WordCamp Japan 2021で薬機法セッションしてきました #wcjpn21
WordCamp Japan 2021で薬機法について話してきました。お題は「そのサイト薬機法違反かも!ウェブサイト制作者・運営者が知っておくべきNG事例と学習のための最初の一歩」です。
セッションの動画は下記で公開されています。
スライドはこちら。
え?WordPressのイベントなんだからnoteじゃなくてWordPressに書けって??いやすんません、薬機法絡みの話はnoteに集中させる方針でして。。。受託業務でWordPressのおしごとやってるので許してちょ。
ギリギリで申し込んだスピーカー応募
WordCamp Japan 2021が開催される、という話は、なんとなく聞いていました。初の完全オンラインでの開催。知ってはいたけれど、最初は外野目線でしか見ていませんでした。
そして、忘れもしない3月22日。夜7時頃、通勤電車の中でスマホをいじっていると、スピーカー応募締め切り日が今日だ、というツイートが流れてきました。
ああ、そうか。スピーカーとして登壇することもできるんだ。
実は私は、2015年のWordCamp Tokyoに登壇したことがあります。当時はアフィリエイトブロガーとしてセッションを持ちました。
あれから6年が経ち、現在の私はすっかり薬機法の人になっています。
今も一応、受託業務としてWordPressプラグイン開発のお仕事などを受けています。しかし、自分のサイトとしてWordPressを毎日使っているかというと、そうではありません。
その一方で、薬機法の知識を伝えれば、WordPressに関わる人たちを守れるかもしれない、という考えもありました。
モラルと行動規範、インターネット広告
今のインターネット広告業界はメチャクチャです。消費者庁が検討会を開催するほど、悪い意味で注目されています。
WordPressコミュニティにいる人たちは、モラルが高く思慮深い人ばかりです。WordCamp行動規範というものもあります。この規範は、ただの掛け声ではなく、しっかりとした実効性を伴っています。
そのような素晴らしい人たちが、ほんの少しの知識が無いせいで、悪い事業者の仕事に巻き込まれないだろうか、と勝手な心配をしていました。
薬機法について話したい。でも、薬機法は法律の話であって技術の話ではない。WordCampのセッションとしては場違いではないだろうか。
迷いながらスピーカー募集ページを眺めると、ページ内に「スピーカーについては、スタッフの方々が応募内容を精査して選定する」ということが書いてありました。
スタッフの方々が選んでくれるのか。それなら、応募すること自体は迷惑には当たらないかもしれない。
この場にふさわしくないと認識されれば、スタッフさんが優しく落選にしてくれるだろう。だったら、応募だけでもしてみよう。私の気持ちは決まりました。
電車から降り、駅のベンチに座ります。バッグからchromebookを取り出し、一気に応募フォームを埋めて送信しました。締め切り時刻から4時間ほど前のことでした。
当選、仕事との両立
公募結果の通知は4月4日。自宅でメールチェックすると、結果の連絡が来ていました。結果は当選でした。
驚きと喜びを感じながら読み進めます。登壇枠は「録画形式・27分枠」でした。
スライドの締め切りは4月19日。動画提出の締め切りは5月上旬予定とのこと。
通知が4月4日で、スライド締め切りが4月19日。これはタイトなスケジュールだ。
この4月・5月、私は某社で新入社員技術研修の講師のお仕事を入れていました。ややハードな仕事なので、同時進行になると辛そうです。
幸い、講師としての仕事が本格的に始まるのは4月下旬からでした。そちらの仕事が始まる前にスライドを完成させて、動画の作成はゴールデンウイークにやろう。そんな目算を立てました。
1時間半を27分に縮める
薬機法について、喋りたいことや伝えたいことは山ほどあります。初稿のスライドを作るのは簡単でした。しかし、その作ったスライドで喋ってみると、1時間半かかりました。
与えられた時間は27分間です。3分の1以下に縮めなければなりません。
スライドを作って喋ってみたら時間オーバーになる。何かを発表するときにはよくあることです。しかし、初稿とはいえ、ここまで大幅にオーバーしたのは初めてでした。自分としては必要不可欠な事柄のみに絞ったつもりだったけれど、まだまだ3分の1以下に縮めなければならない。
そこからは苦渋の決断の連続です。書いた内容は、どれも大事なことばかり。だけど時間内に納めるには削らなければならない。
未練がましく、ちょっと削り落とすたびに喋りの練習をしました。でも、削る内容が少しならば、喋る時間も少ししか短くなりません。ちょっと削り落として5分短縮、またちょっと削り落として5分短縮、ということを何度も繰り返しました。
初稿時点で1時間半かかっています。少し内容を削るたびに喋りの練習をしていたので、そのたびに毎回1時間半の時間がかかりました。
