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なぜ不快なネット広告は消えないのか? - dely上場が象徴する課題と未来

dely株式会社の株式上場が承認された。同社が運営するウェブメディア「TRILL」は、さらなる成長が見込まれる。

筆者はdelyの上場に懸念を抱いている。TRILLには不快な広告が多いと感じており、この上場がモデルケースとなって同様の広告が増える可能性があると考えているからだ。

trillの広告については、多くの人が課題を感じている。たとえばYahooの検索窓に「trill 」と入れると、「trill 広告 不快」と関連検索ワードが出た。

「trill 広告 不快」
引用元:https://www.yahoo.co.jp/

ネット広告は、ウェブメディア、広告主、制作会社、配信プラットフォームといった多くの企業の分業で成り立っている。この分業構造が、不快な広告の流通を助長している。

本記事では、TRILLに表示された広告を例に、ネット広告の構造を解説し、課題の深刻さを明らかにする。


崩壊を続けるネット広告

ネット広告の業界団体であるJIAAは、2023年10月にユーザ意識調査の結果を発表した。

引用元:
https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2023/10/220231017_user_chosa_report_2022.pdf

調査結果によれば、ネット広告の信頼は著しく低く、さらに低下し続けている。その信頼度は、テレビCMの半分程度に過ぎない。

筆者は、ネット広告が検証不能であることが責任回避の姿勢を生み出し、それが広告品質の低下を招き、結果として信頼を失わせていると考えている。

不快な広告の具体例

TRILLに表示された不快な広告の具体例として、以下を挙げる。なお、「不快」の感覚は当然ながら人により異なるが、ここでは筆者の主観に頼り提示する。

1. アイキャッチ

トイレで身構えている場面を示した画像だ。このような広告は、多くの人に不快感を与える可能性がある。

引用元:https://trilltrill.jp/articles/3854299
ぼかしは筆者が加えた

2. 記事LP

アイキャッチをクリックすると、縦長の広告ページに遷移する。排泄物が描写されており、多くの人が不快に感じると予想される。

引用元:https://sb-hip-happy.ourservice.jp/ab/lact-f2-70q-goro01
archive:https://megalodon.jp/2024-1214-2029-02/sb-hip-happy.ourservice.jp/ab/lact-f2-70q-goro01
ぼかしは筆者が加えた
動画での記録はこちら

3. 販売ページ

記事LP内のボタンをクリックすると、販売ページに遷移する。このページでは、明治薬品株式会社の「ラクトロン錠」が販売されていた。

販売ページの表現
引用元:https://medicine.tamagokichi.com/lp/rakutoron/p01chat/

検証不能な記事LP

この一連の広告において「記事LP」は、多くの場合、アイキャッチからのみリンクされており、確認が難しい。この状況が悪用され、過激な表現が多い。

筆者は、行政関係者から「記事LPが再確認できずに困っている」といった声を耳にしてきた。これは、ネット広告に特有の問題だ。

たとえば紙の新聞広告の場合、仮に悪質な広告が発生しても、保存して検証することは簡単だ。紙媒体として存在するからだ。しかしネット広告では、ページ遷移すると、見ていたページは消えてしまい、再表示させることが困難だ。

ブラウザの履歴を調べることは可能だが、非常に手間がかかる。仮にURLを特定したとしても、広告事業者が内容を変更していれば、ページを見た時点の表示内容の検証は難しい。

不快な広告に関与する6社

今回の広告には、主に6社が関与している。広告制作を担当するブリーチや、配信を行うGMOアドパートナーズなど、各社が分業体制を構築している。

一連の広告 関係する会社

これらの企業は、このような広告に関与し、消費者に不快感を与えながら収益を上げている。

用意された言い訳

これらの関係社は、十分な対応を取っていないように見える。そして、それらの取引先である企業も、取引や売上の維持を優先し、同様に問題を看過している状況が見受けられる。

筆者は、あるウェブメディア関係者に、不快な広告が表示されていると指摘したことがある。返答は「配信元から流れてくる広告なので対応できない」「広告審査は私の担当ではない」といったものだった。いずれも事実だが、責任回避の発言とも取れる。

この分業構造の中では、どの企業も、責任を他社に転嫁する余地がある。こうした「用意された言い訳」が、広告に関する責任の追及を巧妙にかわしている。

このような言い訳が許されるのは、ネット広告が検証不能だからだ。もし、「このメディアの広告で、排泄物が30万回表示された」といった具体的なデータが提示されれば、広告の品質について議論する足掛かりが生まれるだろう。

