
この間の実質賃金はアベノミクスの成果は全くなくむしろマイナスです。
2.かつ、そもそも名目賃金上昇率が概ね2.0〜3.6%のようです。
やはりこの間の数値からは飛び抜けています。
次に、TFP(質的な経済成長要因)、
TFP上昇率の推移
3.厚労省の過去実績の折り込み方は概ね10年間だったものを15年間・20年間と伸ばしてきた節がありますが、どうもバブル期前後の高い数値に未練があるようでなかなか手放せないのでしょうか。今回の報告でも、1980年代後半の極めて高い数値も利用しています。
また、ケースⅥにおいて最悪のケースを載せていますが、これは何と直近の2017年の数値です。
100年の長期的予想の中では30年前を振り返ることも有益?、「凶と吉は糾える縄のように変わるもの」(大凶のおみくじに書いてありました)とでも言いたいのでしょうか。
確かに、賃金が物価を上回ることが経済上望ましい形です。そうでなく今の状況がずっと続くなら国民経済は今まで以上にもっとたいへんな事態ともなりましょう。
ただ、財政検証に言えることは、現実をそのまま適用することは出来ず、ある意味、賃金を高くしないことには年金の財政検証は成り立たないということでもあるのでしょう。
諸前提は、年金部会の範疇ではない。それぞれ各専門分野で検討された事項、それらは言うならば経済の問題であり、年金自体の問題ではない、そう言いたいのでしょうか。
そうした前提をあまり積極的には触れず、財政検証自体を無批判的に、あるいはそれを前提のものとしてだけ報道するマスコミ(全部ではないでしょうが。政府の報道機関ではないのでしょうが。)にも問題がありそうです。
しかし、国民に誤解なく正しく分かりやすく説明する義務は最終的には、国にあるのではないでしょうか。マスコミの姿勢を容認、追認、あるいは利用しているとすればそれも問題です。
また、省庁・官僚等に忖度をある意味強要する政権に問題があるのでしょう。国が正々堂々説明できるものでありたいものです。
もちろん財政検証を全否定するつもりはありません。今回の被用者の厚生年金適用拡大等、改善に資する分析・施策もありました。
年金は生活者の生身の問題
財政検証がいわゆる制度を守るための検証であり、年金生活者の実態から出発していないと言われていることには同感です。
せっかく素晴らしいシステムもあり、優秀な官僚もいらっしゃいます。これらの力を真に国民生活の改善に使わない途はありません。これからも一緒に考えていきましょう。
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