終わる世界。あのとき昆はたしかに生きていた。(10月第4週)
2024/10/22(月)
今日も一日パソコンとの睨めっこ。
最近はこれが月曜日の恒例になりつつある。
一週間分の日記をまとめて公開するようになった影響が大きい。
僕はかなり夢を見る。
もしかしたら「夢をよく覚えている」と言った方が正確なのかもしれない。とはいえ、覚えているのは目覚めて数刻程度までで、意識していないとすぐに忘れてしまう。起床時に直前に見ていた夢の断片的な記憶を書き留めておいて、それを定休日の月曜日に纏めるのだ。
脈絡のない荒唐無稽な映像の連続となりがちな夢の記憶片を一繋がりの文章に纏めるのは中々に難しい。僕は文才が乏しいから尚更のことだろう。
きっとこの習慣は頭の良い訓練になるだろうと思う。
現実での生活に加えて夢の中での様々な記憶を留めておく様になってから、二つの世界を行き来している様に感じることがしばしばある。
まるで昔読んだ村上春樹氏の小説「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の様だ。
ふとそんな事を思いついて、日記のタイトルを変えてみた。
夢の世界はいつも一晩で終わってしまう。
基本的には物語が次の晩へと引き継がれることはない。(一度だけ経験した事がある。)
その時々で終わってしまう夢の世界を「世界の終わり」に因んでみた。
(たしか、小説の方では夢の世界を指す名は「ハードボイルドワンダーランド」だった筈だけれど……。)
久しぶりに「世界の終わりと〜」をまた読んでみたくなった。最近はめっきり村上氏の小説は読んでいないから、未読のものにも手を出してみよう。
2024/10/22(火)
いつも通りの一日。
今日は早起き出来たおかげで練習時間を多くとることが出来た。
嬉しいはずなのにあまり喜べないのは上達の実感が薄いからだろう。あまりいい練習が出来なかったように感じる。
「スランプを感じる時こそが成長のチャンス。」なんて話を聞いたこともあるし、きっと、腐らず地道に取り組むことが肝要なのだろう。
・終わる世界
僕は切手貼り。
山の様に積まれたハガキに切手を貼っていくのが僕の仕事。
貼っても貼っても終わりは来ない。
一山貼り終えると、その奥には必ず次の山が現れる。
僕は延々と切手を張り続ける。
朝から晩まで一日中。
昨日も今日も明日も明後日も……。
僕の動作は洗練されている。
一連の動作には全くの無駄がない。
作業机を前に、全身の力を抜いてこれからの動きをイメージする。そして、おもむろに動き始めたら一気に加速してトップスピードまで駆け上がる。あとは無意識に身体が動くのに任せて、それが馴染んできたらほんの少しずつスピードを上げていく。
長時間の単調な作業は余計な事を考えさせる。
時折、僕は切手を貼るロボットなんだろう思う。
新型の切手ロボット。
自己学習機能で作業の効率化を常に志向する自律型のロボット。
でもそのロボットは考えてしまう。
「メーカーはなんでこんな余計な機能をつけたんだろう。ただ切手を貼る機能だけがあればいいのに。仕事が退屈に感じたり憂鬱な気分になったり、、、こんな思いをするロボットは不良品だ。」と。
一山分の作業を終え次の山に手をつける。
はがきを机に移しながら窓の外に目をやると、だいぶ日差しが強まっていて眩しく感じた。
心なしか室内の温度も上がっている様に思う。
「今年も夏が始まる。」
はがきが日光に焼かれない様にレースのカーテンを引いた。
席に戻って引き出しから切手束を取り出す。
作業中に切手を一枚ずつ摘みやすくするために束の端をペラペラ弾きながら捲ると、大葉のさわやかな香りが部屋に広がった。
美しい切手だ。
青みがかった綺麗な深緑は生命力に満ちてる。
端のギザギザは、触ると少し痛いくらいだ。
いつもは大判の枯葉を使うものだけれども、もしかしたらこの切手でも変身することができるかもしれない。きっと、この香りに包まれての変化はさぞ心地よいんだろうなあ。
所長に内緒で一枚とっておいて後で試してみよう。
〈終わり〉
・練習時間6時間
2024/10/23(水)
なんとか早起きはできたものの、身体が異様に重い。小一時間練習してみだけれどまったく集中できないので横になった。
今日はやたらとものを落とす。
昼食の時には茶碗や小鉢を何度か落とした。
お弁当の支度をしていると水筒や調理器具を落とした。
感覚が鈍っているのだろうか……。
「また脳出血などの症状が出たのではないか」と母が心配したが、どうやら大丈夫そうだ。
