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「お前のような人間が嫌いだ」

アイヌ感謝祭。毎年10月頃、主に首都圏在住のアイヌの方々が中心となって行われるイベントだ。当日は、首都圏でアイヌ文化を継承するメンバーによる舞踊や歌の披露、そしてアイヌ語やアイヌに伝わる楽器のワークショップなどが行われる。ちなみに、首都圏には5,000〜10,000人のアイヌの方々が暮らしていると推定されているとのことだ。

その日、私はボランティアスタッフとして主に受付を担当することになった。開演時間が近づくにつれ、次から次へと参加者がやってくる。彫りの深い顔つきの人、豊満なヒゲを持つ人、南方の国の方のような丸顔の人など。受付業務に慣れるうちに、なんだか普段では見慣れない顔つきをしている人たちが多いことに気づくようになった。

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都内のイベントで練り歩くアイヌの方々(筆者撮影)

ちなみにアイヌは一般的に彫りの深い顔立ちで、体毛が濃くがっしりとした顔つきという身体的特徴を持つとされている。そういえば後日、体毛についてアイヌの方と話題になった時に、「アイヌが濃いんじゃなくて、グローバルスタンダードで考えると日本人が薄いだけだ」と言われて納得したことがあった。まさに人は自分を基準に物事を判断してしまいがちである証拠だろう。

イベントが始まり、トンコリと呼ばれるアイヌに伝わる弦楽器の演奏や、エムシリムセと呼ばれる刀を使った男踊りなどが披露された。私はただただ見惚れていた。まるでどこか異国の地に旅行で訪れたかのように、そこで披露される踊りや音楽はこれまで私が全く観たことも聞いたこともないものだった。話される言語もまったく理解できない。この状況で「アイヌは存在せず、日本人の一部である」という意見を肯定することは不可能に思えた。そして、私はアイヌについてもっと知りたいと思うようになったのだった。

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アイヌ感謝祭でトンコリを演奏するアイヌの男性(筆者撮影)

ところがこの後事件が起こる。アイヌ感謝祭終了後の懇親会の席のことだった。会も終盤に差し掛かった頃、私の隣に30代の若いアイヌの男性が移動してきた。自己紹介をした私は、自分が大学生であること、アイヌについてもっと知りたいと思っていることなどを話した。すると彼は態度を急変させ、鋭い口調で話し始めたのだ。「俺はお前のような人間が一番嫌いだ。」私はあまりに突然の出来事に、言葉を失った。

※カバー写真「アイヌ感謝祭2014ポスター」(筆者撮影)

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