JARO山本専務理事のコメントに寄せて(通販新聞<アドネットの闇> )
通販新聞の下記記事が話題だ。
大阪府警、ASPを捜査か<アドネットの闇> 重くなるウェブ広告関与の「代償」
https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=5648
この記事の中に、JARO(日本広告審査機構)の専務理事、山本一広さんのインタビューが載っている。
それを読んだたくさんのひとたちが、JAROを非難するツイートをしている。
「JAROは何もしないのか」「JAROは無能」「JAROは存在価値なし」といった趣旨のツイートが多かったように思う。
私としては、JAROを擁護したい。JAROがいなければ、現在のインターネット広告業界は潰れてしまうと感じるからだ。
山本一広専務理事と私について
私は、今回の通販新聞が取り上げたような「アドネットワーク広告」を使った「薬機法違反広告」について、2017年12月から個人的に調査を開始した。そのきっかけは、このJAROの山本一広専務理事との会話だった。
山本一広専務理事との会話
2017年12月、私はインターネット広告業界の業界団体で短い講演をした。私は、個人開発したシステムでいくつかの違法なインターネット広告を調査していた。それに対して一定の良い評価が下り、講演依頼を頂いたのだ。
その講演会に、この山本一広さんがいらっしゃった。私の講演の後、山本さんと名刺交換し、数分間ほど立ち話をした。
その時の私は、ポータルサイトのYahoo!に違法らしき広告が大量に表示されていることが気になっていた。その疑問を山本さんにぶつけると、山本さんも同じ課題認識をお持ちだった。
JAROとしても、その対応に苦慮している、とのことだった。Yahoo!のサイトを、一般ユーザと同じように、手作業・目視で確認している、と、当時の山本さんは仰った。
予算の問題
一般の人は、そんなのプログラムで簡単に自動化できるだろ、と思うかもしれない。確かに、自動化はできる。しかし、当然ながら、そのプログラムを作るには時間とコストがかかる。普通のシステム開発会社に発注したら、数千万円程度の予算が必要だろう。
JAROは、知名度は大きいけれど、裕福な団体ではない。JAROはあくまでも、有志の民間企業が資金提供することで成り立っている民間団体だ。
JAROの決算は、貸借対照表のみではあるが、公開されている。JAROの資産合計は、わずか1億6千万円だ。システム投資など到底できないだろう。
また、JAROが扱う広告は「アドネットワーク広告」だけではない。「インターネット広告」だけでもない。新聞、雑誌、テレビCMなどの広告もチェックしなければならない。
予算が無限にあるなら、インターネット広告のチェックも十分にできるだろう。しかし、現実は違う。
限られた予算の中で多くの人を救うには、どうしても対処の優先順位をつける必要がある。新聞、雑誌、テレビCMなどの「マス広告」を重視し、泡沫なインターネット広告の優先度が下がるのは必然だ。消費者を救う数を最大化するには、そうするしかない。
殴りやすいものを殴る愚
JAROにも、ある程度の責任はあるのだろう。広告業界の健全化をする、と存在意義を明示した上で資金を募っているのだから、それに見合う働きをすべきだ。その考え方は当然だ。
しかし私は、JAROは「それに見合う働き」をしていると思う。「怪しい広告があったら、JAROに相談すればなにかしてくれるだろう」という認識は、社会に広く行き渡っている。その認識があるからこそ、広告業界は一定の健全性を保つことができている。
違法な広告が存在するとき、最も悪いのは、その違法な広告を作っている企業であり、その広告を依頼している広告主であり、その広告を流通させている広告仲介会社だ。
それらの会社の存在をすっ飛ばしてJAROを非難するのは、いわば「味方を殴っている」ようなものだ。
殴りやすいからといって味方を殴るのは、間抜けなことだ。
JAROの手が行き届いていない部分がとても大きい、ということは、私も同感だ。しかし、JAROは予算の現実と戦いながら、称賛に値する成果を出している。私はそう考える。
JAROの苦悩を感じた私は、この問題への対処のためのシステムを独自に開発した。いくつかのメディアにも取り上げて頂いた。
山本専務理事と私のつながりは、さっき書いた数分間の立ち話だけだ。しかしその会話が、私にこの問題の大きさへの確信を与えてくれた。山本専務理事には、強い感謝を感じている。
JAROの権限
JAROは、あくまでも民間団体だ。公益財団法人、という肩書きがついているが、所詮は民間団体でしかない。だから、できることは強制力を持たない「要請」くらいだ。
通販新聞の記事では、ステラ漢方事件で問題を起こしたソウルドアウト株式会社に対して、JAROの対応が弱腰だ、といった論調のインタビューが載っていた。
確かに、JAROの対応は弱腰だ。しかし、そもそもJAROがソウルドアウト株式会社に対してできることは「要請」と「除名」くらいしかない。そもそもできることが少ないのだ。その理由は、JAROは行政機関ではないからだ。
JAROは、最後の切り札である「除名」をいつ下すか、時期を探っていたのではないだろうか。
JIAAの存在
インターネット広告の業界団体としてはJIAA(日本インタラクティブ広告協会)という団体もある。
JIAAは「インターネット広告」に特化した団体だ。
今回の通販新聞で名指しされていた、
Akane(GMOアドマーケティング株式会社)
UZOU(株式会社Speee)
Zucks(株式会社Zucks)
Taboola(タブーラ・ジャパン株式会社)
popIn(popIn株式会社)
LOGLY(ログリー株式会社)
が全て加盟している。
JIAAもJAROと同様に崇高な目的を掲げている。
目 的
一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)は、「インターネットを利用して行われる広告活動が、デジタルコンテンツやネットワークコミュニケーションを支える経済的基盤である、という社会的責任を認識しながら、インターネット広告ビジネス活動の環境整備、改善、向上をもって、広告主と消費者からの社会的信頼を得て健全に発展し、その市場を拡大していくこと」を目的とする団体です。
引用元:https://www.jiaa.org/jiaa/gaiyo/
JIAAは、この目的を果たせていない。団体をまるごと叩くのであれば、JAROよりも先にJIAAを叩くべきだろう。
JIAAが無能なままだから、JAROが矢面に立っている。専門分野ではないインターネット広告の世界で。私には、そう見える。
「最後の砦」としてのJARO
私の感覚としては、JAROは、本来であればJIAAがやるべき領域の業務も押し付けられ、苦しんでいるように思う。
JAROが消費者の不満の受け皿となってくれている意味は大きい。個別の業界団体が機能していなくても、最後の砦として戦ってくれるからだ。
JAROに寄せられる消費者の不満が大きく蓄積されれば、それを出発点に行政が動いて法整備したり、誰かを逮捕したり、といったこともあり得るだろう。インターネット広告に不満を持つならば、JAROの窓口に意見を送ることで、JAROに力を与えてあげて欲しい。
JARO 広告みんなの声
https://www.jaro.or.jp/koe/index.html
以上