しかし現状、そのような検証の仕組みは存在しない。不快な広告の問題は、真剣に議論されることなく放置されている。

責任の所在と言い訳の限界

さらに、不快な広告を受け入れているのは、その会社の事業方針による選択であり、そこに働く人々の判断が反映された結果でもある。

確かに、個々の広告表示が不快なものになるかどうかには偶然性が伴う。しかし、全体的に見れば、不快な広告が目立つ現状は明らかだ。

それを考えれば、その配信元の広告を停止したり、場合によっては広告事業から撤退することも可能なはずだ。

「流れてくる広告だから仕方がない」といった主張は、表層的な言い訳に過ぎない。たとえ「仕方がない」と言い張ったとしても、その広告を選び、表示する判断を下しているのは、最終的にはその会社自身の意思に他ならない。

YahooからTRILLへのリンク

TRILLを運営するdelyは、LINEヤフーの子会社だ。TRILLは、Yahooから直接のリンクを得ている。

筆者は、2024年12月12日にYahooトップページのニュース記事へのリンクを調べた。その結果、ニュース記事400個のうち41個がTRILLへのリンクだった。比率としては10.25%だ。

YahooはTRILLへのリンクを積極的に設置している。このリンクは、TRILLへの訪問者を増加させ、広告に接触するユーザは増加していると考えられる。

Yahooの「審査強化」と不快な広告

Yahooは、広告審査を強化している、と主張している。たとえば、2021年に消費者庁で行われた検討会で、次の資料を提示した。

消費者庁検討会資料 P16 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/assets/representation_cms216_210830_06.pdf
ロゴ・文字入れ・線の加筆は筆者による

この資料にもある通り、Yahooは広告の品質向上を掲げている。一方で、TRILLを子会社として運営し、不快な広告を表示し、収益を得ている。

Yahooは、日本における広告市場で重要な役割を果たすポータルサイトだ。そのYahooが不快な広告に関与し続けることは、ネット広告全体の品質向上を妨げているのではないだろうか。

不快な広告と資本市場

今回の広告に関与している企業は、いずれも上場企業、またはその子会社だ。本来なら高い社会的信頼を期待される企業が、不快な広告を掲載している。この現実は、資本市場が導いた社会問題として議論されるべきだ。

delyの上場により、不快な広告を利用して経済的に成功を収めた事例が、改めて示された。資本市場には、不快な広告手法を改めるインセンティブが少ない。成長重視の姿勢が、結果として広告品質の低下を助長している可能性がある。

広告業界の動きは停滞している

ここまで述べたように根本的な解決には、広告業界が、記事LPをはじめとするネット広告を検証する仕組みを構築することが必要だ。しかし、これまでの状況を見る限り、その実現にはあまり期待が持てそうにない。

2023年から2024年前半にかけては、Facebookに表示される詐欺広告が注目を集めた。しかし、その時でさえ、広告業界には大きな動きが見られなかった。

これを踏まえると、本記事で取り上げた「不快ではあるが適法な広告」については、放置される可能性が高い。

消費者が取るべき対策 - アドブロッカー導入

広告業界は、ネット広告の品質について無関心だと言わざるを得ない。このような状況を踏まえ、消費者は自衛策を講じる必要がある。その第一歩として、アドブロッカーの導入を検討すべきだ。

Braveブラウザの導入

アドブロッカーにはさまざまな種類がある。最も手軽な選択肢は、Braveだ。ブラウザをBraveに切り替えるだけで、多くの広告が自動的にブロックされ、ユーザは快適な環境を手に入れることができる。

Firefox+uBlock Origin+AdGuardかわいいフィルター

メジャーなブラウザを使用したい場合は、Firefoxをインストールし、拡張機能「uBlock Origin」、ブロックリスト「AdGuardかわいいフィルター」を組み合わせて使うと、効果的に広告をブロックできる。

不快感の妥当性

また、「AdGuardかわいいフィルター」は、Yahooトップページのリンクに不満を持つ個人が開発したものであるようだ。同じ課題意識を共有するユーザーにとって心強い選択肢となる。

ネット広告が与える不快感は個人差が大きく、正当性を判断することが難しい。「AdGuardかわいいフィルター」は、広告のブロック機能だけでなく、利用者が自身の不快感の妥当性を確認し、安心を得る手助けにもなるだろう。

ブラウザのデフォルトページ変更

広告を回避するための別のアプローチとして、ブラウザのデフォルトページを変更することも挙げられる。多くの人がデフォルトページにYahooを設定しているが、その選択が不快な広告に接触する機会を増やしている可能性がある。

代替案として、たとえばNHK NEWS WEBをデフォルトページに設定する方法がある。このサイトは、広告なしでニュースを読むことができ、ストレスなく利用できる点で、有用な選択肢といえる。

検証可能性のない広告の未来

delyの上場は、ネット広告が抱える信頼低下の問題を象徴している。この現状を打開するには、記事LPの保存など、広告内容を検証可能にし、透明性を確保する仕組みの構築が不可欠だ。

この問題を放置すれば、ネット広告への信頼はさらに失墜し、業界全体の信用に深刻な影響を及ぼすだろう。そして残念ながら、その「放置」が現実となる可能性が高い。


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kazuo dobashi
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