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祭りの締めは輪踊りで

2015年5月24日。大学2年生となった私は、大学の教授の紹介で来店して以来、東京・大久保にあるアイヌ料理店「ハルコロ」に足繁く通うようになり、常連客となりつつあった。そんな矢先、そのお店が野外イベントに出店するということで、一緒にいかないかと店長からお誘いを受けた。そして、八王子市役所前の浅川河川敷広場で開催された多文化・環境共生型野外フリーイベント「第8回みんなちがってみんないい」に参加した。

このイベントは、1993年から続いている歴史あるイベントで、毎年5月に開催されている。イベント名は、金子みすゞさんの有名な詩から引用されている。国際交流や街づくり、障害者問題に取り組む人々が、民族音楽を取り入れた有名バンドを八王子に招く話が持ち上がったことがきっかけでこのイベントがスタートしたとのこと。現在では、多文化共生に加えて環境との共生もイベントのテーマの一つとなっている。
なお、2015年に第8回となっているが、通算23回目で、現在の形になってからの回数が8回目とのことだ。

首都圏在住のアイヌの方々のグループも、このイベントが始まった当初から参加しているとのこと。アイヌ以外にも、沖縄にルーツを持つ方々によるエイサーや在日韓国・朝鮮人の方々による朝鮮農学など様々な民族音楽のグループも参加している。

ちなみにこれはその後気付いたことではあるが、関東圏で開催される様々なイベントにおいて、アイヌの方々と沖縄や朝鮮半島にルーツを持つ方々、障害者の当事者や支援者、環境保護活動をされている方々などがコラボレーションしているケースに何度も出会った。歴史的な経験や社会的な立場などに共通点や共感点が少なくなく、それぞれの活動は親和性が高いようだ。

当日、会場に行くと浅川の河川敷には多くのお店がテントを構えて立ち並んでいた。エスニック料理店や雑貨屋さん、団体の活動を紹介するブースなど多種多様。野外ステージも設けられており、多様な団体が演奏していた。
演奏といっても、うまい下手は気にせず、いろいろな障害や苦しい経験を乗り越えて自己表現をしようとステージに立つ人々を肯定する姿勢だと感じられた。なので結構ステージは自由。音程を外しても、踊っている途中にステージから外れても気にしない。観客の乱入(?)も当たり前といった感じ。踊りや演奏だけでなく、中には羊の毛皮剃りをするグループまでいてめちゃくちゃでなんでもあり。この自由さや手作り感が病みつきになる。


こういった野外イベントは開放感があって気持ちがいい。気分は爽快。開放的な気持ちになり、他者に寛容になれるような気がする。主催者の狙いはそこにもあるかもしれない。もはやステージじゃないところでパフォーマンスをしている人も。
私自身も、普段は踊りなど苦手中の苦手。高校のダンスの授業では落第しかけたほど。だが、この時ばかりは、下手だろうが許される気がして、楽しく踊ってみたのだった。
ちなみにイベント運営は多くのボランティアスタッフによって行われていた。同世代らしいスタッフに話しかけてみたところ、地元八王子の大学生という。地域活動に取り組む大学教授の誘いでの参加とのことで、地域に定着したイベントなのだと感じた。
また、司会などの一部スタッフを知的障害を持った方が担当されている様子であった点も印象的だった。

さて、私は単なるお客さんというわけではなく、せっかくなのでということでアイヌ料理店ハルコロのブースのボランティアスタッフとして参加した。
ブースに到着すると、ザンギやイモシトなどのおなじみの商品が出来たてで提供されている。なお、ハルコロの店長は、当時「ヤイレンカ」というアイヌ民族舞踊の女性ユニットの代表もしていた。ヤイレンカとは、アイヌ語で「嬉しい」や「喜ぶ」などの意味があり、関東を中心に様々なイベントに出演していた。そして、このイベントにもお店の出店だけでなくヤイレンカとしてステージ出演もしていた。

ハルコロのブースの裏にふと目をやると、そこにはブルーシートが敷かれ、子供たちがいた。ヤイレンカメンバーのお子さんたちが遊んでいたのだった。子供たちもマタンプシやテクンペなどのアイヌ民族衣装を身につけ、接客をしたり親たちの練習に加わったり(というか邪魔をしたり?)。そうした中で、幼い頃からアイヌとしてのアイデンティティを自然に身につけていくのではないかと感じた。

さて、お昼時がやってきた。ハルコロのブースは大盛況。珍しいアイヌ料理店を食べてみたいという方も中にはいらっしゃるが、とにかくザンギが大人気。そのおいしい味や漂う香りに惹かれて行列が止まらない。その場で揚げたものを提供しているので、お客さんの数に提供数が追いつかず、ブース内は大騒ぎだ。まだ夏は先だというのに、汗をだらだら流しながら準備をする。私は店先で呼び込みやお客さんの注文や商品の受け渡しなどの対応をした。私以外にも、大学時代に私のようにアイヌ民族について興味を持ちハルコロに来るようになった男性の方がボランティアにいらっしゃっており、二人で声を張り上げ、たまにビールを飲み、そしてまた声を張り上げた。

そうこうしているうちに、ヤイレンカの出番となった。アイヌ舞踊やアイヌの歌遊び、楽器演奏などを行う。釧路湿原の鶴の様子や、十勝地方に大量発生したバッタの様子など、自然の姿を模した踊りや、農耕歌。地震の揺れを鎮めるために、地震の原因だと考えられていた土中のナマズに向けて棒で地面を叩く踊りやムックリと呼ばれる口琴楽器で恋の相手に想いを伝える演奏などアイヌも。奥深いアイヌ文化の一端をうかがい知ることができる。
そして、必ずと言っていいほどどんな時でも締めくくりに行うのが、輪踊りだ。アイヌ語ではポロリムセと言う。ポロは大きい、リムセは踊りという意味だ。帯広カムイトウウポポ保存会によると、「歌詞には時として、言葉の意味がない掛け声もある。これは踊り歌には神と人間が一体となって喜びを分かち合い、神に呼びかけるという意味が込められている。」とのことだ。たしかに、「ウーホホホイ!」「ハッ!」といったかけ声が踊りの中では多く、踊っているみなで発声する。内側の輪は一部の男たちによって、外側の輪は他の男たちや女たちによって作られる。
この日も、出演者も来場者もごちゃまぜになって、輪踊りが行われる。私はこれまで一度も踊ったことがなかったのだが、2歳になる店長の娘さん手を引かれて輪の中へ。見よう見まねで踊ってみると、どんどん踊ってみたい人が客席エリアから乱入(笑)最後は大盛り上がりでフィナーレとなった。
踊りや演奏というと、ステージで表現されるものを観覧するものしか経験してこなかったのだが、古来より人々は祭りや儀礼の場で、自然発生的に踊っていたのだろう。これはアイヌの人々に限定されたことではない。

きっと私たちの先祖たちは、何か嬉しいことがあった時にこうやって人々と喜びを分かち合ったのだろうなあ。なんてことを思いながら、汗を書いた後のビールを飲み干した。
このイベントは、ステージの中へとある意味閉じ込められてしまった踊りや歌、楽器の演奏といったものを、人々の手の中に取り戻そうとしているのではないだろうかとさえ思った。

※写真はHPから

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