これでは終わりがない。
提出期限が迫ってきました。締切が目の前に来ると、不思議なもので、内容を削ぎ落とす度胸のスイッチが入ります。期限が二日後になった日に、内容を一気にバサッと切り落としました。それまで1時間以上かかっていたものが、35分程度まで縮まりました。
私にも話したいことはたくさんあったけれど、他のスピーカーの人たちだって、伝えたいことはたくさんあったはず。みんな工夫して、自分の持ち時間の中に凝縮させているのです。この苦しみは、みんな感じているはずの苦しみだ。
そもそも、薬機法を27分で説明するなんて無理です。そんなことはわかっていたはずなのに、私はそれをやろうとしていました。
27分という時間を考えれば、私が最重要視すべきなのは、薬機法を説明することではありません。制作の方々に危険の存在を知ってもらい、回避方法を提案することです。
その考えになってからは、落ち着いて作業できました。「このセッションを聞いた方が具体的な行動に落とし込めるか?」ということを第一に考えて内容を整理しました。
録画
無事に内容が27分に納まりそうだ、という見込みがついたあとは、いよいよ提出用動画を録画します。ゴールデンウイークに入って本業の仕事が軽くなってから、本格的に着手しました。
喋りの練習はしていたけれど、いざ実際に録画しながら話すと、文脈が変なところに気付きます。動画作成を開始してからも、ほとんど全てのスライドに修正を入れました。
また、私の自宅は意外と騒音が大きいことを知りました。私の自宅にはサーバールームがあります。私の仕事場は、そのサーバールームの一角です。7台のサーバで冷却ファンが常に回っており、雑音が出ていました。悩んだあげく、録画のために全てのサーバを1日止めました。
(サーバールームの写真)
提出動画が完成したのは、録画を開始してから3日後。録画の回数は20回ほどでした。最も良く話せたものを提出し、スタッフの方のチェックを受け、OKを頂きました。
当日
録画での登壇者は、動画を提出したあとは気楽です。何もすることがありません。スタッフの方々が慌ただしく作業されているらしいことを感じながらも、本業の仕事に精を出していました。
そして迎えた6月20日。WordCamp Japan2021が始まりました。
私のセッションは、初日の16:00スタートでした。その時間まで、他の方々のセッションを拝見して過ごしました。
他の方のセッションで最も印象深かったのは、開会式での実行委員長のスピーチ。前例のないことばかりの中で、開催にこぎつけることはとてつもなく大変なことだったはず。しかし、その苦労を見せず、淡々と話されていました。冷静な口調の中に強固な意思と信念を感じました。
WordPressは、こういった方々がいるからこそ維持され、発展している。そのことを再確認しました。
私は今回、登壇者としてWordCamp Japanに参加します。WordCampのコンテンツの一部を提供した、という意味では、私はWordCampとWordPressコミュニティへ貢献したと言えるかもしれません。
しかし、私は登壇者なので、自分自身への注目を浴びやすい立ち位置での貢献です。
イベント運営側での参加や、WordPressコアへのコントリビュートなどは、外から見た場合、貢献者の名前が前面には出ないように思います。個人的には、苦労の割に得るものが少ないのではないか、という疑問を感じています。それでも、WordPressコミュニティには、その役割を担う人が必ずいます。
今回のWordCampでは、「なんでもない日に少しの特別(コントリビュート)を」という言葉が掲げられていました。
WordPressコミュニティに貢献し続ける方々は、様々な形でのコントリビュートに楽しさを感じているのだと思います。私は、まだそこに足を踏み入れたことがありません。そこには、私に見えていない世界があるのだろう。そんなことをふわふわと考えました。
また、そんな曖昧な私を受け入れ、登壇者に選んでくれたスタッフの方々に、改めて感謝しました。
セッション開始
16時、私のセッションがスタート。録画なので、私は聴衆の方々の反応ツイートを拝見しながら、自分のセッションを見ました。
大賑わい、とはいかなかったけれど、ある程度の反応を頂きました。なにしろ、私のセッションの内容はWordPressと直接の関係がない薬機法です。一切反応ナシということもありうる、と考えていたので、安堵しました。
セッションが終わったあとは「登壇者と話そう」のコーナー。oViceというオンラインイベントツールに移動して、聴衆の方々からの質問に答えました。
具体的かつ詳細な質問が多くありました。やはり、悩みを抱えている製作者の方々は居たのだ。
締め切り当日、慌ただしく電車から降りて登壇を申し込んで良かった。
少しのコントリビュート
私のセッションは、7日間のWordCamp Japan2021の初日でした。2日目から6日目はコントリビューターデイズです。WordPressコアの開発や英語文献の翻訳などが予定されていました。