仕事中も倦怠感は強く、時折、目の奥が痛んだり嫌な頭痛がしたりした。
疲れが溜まっているのだろうか。
そうというよりは、疲れが回復していない感じだ。
どうにかしてこの状態を抜け出したいけれども、どうしたものか……。
体調がすぐれないので通勤時にアディダスのアプリを使うのは控えた。
(いつもは自転車通勤時にこのアプリで時間やスピード、消費カロリーを計測してるんだ。)
・終わる世界
街中で途方に暮れた様子の子供たち見かけた。
話しかけてみると「帰り道がわからないのだ」という。彼らは施設の子どもでおつかいの最中に道に迷ってしまったらしい。
施設の特徴や周りの風景などをあれこれ聞きながら、検索とGoogleマップを頼りに子供たちを施設まで送り届けた。
彼らの手を引きながら施設の中に入ると他の子供達も集まってきて、「物怖じしない子たちだなあ。」と感心した。
子供たちと小一時間ほど遊んでそろそろ帰ろうかと支度を始めた時、園長が現れた。ピンとした背筋と穏やかな笑顔が印象的な老女だった。
彼女は、子供たちを連れて来てくれたことや一緒に遊んでくれた事へのお礼から始めて、この施設の運営が経済的に苦しいことや世間の風当たりが強い事などを滔々と話した。
最後に「あの子たち、とても寂しがっているわね。こんなに人になつくのは珍しいの。もし良ければまた遊びに来て頂けないかしら?」と付け加えた。
後日、改めて施設を訪れると子供たちは飛び上がる様に喜んだ。この日は一日中たっぷりと子供たちの相手をした。
そして、また帰り際に呼び止められる。
今度は事務員だった。
「子供たちと遊んで下さりありがとうございました。この施設では有志の教員に月々3万円の会費と、別途寄付金を納めてもらうことになってます。あなたはまだ仮登録の状態なので、お帰りの前に本登録の方をお済ませくださいね。」
事務員はそう告げてから、後ろ手で扉の鍵を閉めた。
その扉はこの部屋の唯一の出入り口だった。
窓の外では子供たちがチラチラとこちらを伺っている様子が見える。
もしかしたら、庇護欲を掻き立てる子供たちの仕草や表情は仕込みなのかもしれない。
きっとそうなのだろう。
あるいは迷子さえも……?
誰も信じられない。
〈終わり〉
・練習時間1時間
バッハ 平均律BWV846~851
2024/10/24(木)
一日中練習をしようと目論んでいたのに、頭がぼぅっとしてスッキリしない。体が重いと感じていたら、案の定、尿の色がかなり濃かった。
無理を通そうかとも思ったけれど頭痛がきつくなってきたので横になることにした。結局、午前中は何もせずに過ごしてしまった。
午後になって少しずつ意識がはっきりとしてきたので練習を始めた。
ぼちぼち練習はしたけれど、あまり有意義に時間を遣うことはできなかったかな……。
・終わる世界
待ち合わせ場所は駅前の遊歩道。
まず一番最初に優斗(歌舞伎町Heloでの同僚、かわいい顔をしたホスト)が来た。次に青木さん(回転寿司屋での同僚。いつも笑顔の小柄なおじさん)、それから名前を知らない新人ホストたちが合流した。
皆がそろったのを確認して西武新宿線 沼袋駅の入り口をくぐる。
一瞬、ストロボを焚いた様な強烈な光が瞬いて、少し遅れて轟音が鳴り響いた。それからさらに少し遅れて大雨が降りだす。
突然のゲリラ豪雨だ。
青木さんがクシャリと破顔して持っていた傘を開いた。
澄んだ水色が眩しい傘だ。
満面の笑みを浮かべた青木さんは、「町に雨を知らせに行かねぇと!」と小気味良いステップで雨の中に消えていった。
僕たちは改めて沼袋駅の通路を進んでいく。
長い通路を歩いていくとやがて改札が見えてきた。(沼袋は小さい駅で、そんな通路はない。)
ゆうとは券売機の横の閉まったシャッターの前に立ち、鍵を開けてみんなが集まるのを待った。
「今は隠れ営業してるんで見つからない様、一気に入って下さい。」
久しぶりのホストクラブ。
大理石の床、それっぽい間接照明、廊下には先月の売り上げ順にA2サイズのホストの写真、その後に続くボトル棚には様々な装飾がされたボトルネックタグのかかったブランデーが並ぶ。
キャッシャーを抜けて案内された席には、スーツ姿の強面の男性と水商売風の女性が2人ずつ、ソファー側に座っていた。
きっとキャバクラからの梯子なんだろう。
僕はヘルプ席に座る様に促され、席に着く。
どうやらこのテーブルの接客をさせられるらしい。
優斗が「今働いている店にどうしても招待したい!」と言うのでしぶしぶ来てみたけれど、まさかこんなことになるとは……。
