サくら&りんゴ #119 ただいま!そして奇妙な(?)共同生活の始まり
てっきり東京のベッドの中だと思っていたら、水鳥の声がした。
あ~そうだった。戻って来たんだ。
夜明け前の湖畔の静けさが窓越しに”聞こえて”くる。
わずかな波の音
遠くの水鳥
左手を伸ばすと広いままのベッド。
体温でぬくもっていないところはシースもひんやり黙ったまんま
今回、日本からカナダ湖畔の家に戻ったらどんな気持ちになるだろう
それは少し不安でもあった。
東京での生活は楽でいい。
しばらく過ごしていると元いたところにストンと落ちる感じがある。
湖畔の家に戻っても、もう夫がいない事はわかっていて。
空港のゲートを抜けても、そこで待ってくれている人がいない事はわかっていて。
しかし水鳥の声で目が覚めると、ああ戻って来たんだと。
窓を開けるとそこは春先の湖の色。日本へと発った時の、あの冬へと向かう色とは違うけれど、見慣れた湖が変わらずそこにある。
湖の存在がこんなにも私を安心させるとを夫 ジェイは知っていただろうか
そしてライブラリーのガラスドアに沿って外には、ジェイが選び私が植えた水仙が花をつけていた。
昨夜帰宅して、モーションライトに照らされ黄色が浮かびあがったその時
夫がお帰りと言ったことが私には分かった。それは彼がかつてここにいたという証拠。
しかし実のところ、その水仙がそろそろ花をつけているかもしれない事等、すっかり忘れていたのだ。去年はそんなこともすごくすごく大事だったのに
空港から乗ったUberを下りると、私がいない間、湖畔の家を見てくれていたEがドアを開けて出て来た。
家にあかりがともり誰かがいてくれたこと。私の心がふっと和む。
フライトどうだった?
スゴイ風だったけど。
トロント着陸時揺れたよぉ~
そんな話をする
チリがあるよ
なんとEは夕食にスロークッカーでチリを作っておいてくれたのだ
実はここだけの話、私が戻ったあともEに湖畔の家に住んでもらうことになっている。
私がいない間、夫ジェイの作りかけの家に、少し手が加えられていた。
ドアにノブがついた(笑)
二階バスルームにシンクがついた
トイレの後ろに棚がついた
バスタブの水栓が壊れたけど(笑)
Eがおむつの頃から夫に付いて行ったというハンティング。夫のライフルやショットガンはすべてEに譲られていた。
夫はEを息子のように思っていた。
夫が亡くなった後、私たちが話しを始めると、ジェイと行った、ジェイが言った、ジェイがやった、と、文章の初めに必ずジェイが、ジェイがとついてきた。
いちいちメソメソしていたけれど、今はもう彼とジェイの話をしても私は泣かなくなった。
親子ほど年の離れた彼との共同生活の始まり。
まったくロマンティックのかけらさえなくて彼に悪いけど(笑)
日本にいるときは考えもしなかった未知なる生活
さてどんなことが待っているやら
日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。