どこかのだれかの日々の記 芒坂レイ 編 その1
芒坂、20歳。
エッセイを書いてみようと思う。
とは言っても今までエッセイにしっかり触れた経験がある訳じゃない。椚ソウ先生や三田岡サイゾウ先生のような著名なエッセイストの名前は知っているが作品を読んだ事はない。
それに、敬愛する領貴スズ先生のような文才がある訳でもない。
多分このエッセイは日記みたいなものになると思う。
三日坊主にならない事を願う。
第一志望だった今の大学に入ってもう1年と少しが経った。私は生まれてこの方、友達と呼べる友達が1人も出来た事がなかった。私自身それでよかったのだ。ある程度人当たりの良い立ち振る舞いは出来るが特に人に興味がある訳でも1人が苦になる性格でもない。1人で好きな本が読めるだけで良かった。
大学に入る前、そして入学してからもしばらくはそうだった。「授業についていけるか」や「大学のシステムに早めに馴染めるかどうか」とかそういう事ばかりを考えていて「友達が出来るかどうか」なんて思い浮びすらしなかった。
そしてちょうど一年くらい前。大学生活初めての夏休みに入る少し前に私はIと出会った。彼女が、私の人生にとって初めての友人である。
きっかけは本当にささいな事だった。夏休み前に学内の図書館へ本を借りに行った時に、図書館の入り口近くで地面に散らばった大量の書籍とそれを泣きそうになりながら拾い集める女の子がいた。それがIだった。
最初はそのままスルーして中に入ろうとも思ったのだが、それは人間としてダメだと思いなおして本を拾うのを手伝う事にした。
私はそれで終わりだと思ったのだが、Iはそうならなかったようで、図書館に入ってからも執拗に私の後を付け回し挙句の果てに「今からちょっと時間ありますか!?」と半ば無理やり大学近くのカフェへと私を連れて行った。
まさか本を拾っただけでカフェに連れていかれるなんて思ってもみなかった私は「これは世にいう怪しげな勧誘を受けるのでは!?」と警戒していたのだが、相手からそんな話が出てくる気配がない。それどころかのんきに自己紹介やらあの教授が面白いやらつまらんやらを話している。
それを聞いていると警戒していた事が段々馬鹿らしくなってきて、自分でも驚くほど自然体で話していた。家族でもあそこまで自然体の私を知らないと思う。
そうして話している中で好きな本が似ている事が分かり、仲良くなった。
まさか友達というものがあんなに簡単に出来るものだとは知らなかった。本の中だと私みたいな人間は友達を作る時にかなり苦労していたが、現実はそうでもないのかもしれない。
Iとの出会いはそんな感じ。
それからは暇な時間に連絡を取り合っては買い物に行ったりレポートに取り組んだりしている。それぞれ学部は違うが、だからこその刺激もあって面白い。
Iは多趣味な奴である。
本以外にも映画、音楽、ゲーム、アニメ、歴史、スポーツ、ウメノグ、料理、ヘアメイクなどなど挙げればキリがないほどの色々な事に詳しい。
聞けば「下手の横好きが行き過ぎて下手好き横丁になっちゃったんだ」と言っていた。言っている事はよく分からなかったが、多分一度興味や関心を惹かれればすぐに飛びつくみたいな事だろうと考えている。
それだけ多趣味で人懐っこい性格なら学内みんな友達!みたいのでも不思議ではないのに、そういうそぶりがないから一度尋ねてみた事がある。答えは明快なものだった。何てことはない。アメリの地元がだいぶ遠かっただけだった。地元にはそれなりに友達がいるみたいだが、その殆どが地元大学に進学して東京まで出てきたのがIだけだったという事らしい。
今書いていて思いだしたが、高校3年の時にクラスメートが「大学にいったら離れ離れになるね」とか話していた気がする。あの人たちみたいな事か。
そして先日、いつものようにIと話していると唐突に「文章書いてみたら?」と言われた。Iは私との会話が好きらしく、それをそのまま文章にしてみたらどうだろうかという事らしい。今まで作文くらいでしか長い文章を書いた事がないし、それで賞をもらった事もないしそもそも何を書けばいいのかも分からないからやらない、と断っていたのだが「じゃあ日記とかエッセイみたいなのでいいから!」と何としてでも書かせようとしてくる圧に負けた。
だから今慣れない手つきで文章を書いている。
ネットに投稿する気もなかったのにIが展開した「ネットに投稿した方が継続できる論」の怒涛の勢いに流されてしまったから、こうしてネットに投稿する事になってしまった。
誰も読まないと思うけど、もし読んでいる人がいたら他言無用でお願いします。
最初だし、この辺りで終わろうと思う。
また気が向いたら続きを書こう。
※この文章はフィクションです。実在の人物・団体などとは関係ありません。