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“パンパンガール”を語る「金ちゃんの紙芝居」14~【 ビールで髪を脱色 】
戦後、埼玉・朝霞で米兵相手に商売をしていた「パンパンガール(=ハニーさん)」。
中には、米兵と恋仲になるハニーさんもいて、彼女たちは「オンリーさん」と呼ばれた。
当時、小学生だった金ちゃんにとって、最も思い入れのあるカップル、それはベリーさんとトニー。
垢抜けない地方出身の少女は、彼氏に愛されることで、みるみるうちに綺麗になっていく。
風呂上がりのベリーさん
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金ちゃん) これは、風呂上がりのベリーさんを描いた絵。
ベリーさんも…
━━ ベリーさんも、何ですか?
金ちゃん) 脇の下…
━━ ああ、剃ってなかったんですか?
金ちゃん) 剃ってないです、ベリーさん。
以前、紹介した朝霞駅前のラジオ体操。脇の毛を剃っていない年配の女性が描かれていた(画面左・中段)。
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金ちゃんによると、パンパンガールのような若い女性でも腋毛を剃っていなかったという。
前にも書いたが、何に羞恥心を感じるかとか、何がエチケットかとかは、時代に応じて変わっていく。
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━━ ベリーさん、プロポーションが良かったんですね。
金ちゃん) 綺麗な人でしたね。
私は、ベリーさんにいちばん可愛がってもらった…。
━━ ベリーさんは、どこの出身でしたっけ?
金ちゃん) 秋田です。
それで思い出した。
以前、金ちゃんからベリーさんの人生について、詳しく伺っていた。
秋田の垢抜けない少女が…
━━ 秋田から上野に来て…
金ちゃん) そうそうそう。
━━ 上野のパンパンガールに、「ここはもういっぱいだから、朝霞に行ったら何とかなるんじゃないか」…
金ちゃん)…って言われてきた人ですね。
秋田県○○郡▽▽村の出身…(※実際には具体的な地名)
━━ そんなことまで、わかってるんですか!?
金ちゃん) わかってるんです。
なぜかというと、この人は、毎月、実家に送金していたんです。
その送金役が僕だったんです。
だから、今でも番地まで諳んじられますもんね。(笑)
髪の脱色に使われていたもの
ハニーさんの中には、米兵の気を惹くためだろうか、オシャレ心だろうか、
髪の毛を染めようとする者も少なくなかった。
ベリーさんもその一人だが、その方法が、他のハニーさんとは違っていた。
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金ちゃん) ハニーさんの間で髪を脱色するのが流行ったんですね。
本当は染めたかったんだろうけど、当時は専用の薬剤なんかなかったから、脱色する。
普通のハニーさんたちは、オキシドール、えーと…過酸化水素水?
━━ はいはいはい。
金ちゃん) オキシドールを使って抜くんですよ。それも大騒ぎして、みんなして、ああだこうだって言いながら抜くんだけどね、オキシドールで脱色すると、艶がなくなって、白っちゃけてパサパサなんですよ。
━━ ああ、そうでしょうね、きっと。
金ちゃん) ベリーさんは、何で抜いたかっていうとね、ビールでやるんですよ。
━━ ビールで出来るんですか?
金ちゃん) 出来るんです。
ビールだと、シットリと艶を保って仕上がるんですって。
━━ へぇ~。
トニー、ベリーさんのためにビールをいっぱい持って来る それを金ちゃんの父親が…
金ちゃん) それでね、トニーがベリーさんのために、ビールをいっぱい持って来るんですよ、何ケースも。
それを惜しげなく洗面所にダラダラ流して、ベリーさんは後ろ向き、仰向けに寝て、髪を全部つけるんですよ。
それを何日か続けるんです。
━━ なんだか、もったいない気も…
金ちゃん) そうなんです。だから私の父親なんか、よくね、「ベリーさん、もったいねえよ。そんなことして罰が当たっちゃうぞ」なんて言ってたんだけど…、
━━ その気持ちもわかります。
金ちゃん) それでね、親父は、その脱色に使ったビールを「肥料になる」って言って、庭にあったアケビの木の根本に穴を掘って、そこへ全部、入れたんですよ。
━━ 効果あるんですか?
金ちゃん) うん、父親は「アケビの花の艶がいい」とか言ってましたけどね。
━━ 「ビールはいい」と?
金ちゃん) うん、「ビールはいい」と。
━━ へぇ~。
戦後、パンパンガールの間では、髪を脱色するのにオキシドールが使われた。
すると髪がパサパサになるので、米兵を恋人に持つ、いわゆる“オンリーさん”は、彼氏にビールを買ってもらい、惜しげもなく、それで脱色した
━━
そうした事実(ついでに言うと、そのビールをもったいないと肥料に使う日本人がいた)は、少なくとも僕は知らなかった。
こうした、ある意味、些末な事実(かもしれないが、僕は極めて貴重な事実だと思っている)を、少しづつでもいいから記録に残し、後世に伝えたい。
それが僕の願いだ。