もう夜の仕事を上がって10年以上経つのにこんなのは無理に決まってる。
全く自信がない。
一緒に着いたヘルプとも面識がない。
話にうまく入っていけない。
話している内容がよくわからないし、彼らが笑っていることの何が面白いのかもサッパリわからなかった。
でもヘルプ席は合わせて一緒に笑う。
僕も笑う。
きっと顔が引きつっているんだろうなあ。
席を離れるわけはいかないが、かと言って何ができるわけでもない。ソファー側に於かれたグラスに氷を足して、グラスの汗を拭きとって……。
早速やることがなくなってしまった。
なんでこんな思いをしなければならないんだ。
やっぱりホストクラブになんか来なきゃよかった。
〈終わり〉
・練習時間4時間
2024/10/25(金)
・終わる世界-1
そのとき、僕は石の鑑定をしていた。
カウンターを挟んで向いには一人の女性が座っている。憂に満ちた表情が彼女をやつれた様にも見せている。
残念なことに、持ち込まれた石のほとんどはまともな値のつかないものだった。シルバーアクセサリーに取り付ける事で、捨てる筈のクズ石を有効活用した様なものばかり。石単体での値段を見るよりは幾分マシになるだろうと思い、ワゴン売り用の雑多なアクセサリーとして買い取る事にした。
それにしても大した量だ。
カウンターにはチェーンやバングル、チャームやリングが粗雑に詰まれたA4サイズのトレイが三つ並んでいる。
もしかしたらこの中に希少な石やブランド品、数量限定の記念グッズの様な価値のありそうなものがあるかも知れない。そういったものを見落とさない様に注意深く鑑定していく。
トレイに山積みにされたアクセサリーの絡まりを解きながら、その中の一つを手にとる。すると、彼女は呟く様にこのアクセサリーの思い出を語り出した。さっきまで焦点の定まらない視線で放心していた表情には僅かな生気が差して、懐かしそうに目を細めた。
一つのアクセサリーに対して一つの物語が語られた。
それらは短かったり長かったりしながらも、不思議とそれぞれの鑑定時間の中に収まっていた。たくさんのネックレスや指輪の鑑定と共に一つずつ語られる物語は、さながら彼女の人生そのものの様だった。
一通りの査定が終わり合計買取金額を電卓に表示してみる。予想してはいたが、改めて数字にしてみるとそれは虚しいものだった。
「これが私の生きた時間の値段なのね。」
自嘲気味な笑みを力なく浮かべて彼女は席を立った。
〈終わり〉
・終わる世界-2
空を飛ぶ!
上昇時の加速がとにかく凄いからコントロールが難しい。気をつけないと電線に引っかかったり高層ビルにぶつかったりしてしまう。
頭上を覆い尽くす看板やケーブル、乱立するビルのすき間をギリギリですり抜けながら飛び上がる。数秒後には視界が一気に開けて、僕は空に包まれるれていた。
地上の景色は霞んでしまって、もうほとんど見えない。まばらに見える鉄塔から伸びる電線が上下の感覚を辛うじて保ってくれている。
周りに何もない不安が自由感を塗り替えていく。
僕は家族と共に昨日この街に来た。
今日この空を飛ぶことは、昨晩泊まった部屋で決意していたのだ。
その宿はラブホテルだった。
当初予約していたホテルに向かうと、そこは更地で何も無くなっていた。急遽ほかの宿を探しても空き部屋を見つけることはできず、途方に暮れて仕方なく、出来るだけ落ち着いた佇まいのホテルを選んで入ったのだ。
全ての部屋の定員が2人なので、フロントにある部屋選択のタッチパネルの前で組み分けをした。僕は姪っ子と同じ組となった。
家族は皆それぞれの部屋に分かれていき、僕たちも部屋に入る。そこは照明がブラックライトの部屋だった。姪は初めてブラックライトを見る様で、「歯が光ってる!」とはしゃいでいた。
今回の旅はこの姪っ子の送別会を兼ねていた。
彼女は中学に上がってから久しく不登校だったのだが、妹はとうとう面倒を見切れなくなってこの子を丁稚奉公に出す事にした。
彼女には、これから長い辛抱の生活が始まる。
家族のみんなが、彼女を辛抱強く見守りながら様々なサポートやアドバイスをしてきた。しかし本人にも家族にも状況を改善させる事はできなかった。きっと問題の解決には、今回の決定の様な強制力が必要だったのだろう。
だから「不憫に思う」とまではいかないけれども、それでも、奉公前の最後の思い出にこの旅をたっぷりと楽しんで貰えると良いとは思っていた。
興奮気味に部屋をあれこれ物色してる姪っ子に、ルームサービスのメニューを見せて夕飯を選んぶよう促した。
「ママに何食べるか聞いてくる!」
