どこかのだれかの日々の記 緒風岐ハヤト編 その2

思索や意見、感想などを形式にとらわれず、簡潔に述べた文学の一ジャンル。エッセイまたはエセーは日本語では一般に「随筆」の意味で用いられ、文学の一ジャンルとして確立している。

日本大百科全書(ニッポニカ)「エッセイ」より


日記 #102 11/21/2041(木)

今日もずっと家にいた。締め切りまであと4日を切っている。まだ完成が見えない。いつになれば完成するんだろう。本当ならこんな日記を書いている余裕もない。ただ習慣づいてしまっている事から逃げられないだけだ。日々の生活だって、漫画だってそうだ。昔から続けている事を止める事が出来ないだけ。朝6時半に起き、卓に着き、お茶を飲みながら、ニュースにアクセスする。その後シャワーを浴び、仕事の用意をして、8時に家を出る。昼食は職場近くの店で済ませ、近くの公園で休憩する。夕方6時に退勤し、30分ほどの散歩と家路を共にする。そうして夕食を済ませ、風呂に入る。風呂からあがり、日記を書く。書き終えてから描き始める。それは日付が変わってしばらく続く。最後は人形の糸が切れるように眠る。そんな不健康な生活を続けている。ここ数日はそれすらもせずにただひたすら描いている。

それだけ。

今まで諦められなかったが、これがダメだったらもう諦めよう。

もう、体力も気力も残っていない。

幸いにも貯金はあるし、職場でも上手くやれていると思う。

けど、描かなければ。今は。



日記 #103 11/22/2041(金)

今日は久々に外に出た。

足らずを補充に出ただけだが、気分転換にはちょうど良かった。

枯葉が待っていた。

気付かなかった。もうそんな季節だったのか。

描く事で熱を持った頭を冷たい空気が冷やしてくれた。

バスを待っている間、隣に並んでいた少年たちが懐かしい漫画を頭を突き合わせ読んでいるのが目に入った。

俺が生まれる前からやっていて15年ほど前に大喝采を浴びながら連載に幕を下ろした伝説の漫画。

家にあったのが専ら厚い月刊誌や隔月刊誌ばかりだったからあまり内容は知らないが、それでも主人公やその仲間たちの事は知っている。タイトルにもなっていたお宝の正体も知っている。あれが判明した時は世間の話題はそれで持ち切りだったし、連載していた雑誌も信じられないほど売れたらしい。

それに今の時代、紙媒体の漫画を一緒に読む事自体がかなり珍しい。

あの少年たちの中の誰かの家にあったものを読んでいたのだろうが、ある意味コレクターグッズであるそれを持ち出している事を持ち主は知っているのだろうか。きっと後で分かった時にあの少年たちはこっぴどく叱られるんだろう。

もしかすると今叱られている只中かもしれない。

ただ、今の時代にああいう体験が出来るのは貴重だと思うから、どうかそっと見守ってやってほしい。



日記 #104 11/23/2041(土)

やっと完成が見えた。

あともう少しだ。

日記を書いている時間も惜しい。

どうせ誰も読まないのだから、今日はこれで終えてもいいだろう。

どうせ今日も漫画を描く事以外していないのだから。



日記 #105 11/24/2041(日)

完成した。

出来た。

なんとか出来上がった。

上出来だ。

今までに感じた事のない手応えを感じる。

この作品を読んだ担当がどんな顔をしてくれるのか、今から楽しみだ。

早く明日になってほしい。

明日は11時に駅だ。あいにくの雨模様らしいから、余裕をかまして遅れる訳にはいかない。

もう寝よう。

明日の日記が良い事で埋め尽くされているように願う。



※この文章はフィクションです。実在の人物・団体などとは関係ありません。

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