【上場2社】化粧品・健康食品メーカーの苦情相談件数

化粧品・健康食品メーカーの上場2社について、苦情相談件数を調べたので記しておく。株式会社北の達人コーポレーションと、株式会社ファーマフーズだ。

期間は2021年7月~2022年6月の1年間。データ元はPIO-NETである。

PIO-NETは、「苦情相談情報(消費生活相談情報)の収集を行っているシステム」だ。

大まかな結論

北の達人コーポレーション と ファーマフーズ の商品で、消費者からの苦情が多く発生している。

北の達人、ファーマフーズ、ともに、業界平均と比べて約4倍、一般消費者向け商品の全体平均値と比べて約20倍の頻度の苦情が発生している。

北の達人コーポレーション

北の達人コーポレーションに関する年間苦情相談件数は、

480件

であった。

ファーマフーズ

ファーマフーズに関する年間苦情相談件数は、

4,510件

であった。

なお、この件数はファーマフーズの子会社2つを含んでいる。内訳は以下の通り。

ファーマフーズ(単体):3,776件
明治薬品(単体):411件
フューチャーラボ(単体):323件

これらの会社の主要な商品は、ニューモ、シボラナイトGOLD、ヘアボーテシリーズなどだ。

考察

化粧品・健康食品業界の苦情相談件数 合計

上記の件数に対する評価をするには、化粧品・健康食品業界の「全体の年間苦情相談件数」を把握する必要があるだろう。

化粧品・健康食品業界の年間苦情相談件数は

97,180件(化粧品36,599件、健康食品60,581件)

だ。

独立行政法人国民生活センターは、毎年、「消費生活年報」を公開している。直近のものは、2021年10月の「消費生活年報2021」だ。

消費生活年報2021
https://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/nenpou/2021_nenpou.pdf

この文書の21ページ目に、化粧品・健康食品業界の「全体の年間苦情相談件数」が載っている。ここから引いてきた値だ。

2020年度 化粧品・健康食品の相談件数

なお、この件数の期間は2020年度だ。前述した2社の相談件数の期間と一致してはいない。

だが、この記事では速報性を優先させたい。精緻性を少し欠くことになるが、この2020年度の苦情相談件数を「年間苦情相談件数」と見なすことにした。大雑把な傾向を論ずる、ということでご容赦頂きたい。

苦情シェア

苦情相談件数の中に占める上記2社への苦情相談の比率(苦情シェア)は以下の通りである。単純な割り算だ。

北の達人 の苦情シェア

480件 / 97,180件 = 0.49%

ファーマフーズ の苦情シェア

4,510件 / 97,180件 = 4.64% 

売上シェアと苦情シェアの比較

それぞれの会社について、業界内での苦情シェアが計算できた。しかし一方で、売上規模が大きければ、ある程度は、苦情が増えても仕方ない面があるだろう。

そこで、上記2社について、業界内の「売上シェア」と、前述の「苦情シェア」を比較しよう。売上シェアが大きいなら、ある程度は苦情も発生するだろう、という価値観に立ち、その比率の乖離を見るということだ。

売上シェアを計算するにあたり、「化粧品・健康食品業界の市場規模」が必要になる。今回は通販新聞の記事を引用する。

この記事によれば、化粧品・健康食品の市場規模は 6兆4,359億円 と記述されている。

化粧品・健康食品業界 市場規模 6兆4,359億円(通販新聞より引用)

北の達人の売上は、最新の決算説明資料によれば、年間75.9億円と予測されている。

ファーマフーズの売上は、最新の決算説明資料によれば、年間609.0億円と予測されている。

それらから計算すると、それぞれの会社の化粧品・健康食品業界における市場シェアは以下の通りだ。

北の達人 売上シェア
75.9億円 / 64,359億円 ≒ 0.12%

ファーマフーズ 売上シェア
609.0億円 / 64,359億円 ≒ 0.95%

前述の苦情シェアと並べると、以下のようになる。

北の達人
売上シェア 0.12%
苦情シェア 0.49%

ファーマフーズ
売上シェア 0.95%
苦情シェア 4.64%

先ほど、「悪質ではない商売をしていても、お客さんが多くなれば苦情も多くなる傾向はあるだろう」と書いた。しかし、この2社とも、苦情シェアが売上シェアを大きく上回っている。

北の達人の苦情シェアは、売上シェアの4.1倍だ。
0.49% / 0.12% ≒ 4.1倍

ファーマフーズの苦情シェアは、売上シェアの4.9倍だ。
4.64% / 0.95% ≒ 4.9倍

このことから、この2社は業界平均と比べても苦情が多い、と言えそうだ。

国内の全ての消費活動との比較(売上1億円あたりの苦情相談件数)

ここまで、「北の達人」と「ファーマフーズ」の2社の苦情相談件数について、化粧品・健康食品業界の平均値と比べて論じてきた。最後に、日本国内の全ての家計消費と苦情相談件数について言及し、それと今回の2社を比較して終わろうと思う。