興奮がまだ覚めない様子の姪っ子が止める間もなく部屋を飛び出していく。
それから少しして部屋の電話が鳴った。
「お連れ様が部屋をお出になられている様なのですが、他のお客様の部屋に入られてしまって苦情が来てるんです。もしかしてお連れ様は未成年者ではないでしょうか?」
何とかごまかして謝罪をして電話を切る。
姪っ子はもちろんラブホテルに入ったことなんてないだろうからルールやマナーを知る由もない。
戻ってきた姪には状況を説明して注意した。
自分がしたことの不適当を理解して大層落ち込んだ彼女は、テレビ台の引き出しの中にリモコンと並んで丸くうずくまった。
〈終わり〉
2024/10/26(土)
・べりべり練習会
今日はピアノ友の べりさん が誘ってくれた練習会。
渋谷ホールのヤマハグランドのある部屋に向かった。
渋谷ホール&スタジオではホール以外の部屋に入るのは初めて。
同じく参加予定だった さくらゆりさん がベーゼンドルファーの部屋で練習するとの事だったので、僕も早めに到着してこれに合流した。
ゆりさんとは、いよいよ本番が近い歌と伴奏の合わせ練習を行った。
練習会の開始は11:00から。
参加予定だった人が急な仕事のため一人欠席し4人での開催だった。
初対面のたんざわさんは積極的に話しかけてくれてすぐに打ち解けることが出来た。
参加者がそれぞれローテーションで演奏を披露しながら2時間半を過ごした。
僕はいま、バラード1番(ショパン)の最後のスケールが練習でも録音でも弾けるのに人前では途端に弾けなくなることに難儀していて、今日も試してみたけれどやっぱり駄目だった。
スケール開始地点で、指が何をしてよいのか判らなくなってしまうのだ。
恐らく、このスケールをグリッサンドのようなイメージで入力してしまっているのではないかと感じた。
その結果、指がスケールの構成音を一つずつ発音する動きをとれずに弾けなくなるのだと思う。
もしそうだとしたら、構成音一つ一つを弾く指それぞれにしっかり印象付けての反復練習が有効だろう。
2~3000回くらいやろうと思う。
少し余った時間は初見での連弾に挑戦した。
曲はリストのハンガリー狂詩曲2番の連弾編曲だったのだが、調がF#メジャーで変化記号や臨時記号が多く、事前の流し読み無しでの初見演奏は僕には荷が重かった。
スタジオを出てからはゆりさん以外の3人で昼食を摂った。
ゆりさんは夜にコンクール本選の審査があるとの事で先に帰った。
ゆりさんの相変わらずの行動力には感心する。
ハロウィンシーズンのせいか、飲食店が山ほどあるのに空席が全くなかった。さんざん探してやっと入れたイタリアンは中々に美味しくて、「結果オーライだったのかな」とは思えた。
帰宅後は練習に取り掛かったけれど、あまりの眠さに力尽きた。
昨晩は2時間しか眠れなかったのだから仕方ない。
・練習時間5.5時間
2024/10/27(日)
・「開け!瑠璃ノ小匣」
今日は赤羽のスタジオセグエで「開け!瑠璃ノ小匣」。
宣伝もお誘いもあまりしていないので今回の参加者は少なめ。
それでも、たっぷりとみんなでピアノを堪能することが出来たので満足度の高い一日だった。
メンバーはわたくし(昆)と、ちーちゃんとマリコさん。
マリコさんとは久しぶりに会う気がする。
2人は午前中に上野で合わせ練習をしてきたらしい。
3人で4時間。
たっぷりとピアノを弾いたので、課題などの抽出も落ち着いて行うことが出来た。先日のバラード1番のスケールの件は、やはり想像通りの様だった。改めて、スケール構成音とそれぞれの指に意識づけて弾いてみると、幾分ましになった。後はこれを定着させる練習を行おう。
スタジオを出て解散。
帰り道の方向が同じちーちゃんが新白岡から自宅まで車に同乗させてくれ自宅まで送ってくれた。ちーちゃんには甘えてばかりだ。
ちーちゃん、いつもありがとう。
帰宅後は早速今日の動画の編集作業に着手。
まもなく力尽きる。
昨晩も3時間程度しか眠れなかった……。
・終わる世界
両親は離婚している。
父親は離婚後すぐに娘の歳ほどの若い女性と再婚し、さらにそのすぐ後に別の女を作った。父の不倫相手はどんどん増えていき、父は彼女らに各付けをしていた。
継母とはほとんど話さなくなった父を慕いながら、新たな継母は身を粉にして働き家にお金を入れた。
家ではいつも女が入れ替わり立ち替わり泣いてた。
学校を卒業した僕は実母に会いにいったが、母は亡くなっていた。
〈終わり〉
・練習時間2時間
ショパン バラード1/3/4番
今週の練習時間
今週:18.5時間
今月:58.5時間