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“パンパンガール”を語る「金ちゃんの紙芝居」4~【早朝から駅前に集うハニーさん】

能登半島地震もあって、久しく中断していた「金ちゃんの紙芝居」を再開します。

戦後、生きるために、米兵相手に身を売っていた女性たち ━━ いわゆるパンパン(=ハニーさん)。

「みんな、優しかった…」「みんな、一生懸命だった…」

小学生のころ、実家が貸席(今で言うラブホテル)を営んでいたため、日ごろからパンパンと接していた田中利夫さん(愛称は金ちゃん)は、その思い出を絵に描き、紙芝居として披露しています。

描いた絵はすでに800枚を超えていますが、それらを一枚一枚、じっくりと金ちゃんに解説してもらおうというのが、このシリーズです。

地震でたいへんな思いをされている方が大勢いる中、娼婦の話など不謹慎ではないかと、お叱りを受けるかもしれませんが、僕の中で、戦後のあの時代と今は、ある意味、地続きです。

輪島の火災現場の空撮を見たとき、空襲で焼け野原になった日本を思い起こしました。

住む家を失い、避難所や車の中で、寒さのあまりまんじりともせず、夜を過ごす方々の姿も、あの時代と重なります。


東武東上線の朝霞駅。

駅前に行けば何とかなる

夜は寺や神社の縁の下、あるいは農家の物置で、野宿を強いられていたパンパン(=ハニーさん)が、朝になると集まったのが朝霞の駅前。

━━ なんで朝早くから集まるんでしょうか?

金ちゃん) 結局は、行くところがないからですよ。
朝早く集まるのは、定まった住処(すみか)がないお姉さん方。
駅前に行けば何とかなる、と考える。

朝、駅前に行けば、夜勤の仕事が終わって、これから自由時間という米兵もいるから、そういう兵隊を待つ。で、お客に取るわけですね。

ハニーさん目当ての牛乳売り

当時、小学生だった金ちゃんは、朝7時30分から45分までの間に、朝霞駅前に集まって、そこから、皆で集団登校した(それを“分団通学”と呼んでいたそう)。

金ちゃんたちが駅前に集まるころには、すでに大勢のハニーさんたちが集まっていた。

米兵を待ち受ける彼女たちを目当てに現れるのが、牛乳売りの自転車だった。

牛乳が朝ご飯代わり

金ちゃん) お姉さん方は、朝ご飯なんか自分で作んないし、また作る場所もないし、そういったところに住んでないから、朝ご飯なんか食べてこない。

それを目当てに牛乳屋さんがやってきて、またその牛乳がよく売れたんですよ。
瓶を入れる箱を、必ず空っぽにして帰りましたからね。

金ちゃんの記憶では、牛乳は1本10円から12,3円。試しに『値段の明治 大正 昭和 風俗史』(朝日文庫)という本で調べたら、昭和25年で12円となっていた。さすが、金ちゃんの記憶は正確だ。

ちなみに昭和25年、ラーメンが25円で、新聞(ひと月の購読料)が52円(いずれも前述の本による)だった。

駐留軍労務者のおかげで、タバコが大売れ

━━ 絵には、文字通り、黒山の人だかりが描かれていますけど、この人たちは?

金ちゃん) 駐留軍労務者といって、米軍キャンプの中で働いてる人たち。
こういった方々が、毎朝、もう何百人と朝霞の駅から降りてきたんですよ。それで、駅から50メートルほど離れた、駅前広場の入り口に、タバコ屋さんがあったんですけど、そのタバコ屋さんが埼玉県でいちばんの売り上げだというんで、年中、表彰されていました。

━━ 駐留軍労務者というのは日本人?

金ちゃん) 日本人です。

━━ じゃあ、ハニーさんのお客ではないんですね?

金ちゃん ) ではないですね。

ラジオ体操をするハニーさん

ちょっと微笑ましい、こんな絵もあった。右上の2人の女性に注目されたい。

金ちゃん) これは、朝霞の駅前で夏休みの朝に行われたラジオ体操。お姉さんたちも一緒にやっている。

━━ えっ、ハニーさんもラジオ体操、やってたんですか?

金ちゃん) だって、もうその時間から駅前にいるから。あの頃、6時25分だったじゃないかと思うんだけど…

━━ ラジオ体操が?

金ちゃん) 
はっきりしないけど、そのくらい。
そのころにはお姉さんたち、いるんですよね。
牛乳屋さんが来る前から、駅前にいる。

━━ で、一緒にラジオ体操やるんですか?

金ちゃん)やるんです。

━━ すごいですね、エラいですね。

金ちゃん) というのは、やっぱり若いから。学校終わって間もないから(笑)、ラジオ体操やるんですよね。

━━ ふぅ~ん。

米兵相手に商売をしていた女性がラジオ体操、というと、意外に聞こえるが、大半は、つい最近まで、田舎で学校に通っていた10代の少女だったのだ。そう考えれば不思議でも何でもない。
逆に言えば、そんないたいけな女の子が、街頭に立たなければならなかったのだ。

褌一丁のオジサン、腋毛のオバサン

いちばん左でラジオ体操をしている褌一丁のオジさん。
上述の、埼玉一の売り上げを誇ったタバコ屋のご主人だそう。

金ちゃん) あのころ、こんな格好で駅前にいても別に誰も咎めやしなかった。ごく普通にいましたよ、こんな人。

━━ 隣のお母さんは腋毛を剃っていないんですね。

金ちゃん) そうそう、そうなの(笑)。よくそこまで、見ていただきました。そうなんですよ。これ、ごく普通ですから。

若いお母さんでも、赤ちゃんにおっぱいなんかやってるときもね、剃ってない人ばっかり。普通でしたよ、それがね。

褌一丁でラジオ体操をしていたり、若い女性でもムダ毛の処理をしていなかったり(そもそも、ムダ毛という概念がなかったのだろう)。

何に羞恥心を感じるかとか、何がエチケットかとかは、時代に応じて変わっていく。

かつての観念がどんなものであったかを、今から探るのは難しい。

金ちゃんの紙芝居は、そういったことを生き生きと教えてくれるから、貴重なのだ。



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