私は当日まで自分のセッションのことで頭が一杯で、他のことは何も考えられませんでした。自分のセッションが終わったあと、改めてタイムスケジュールを眺めました。
2日目の欄に、「WordPressの開発に参加してみませんか?」という文字がありました。WordPress自体を開発する、というイベントです。
私もプログラマーのはしくれ。WordPressの中身に手を突っ込んでみたい、という気持ちはありました。これまでは怖気づいていたけれど、オンラインであれば参加もしやすい。そしてなにより、WordPressコミュニティにお世話になってばかりではいられない。思い切って、今回初めて参加してみました。
この2日目のコアコントリビュートは、コア開発をするための開発環境を用意する、という内容でした。ドキュメントが用意され、世話役もいらっしゃって、充実したサポート体制と言えます。
しかし、結論から言うと、私はこの開発環境構築を終えることができませんでした。私は講師業をしているせいもあり、PCに様々な環境がごちゃごちゃと入っています。何か色々と干渉しているのでしょう。
でも、実際にコアコントリビュートのための最初の作業に着手したおかげで、心理的なハードルは一気に下がりました。次に同様のイベントがあれば、PC環境を整備して再度チャレンジするつもりです。
世話役の方々も、環境構築できなかったからといって私を責めることなど一切なく、優しく応対してくれました。ここにもWordCamp行動規範に基づく思慮深さが行き渡っていました。
思慮深さ
7日目のセッションデイも無事終わり、7日間のWordCamp Japan2021は盛況のうちに幕を下ろしました。
イベント全体を通し、終始一貫して感じたのは、ここまで何度か使っている言葉である「思慮深さ」です。
WordCamp行動規範の中の「求められる行動」に、「思いやりを持ち、お互いを尊重し、協力的に行動しましょう。」との記述があります。この感覚をスタッフの方々や参加者の方々がしっかりと持っていた、と感じました。これを短く言うと「思慮深さ」ではないかと思います。
1000人を超える大型イベントをオンライン完結で実行するというのは、並大抵のことではありません。しかし、しっかりと成功しました。スタッフの方々も参加者の方々も、「思慮深さ」を持っていたからこそ、この結果になったのではないかと思います。
スタッフの方々はいちいち自己主張しませんが、人格だけではなく、技術的にもすごい方がたくさんいます。しかし、イベントの成功を第一に考え、初学者の方々を萎縮させることのないよう、技術の話をするべき場か否かをしっかり選んでいるようでした。私も、コントリビューターデイに参加してそれを直接感じました。
それをわざわざ考えて行動しているということでもなく、それが既に「備わっている」のだと思います。また、萎縮させないだけではなく、言うべきことは言ってくれる、ということも感じます。
WordPressコミュニティは人柄まで洗練する力を持っているのだろうか、と思わずにはいられません。
私の薬機法のセッションは、違法例を出す都合上、やや危うさを感じられてしまう内容に見えたはずです。単にイベントを無難に済ますのなら、このセッションが取り上げられることはなかったはずだと思います。
しかし、今のインターネット業界に必要な情報だと考えてくれたからこそ、これが取り上げられたのでしょう。単純な優しさのようなものではなく、「思慮深さ」があったからこそではないかなと思います。
また、私自身も「このコミュニティに参加するのならば適当な振る舞いはできない」という一定の緊張感を、いつの間にか持っていたように思います。そういう良いサイクルができあがっているからこそ、WordPressは発展し続けているのだろう、と強く感じました。
人は入れ替わりながら、コミュニティは生き続ける
私は、WordPressを知ってから10年ほどになります。アフィリエイトブロガーとしてWordPressを使い、趣味の個人開発者としてWordPress公式プラグインをいくつか作り、今は受託業務の一部としてWordPress関連の開発をしています。
端的に言えば、私はWordPressに外側から薄く関わり続けている人です。
外から見ていると、WordPressコミュニティには、長く関わり続けている人もいるし、新しく入ってくる人もいます。関わらなくなる人もいます。
私は深く関わったことがないので中の雰囲気を詳細には知りませんが、前述の「思慮深さ」がどの場所でも貫かれているのだろうと思います。だからこそ、それぞれが自由に行動しつつ、入れ替わりも発生しながら、健全なコミュニティは生き続ける。
WordPressコミュニティが、インターネット業界の屋体骨のひとつを担い続けてくれることを期待しています。そして、できることなら私もその一部になりたいです。
なので、まずは開発環境の構築からがんばります!!!わっしょい!!