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“パンパンガール”を語る「金ちゃんの紙芝居」5~【ハニーさん 商店や民家に間借り】

敗戦直後から、埼玉・朝霞の米軍基地周辺に集まったパンパン(=ハニーさん)と呼ばれた女性たち。当初は野宿だったが、昭和22,3年ごろになると、駅近くの商店や仕舞屋(しもたや=商家でない、普通の民家)から、部屋や物置を借りて、そこを住居兼仕事場にするハニーさんが多くなる。


金ちゃん) これは、ハニーさんに貸した物置の絵ですね。

━━ 農家の物置ですかね?

金ちゃん)  これは農家の物置じゃございません。仕舞屋の…普通の家庭の物置です。農家の物置はもっと大きいし、こういう作りじゃない。

この物置は不用…使わないものをちょっと入れておくような、例えば自転車を入れてみたり、洗濯桶を置いてきたり、炭俵を置いてみたりしたような物置なんですよ。

サラリーマン家庭が、部屋を貸した理由

━━ 仕舞屋というのは、今風に言えば、サラリーマン家庭だと思うんですけど、サラリーマン家庭がハニーさんに部屋を貸した理由というのは、何なんでしょう?

金ちゃん ) 部屋代が欲しかった、ってことだけですよ。

━━ それは、ハニーさんたちの側から、「貸してよ」っていうふうに働きかけたんですかね?

金ちゃん) そういうのもありますし、サラリーマン家庭のおかみさんたちが、まあ…お姉さん方を捕まえて(笑)、「ウチも部屋空いてるんだけど、どう?」って言い出した…の方が強いんじゃないかなと思うんですよね。

━━ ああ、なるほど。先駆け的な形で貸した家があって、そこがお金を得ていると、それを横目で見ていて…

金ちゃん) 部屋代だけじゃなくて、兵隊が、なんかいろんなものを持ってきてくれるというのもあったりしてね、それを見て「ああ、ウチもあんなことしてみようかな」ってなもんで、多分、貸したんだと思いますよ。

━━ なるほどなるほど。

部屋が無い家は、玄関を貸す

金ちゃん) 部屋じゃなくて、玄関入ってすぐの、三畳を貸す家(ウチ)も結構ありました。

玄関をハニーさんに貸した家。元は髪結(かみゆい)を営んでいた。


それは、部屋数がない家(うち)ね。
要するに、自分たちが住むだけでいっぱいの家(うち)。

ハニーさんに住んでもらうと家賃収入が入るというんで、
「ウチも、そうしようよ」と。

かといって、貸す部屋がない。

すると、
「玄関が空いてるじゃないか」ってんで、
玄関の三和土(たたき)と三畳を貸しちゃう。

━━ あぁ! 三和土があって、そこを上がったスペースが三畳ぐらいあったってことですか?

金ちゃん) そうそう。

━━ でも、その三畳を貸すということは、人が出入りするところを…。

金ちゃん )   そうそう(笑)。だから、そういう家(うち)では、自分たちは玄関を使わない。勝手口を使う。

━━ ああ、出入りに?

金ちゃん) うん。

━━ へぇ~。

元髪結いの家~時代の波で廃業 ハニーさんに玄関を貸すことに

緑のワンピースを着たハニーさんが寝転んで雑誌を読んでいるのは、以前は髪結い(かみゆい)を営んでいた家の玄関。
仕舞屋の玄関は3畳程度のところが多いが、ここは客の待合室だったが故に、4畳半と広い。

金ちゃん) このころになると、髪結いさんの客もなくなっちゃいましたよね。それで多分、廃業して、玄関を貸したんだと思うんです。

━━ なるほど。
それにしても、この絵を見ると、以前の野宿時代とは段違いですよね。
洗濯物が干してあったり靴が並んでいたり、まあ物質社会というか、豊かな生活をしているって感じですよね。


部屋を借りられるのは「オンリーさん」


金ちゃん ) そうですね。
あのね、部屋を借りられる人っていうのは、ちゃんと、決まった兵隊さんを持っている、要するに「オンリーさん」ですよね。

米兵のトニーと、その恋人のベリーさん。「トニーだけよ」、つまりトニーの「オンリーさん」。

「オンリーさん」というのは、特定の彼氏がいる「パンパン」を指す。
オンリーさんになれるかどうかは、経済面で言えば、決定的な差を生んだ。彼氏がいれば、好きなものを買ってもらえるからだ。

