見出し画像

東京でアイヌとして生きるということ

2014年11月上旬。大学1年生だった私は人生最初の学園祭に興奮する同級生たちに見向きもせず、東京・中野で開催されたチャランケ祭りに参加した。

チャランケ祭りとは、1994年にスタートした、主に関東在住のアイヌとウチナーンチュ(沖縄の方々を指す。ちなみに海外では、沖縄の方々はOkinawanと呼称され、Japaneseとは別のグループとして認識されている。)が共同で開催しているイベントである。

会場である中野駅北口暫定広場(現在は駐輪場となっている)には、アイヌや沖縄の伝統的な衣装を着た方々でいっぱいだ。関東に5,000~10,000人程度のアイヌの方々が暮らしているといわれているが、これまであまり実感ができなかった。だが、このイベントに参加して、関東にも仕事や進学など様々な理由でたくさんのアイヌの方々が暮らしていることを実感した。

チャランケ祭り終盤の儀式の様子。アイヌ(写真奥)とウチナーンチュ(写真手前)が向き合っている。(筆者撮影)

友人に「アイヌの方々について学んでいる」と話すと、ほとんどの場合は「え、アイヌってまだいるの?」という答えが返ってくる。シャクシャインの乱あたりでアイヌに関する知識はストップしているのだ。次に多いのが、アイヌは北海道にしかいないと思っている人たちだ。真顔で、「なんで東京にアイヌがいるの?」と聞いてくる。香川出身の私が東京にいることには何の疑問も持たないにも関わらず。関東に暮らすアイヌの方々は、和人の圧倒的な数と無知と無関心に囲まれているのだ。

北海道であれば、たくさんのアイヌ語由来の地名があり、アイヌの人口も一定数存在し、アイヌ文化を活かした商品やサービス・イベントなども少なくない。もちろん人口では和人が圧倒的であるし、依然として差別も残っているが、民族の文化の中で生活している実感が比較的持ちやすいだろう。一方、民族の土地から離れ、徹底的な異文化に囲まれて暮らす首都圏のアイヌの方々には北海道のアイヌの方々の苦労とは違った苦労がある。

首都圏のアイヌ民族によるグループに所属している友人は、以前こんな話をしていた。「イベントに呼ばれた時、必ず北海道から来たんですか?と聞かれる。そして、東京ですと答えるとがっかりされてしまう。まるで偽物だといわれているような気分だ。」

八王子市で開催されたイベントに出演する関東在住のアイヌのグループ(筆者友人提供)

「北海道に住んでいれば、踊りや刺しゅうなどアイヌに関わることをしていなくてもアイヌというアイデンティティを比較的保ちやすいと思う。でも、東京にいると、何もしていないと和人の中に完全に埋もれてしまう。仕事や家庭など大変だけど、それでも一生懸命踊りや刺しゅうを学び、披露しているのは、自分がアイヌであり続けるためでもある。」

※カバー写真:チャランケ祭り開式の儀式(筆者撮影)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?