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“パンパンガール”を語る「金ちゃんの紙芝居」7~【オンリーさんと米兵・洗濯事情】

引き続き、オンリーさん(”パンパン”と呼ばれる女性の中でも、米兵の中に特定の彼氏がいる女性)の部屋の話。
鏡台、店屋もんの丼(どんぶり)と並んで、オンリーさんの部屋には、もう一つ、必ずと言っていいほど描かれているものがある。
もう一度、ピンクの布団カバーの部屋の絵を見てほしい。

画面のやや右側、ベッドの角あたりに緑色の細長い袋。「US]と書かれている。これは、米兵のランドリーバッグだ。

元髪結いの家に間借りするオンリーさんの絵にも、左下に、「US」と描かれた緑色のランドリーバッグが描かれている。

オンリーさんの部屋には、必ず、米兵のランドリーバッグが…

なぜ、オンリーさんの部屋に、米兵のランドリーバッグが置いてあるかというと…、次の絵をご覧いただきたい。

金ちゃん) これはオンリーさんのところへ、兵隊たちが洗濯物を持っていくところです。
 
━━ あぁ~。

要するに、米兵がオンリーさんに洗濯を頼むわけだ。
で、話は、ここからが面白い!

実際に洗濯をするのは?

金ちゃん) ところがね、オンリーさんが洗濯するわけでもなんでもないんですよ。

━━ というと?

金ちゃん) オンリーさんが、街のクリーニング屋さんに、これを出す。
 
━━ ああ、なるほど。

中には、クリーニング屋に出さない洗濯物もあった。

金ちゃん) クリーニング屋さんに出さないものは、近所のおかみさんに頼んで、洗濯をしてもらうんです。一点いくら、でね。


これだけなら「ああ、そうか」で終わるが、そうではなかった。
当時、今では考えられないルール(?)があったのである。

ポケットの中のものは、洗濯を頼まれた家(ウチ)がもらえる


金ちゃん) これが面白いんだけども、洗濯物のポケットの中に入ってるものは、渡された家(ウチ)がもらえるっていう、暗黙の了解があったらしいんですよ。
 
━━ へぇ~、なるほど。
 
金ちゃん) それを目当ての人もいたりしてね…

━━ ああ、いるでしょうね。

金ちゃん) 結構、いろんなものが入っていたらしいです。
 小銭とかハンカチとか。

━━ へぇ~

金ちゃん) アメリカ兵の持っているハンカチの大きさってのはね、
50cmじゃきかない、60㎝四方くらい。とにかく大きいんです。

それを洗濯すると、一枚300円で売れたんですって。
 
━━ えっ、ハンカチがですか!?
 
金ちゃん)  ハンカチが。
 
━━ へぇ~。

『値段の明治 大正 昭和 風俗史』(朝日文庫)によると、東京・板橋の一戸建ての家賃が150円(昭和23年)、900円(昭和27年)という時代。
ハンカチ1枚が300円で売れるとなれば、誰もが、洗濯を引き受けたかったろう。ただ、そう簡単でもなかった。

ハンカチは洗濯が大変!

金ちゃん) ただね、アメリカ兵は鼻紙を使わない。ハンカチで鼻をかむんです。
 
━━ あっ、そうなんですか!

金ちゃん) だから、ハンカチは洗濯するの大変だったらしいんですよ。
 
━━ なるほどねぇ。

左は手鼻のハニーさん。ハンカチもチリ紙も持ってなかった。

米兵の洗濯を引き受けるのは、もう一つ、ハードルがあった。

ポケットに入っていた小銭やハンカチはもらえるが、その他、洗濯を頼まれたシャツやズボン・パンツなどは、当然ながら、洗って返さねばならない。
その際に条件があった。

アイロンをかけねばならない

金ちゃん) アメリカ兵が持ってくる洗濯物は必ず、アイロンをかけて返さなきゃいけなかったんです。

ところが、アイロンなんてない家(うち)が多かったです。
 
━━ ああ、当時だったら、そうでしょうね。
 
金ちゃん) それで結局、「ウチにはできません」って言うんで、洗濯屋に回っちゃう、ってことはあったようです。

━━ なるほどね。
 

* ポケットの中の小銭やハンカチは、洗濯を頼まれた家がもらえる
* ハンカチが1枚300円(=一軒家の家賃の、3文の1の値段で売れた

こうした事実は、少なくとも僕は初めて聞いた。
他に記録もないんじゃいないか?

もし、「知ってたよ」という方がおられたら、情報源とあわせて、教えてください。


記録しなければ、いつしか消えてしまう記憶がいっぱいある…

だから、金ちゃんに、もっともっと話を伺わなければいけない。




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