鏡台はステータス・シンボル

先ほども紹介した。元の髪結いの家の玄関。左上に注目されたい。鏡台が見える。
金ちゃんの話からは、鏡台が、ある種のステータス・シンボルだったことが窺える。

こちらの女性も「オンリーさん」。つまり特定の彼氏がいる「パンパン」。画面の右・真ん中に鏡台がある。

金ちゃん) 鏡台を持つということは、要は、部屋を借りなきゃできないわけで、それだけでも大変なこと。
街に立っているお姉さん方にしてみれば、憧れだったわけですよ。

ましてや三面鏡なんていうのは、かなり余裕がある…楽な生活をしているハニーさんじゃないと持てなかった…
つまり、いい兵隊さんがついたことの証ですよね。

━━ なるほどねぇ。

画面の右、三面鏡の前に座っているのがベリーさん。金ちゃんの実家が営んでいた貸席に長期滞在していた。左のベッドに寝ているのが、ベリーさんの恋人のトニー。ベリーさんにベタ惚れしていたトニーは、高価な三面鏡も惜しみなく買い与えた。

そのころ 普通の日本人家庭では、鏡台の前で化粧する習慣は無かった!?

━━ そもそも、そのころ一般の日本人家庭に、鏡台はあったんですか?
三面鏡はないかもしれないけど…。


金ちゃん ) 普通の家(うち)には、鏡台はありました。
ただ鏡台はあっても、鏡台の前に座って化粧するお母さん、奥さんたちは少なかったんじゃないですかね。

━━ それは、ライフスタイル、生活習慣として、そういうのがあまりなかったということ?

金ちゃん ) ですかねぇ…。あのね、他人(ひと)に対する噂話として、こんな言葉があったんですよ。

「あそこの嬶(かかあ)は女郎じゃあるまいし、朝から鏡台の前に座って、ベタベタベタベタやってやがって、あんなもんはろくな嬶(かかあ)じゃねえや」

っていう言い方(笑)。

━━ ほぉーぅ、そうですか…。
要は、一般女性がお化粧するというのが、そんなになんていうか…、浸透してなかったって感じなんですかね?


金ちゃん ) うん。なかったし、ましてや朝霞の駅前は商人が多いですから、昔の商人は、なんだかわかんないけど、朝から晩まで忙しかったんですよね。
だから鏡台の前に座って、ベタベタやっているおかみさんなんていなかったし、紅(べに)、白粉(おしろい)を塗っているおかみさんなんていうのは、私の記憶では、駅前通りの商店のおかみさんたちには、おりませんでした。

━━ なるほど。
そうすると、三面鏡の前に座ってメイクをするというライフスタイルも、ハニーさんたちから、一般に浸透していったということなんでしょうか?

金ちゃん) そうですね、そうそう。
ハニーさんのそういう姿を見て、若いお嬢さん方が、普通の…仕舞屋(しもたや)のお嬢さん方も、「私もあんなふうにしてみたい」というんで、始まってたんじゃないかと思うんですよね。

━━ なるほど。

金ちゃん ) だから当時、若い女性でもね、紅・白粉をつけているなんていうのを、私は、本当に見たことないんですよ。

まあ、他の土地では知らないけどね、私のいた朝霞の駅前通りや駅前商店では見なかった。

━━ なるほどなるほど。

一般女性は鏡台の前で化粧をする習慣はなかった ━━  

そう言うと、
「そんなことはあるまい。現に…」
といった反論もあるかもしれない。

実は、僕はそのことの真偽には、さほど関心がない。

大事なのは、

当時、埼玉の小学生の男の子には、実感としてそう感じられた、

ということなのだ。

そうした肌感覚は、当時を生きた人しか語ることが出来ない。

​だから、そうした証言は貴重だし、記録しておく必要があるのだ。

※ お断り

このシリーズには、人権やジェンダーの観点から言って、今日においては使うべきでない言葉などが登場します。

また、今日では違法だったり、好ましいとは思われない行為も描かれます。


しかし、当時、何が起きていて、人々が何を思っていたかを知るためには、そうした言葉・行為は貴重な資料であり、記録しておく必要があると考えています。

ご理解・ご賢察を賜れれば幸いです

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