消費者庁の資料によれば、日本国内の家計消費の総合計は280.5兆円だ。

日本国内の家計消費(2020年) 消費者庁サイトから引用

一方、日本国内の消費者からの年間苦情相談件数は、消費生活年報2021によれば、総計で939,343件だ。

日本国内の消費者からの年間苦情件数

ここから、「売上1億円あたりの苦情相談件数」を考える。

国内の全ての消費活動における「売上1億円あたりの苦情相談件数」は以下のようになる。

国内の全ての消費活動
苦情939,343件 / 売上2,805,000億円 ≒ 0.33件/億円

同様の計算を、前述の2社と、化粧品・健康食品業界全体について行う。

北の達人
苦情480件 / 売上75.9億円 ≒ 6.32件/億円

ファーマフーズ
苦情4,510件 / 売上609.0億円 ≒ 7.41件/億円

化粧品・健康食品業界 全体
苦情97,180件 / 売上64,359億円 ≒ 1.51件/億円

北の達人は苦情の頻度が6.32件/億円だ。国内の全消費活動の平均値は0.33件/億円なので、苦情の発生頻度は、一般的な商品の19.2倍だ。

ファーマフーズは苦情の頻度が7.41件/億円だ。国内の全消費活動の平均値は0.33件/億円なので、苦情の発生頻度は、一般的な商品の22.5倍だ。

また前述の通り、この2社に関する苦情の発生頻度は、化粧品・健康食品業界の全体平均と比べても高い。

これらの数字を素直に見れば、「北の達人・ファーマフーズの商品は苦情が多く発生している」と言えるだろう。

論旨は以上。

付記 - この記事の不完全性について

筆者としては、この記事に書いた論は、それなりに筋が通っていると考えている。しかし、高い正確性があるかというと、残念ながらそうは言えない、とも思っている。

この記事は、論旨を簡略化するために精緻性を犠牲にした面がある。筆者として認識できている論点をここに記述する。

「化粧品・健康食品の市場規模は64,359億円」について

この記事では、通販新聞から数値を引用して「化粧品・健康食品の市場規模は64,359億円」と認識して論を進めた。なお、この通販新聞の記事も引用記事であり、大元の記事は「株式会社インテージ」が作成している。

この数値は、行政ではなく、民間企業が推定した数値だ。その点で、信頼性を欠く面があるだろう。筆者は株式会社インテージや通販新聞に対してネガティブな印象を持っていないが、民間側で出した統計データについて無批判に信じるべきではない、とも思う。この記事では、この通販新聞・株式会社インテージが提示している数値について、深い検証をせず、そのまま信じることにしているので、その点で不完全な面がある。

年度ズレ・月ズレについて

この記事では、細かな年度の対応・月の対応についてあまり気にしていない。

例えば、北の達人の売上について、投資家向け情報から推測値を引用している。北の達人の決算月は2月なので、いま出ている北の達人の年間売上推測値は、2022年3月~2023年2月の1年間の売上だ、ということになる。

一方、冒頭に出した「苦情相談件数」は、いずれも2021年7月から2022年6月のものである。これは売上期間と一致していないので、対応関係としては適切ではない。

しかし、2023年2月という未来月までの苦情相談件数を現時点で見積もることはできない。また、過去の売上期間に合わせて2021年3月から2022年2月までの苦情相談件数を取り出して比較することは可能だが、それはそれで直近の苦情相談発生の状況を適切に表現できないのではないか、と感じた。

そのような考えから、売上については2社が公開している現在年度の推測値、苦情相談件数については直近の1年間の値を使った。

なお、既に有価証券報告書が提出されて確定している過年度売上の期間に合わせて、売上と苦情相談件数を記述すると、以下のようになる。

北の達人
期間:2021年3月~2022年2月
売上:95.1億円
苦情相談件数:641件
売上1億円あたりの苦情相談件数:6.74件

ファーマフーズ
期間:2020年8月~2021年7月
売上:467.5億円
苦情相談件数:2,356件
(内訳:ファーマフーズ2026件、フューチャーラボ330件)
売上1億円あたりの苦情相談件数:5.04件

数値に変化はあるが、上記の論旨に大きな影響は無い、と筆者は考えている。

苦情相談件数の「絶対数としての少なさ」について

北の達人、ファーマフーズの直近1年間の苦情相談件数について、それぞれ480件、4,510件、と書いた。これらは、平均値と比べると高い水準だ、ということは間違いなさそうだ。しかし、そもそも絶対数として大きくないから問題ないのではないか、と考える人もいるだろう。その考えは一理ある、と筆者も思う。

ただ、筆者としては、「被害に遭った消費者が行政に相談する割合は高くないだろう」と考えている。

消費者が化粧品や健康食品を購入して、何らかの被害を自覚した場合、おそらくは多くが泣き寝入りするだろう。消費者として腹を立てたとしても、「消費生活センターに電話してみよう」「国民生活センターに相談してみよう」という発想が頭に浮かぶ人の割合は、かなり少ないのではないかと思う。この記事は、そのスタンスに立って書いた。

ただ、その感覚が本当に正しいかどうかは、強い根拠を示せない。また、正しいとしても、それが割合としてどの程度なのか、についても根拠を持った推測ができない。「被害に遭ったと感じたときに消費生活センターに電話をする消費者の割合」は、2人に1人かもしれないし、10人に1人かもしれないし、100人に1人かもしれない。その割合により、上記の数字の捉え方はだいぶ変わってくる。

その割合は、筆者としてはわからない。そのため、この記事内では、なるべく絶対数に対しての評価をせず、「業界平均と比べて悪い」「全消費活動の平均値より悪い」といった書き方をした。

PIO-NETの苦情相談件数データについて

筆者は、PIO-NETに記録された苦情相談件数を入手して、この記事を書いた。この件数は、独立行政法人国民生活センターへ情報公開請求を行って得た。

PIO-NETのデータは、ネット上で一般公開されているものではない。しかし、情報公開制度に則って、定められた文書の手続きを踏めば、制限付きではあるが、誰でも得ることができる。

今回の筆者も、この制度を使ってデータを得た。この記事ではPIO-NETのデータを使って論を進めているが、筆者は国民生活センターや消費者相談センターの中の人ではない。単なる民間人だ。一応、ここに記しておく。

間違いの指摘等について

間違い等のご指摘があれば、筆者である 土橋一夫 @kazunii_ac までご連絡頂きたい。

以上

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