サくら&りんゴ #48 誰かいる気配。
朝、デッキにおりるとカサリと音がした。
ふりかえると野うさぎの後姿。
ぴょーんとはねて、ウィールベローの陰に隠れた。
やっぱり住んでいたのね。
毎年必ず数回は、裏庭で遭遇するのに今夏は一度もなかった。代わりに向かいの家の柵をくぐるところを見かけて、引っ越したのかと危惧していたのである。
裏の茂みに、もう長くいるよ。
なんという名前だったか、お向かいの住人が言った。
だからひょっとしたら、野ウサギさんは訪問してくれただけかもしれない。
そっと近寄るも、昇りはじめたばかりの朝日を見ているかのようにじっとしていて、逃げる気配がない。
鼻だけひくひくとしている。
リスやチップモンクを目の敵にして夫は、トラップをかけたり撃ち殺したりしていた(ビービー弾で)が、野ウサギは別であった。
ハンターズアイを持っていて、いち早く野うさぎの訪問に気づいてはいつも、シッと言って私を制した。
なんせピーターパッカーと言う名前まで付けていた。
その頃あった、ジュニパーの茂みはもう取っ払ってしまって、パッカーの一家が上手く身を隠す場所が無くなってしまったかもしれない。
しかし玄関先には奇妙な穴が掘られていて、誰かいる気配ではある。
チップモンクではない?とご近所マーク。
裏庭ガーデンには立ち入り禁止であるが、家を荒らさない限り、チップモンクくんと野うさぎさんは同居を許している。
気温は駆け足で冬に向かっていて、クロリスたちは冬を越すための腹ごしらえに忙しい。
ここカナダの湖畔の家に来たばかりの頃は、クロリスもかわいいと思ったが、裏庭ガーデンのキュウリを食べられてからは目の敵にしている。一度そういうことがあると途端に憎らしく見えるので不思議である。
そのうえ平気で道路を横断し、それも悪いことにその横断途中にハタっと足を止めたりするものだから、道路のあちこちには車にひかれた跡が残っている。
ある夏、夫はトラップで8匹ものクロリスを次々に仕留めて、
よしよしこれでご近所の野菜ガーデンも今夏は安泰だ
そう自慢げに話した。
当時はえ~っと思ったが、今やこの地の人となって、その安泰感が共有できる私である。しかし(今年の私はまだ?)トラップをかける勇気はないので、毎朝ガーデンに出てはカイエンペッパーを撒いて、夏の残りのトマトとシシトウをクロリスたちから守っている。
たった一個しかならなかったバターナッツスクワッシュは、いったいいつ収穫すればよいのかわからず、まだつるにつながったままである。
湖では昨日、ボートのドックがひとつ取り払われた。
湖畔の夏がまたひとつ過去となって行く。