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サくら&りんゴ #81 元居た場所

カナダから久しぶりに日本に戻ったとき、ときおり自分の元居た場所を見つけられない事がある。実際の住所、東京都のどこそこと言う意味ではなく

肌感覚的に
何か知らない国に来たような
落ち着かないふわふわした

そんな感覚に陥るのである

それがちょっと新鮮だったり面白かったりすることもあるけれど。

たいていは日本の習慣的なことをすっかり忘れて、かなりのオトボケさんになっているからである。(そうでなくてもオトボケではあるが)

かつて通っていた場所に行くのも、どの地下鉄だったかしら?と迷ってしまったり。行けば分かるのだが、乗り継ぎ場所が頭の中に出てこない。
渋谷周辺などすっかり変わってしまって、見慣れない通路を通り抜けると、あ~らこんなところに出てきてしまいました~!

しかしなんといっても、いちばんやらかしてしまうのが、現金の持ち忘れ。
自分のお財布にいくら現金が入っているか把握する習慣が抜け落ちてしまっている。

レジで
すみません、カード使えないんです
と言われ、あわてて財布を見ると

から~ん

と音がする。

洗濯物の取り込み忘れもある。
久々に外に干せると嬉々として太陽の下に洗濯物をつるしたはいいが、干していることを忘れてしまう。何日か経ってあのシャツはどこへ?と探して気づく。

雨も経てガシガシになったシャツが、洗濯棹にぶら下がっている。


しかし一番注意したいのは車の運転である。
ハンドルの左右が違うので
車線間違えません?
と時々聞かれる。
間違えたことがないとは言わないが(わわわ)
一番の重要ポイントは、見る場所である。
つまり右折のときなど、左を見る習慣が出来ていて、そこは車の後姿ばかりで気づくのである。 
おっと、右から車が。(あぶないあぶない)
しかし日本に戻ってすぐの運転は、東京の道が狭すぎてサイドミラー両側ともガリガリと削るのではという感覚に陥る。
やって来る車のスピードと距離感も鈍って(カナダではスピードが出ているので、東京でそのつもりでいると)待ちすぎて後続車に迷惑をかける。
カナダでの黄色信号は、ほぼほぼ止まれだが、東京では早く進めである。後続が少なくとも2台はいるので、そこで止まってしまうと追突される。

そんなこんなも時差が取れるころには落ち着いて、テトリスのワンピースがきっかりハマるように 体は元居た場所にすとんと納まっている。

特に20年住んでいた家は階段の段数だとか、キッチンシンクの高さだとか、そんな言葉にしない事も体が覚えていて、いつの間にかすんなり寄り添っている。


さて、今回の長旅は強制隔離のホテルを出てようやく終わり(出所して、なイメージ)自宅隔離に入った。

ふとサンルームから裏庭を見ると、白猫がやって来るのが見えた。
そう言えばいつも、わが物顔にやってきて日向ぼっこをしている猫がいた。
マリーかしら。(その容貌から私が勝手につけた名前。ヘッダー写真)
思わず久しぶりと近寄ると、ちょっと奇妙な顔をして、さっさと行ってしまうではないか。私の知っているマリーはもう少し老いぼれていたので彼女ではないのかもしれない。

裏庭では、亡くなった母の家から移植した梅の木が、ちゃんとこの地でも根をつけていた。
花を終えたユリのようなものがそばに立っている。
母の家でオレンジリリーが咲いていたと覚えがあった。
梅の木の根っこにくっついて、一緒にやってきたに違いない。


元居た場所
同じようでも
わずかに
変化している


そう言えば時差が取れずソファーで横になっていると突然
ピピピと音がして
下から何かがグワン・グワンと音を立てて出てきた。

な、なに?
思わず飛び起きて床に立ち上がると、丸い物体が通り過ぎ、通り過ぎ際に触角のようなもので私のはだしの足を撫でて行く

ひぇ~!!!


グワングワンといいながらそれは
床の掃除を始めた

そう言えばこの家に住んでいる娘のアーニャが
自動掃除機を買ったと言ってたっけ。

白い円形の物体はグワン・グワン・カタカタカタと忙しそうに、部屋中を回る。家具に突き当たっては方向転換しながら、テーブルの下も、洗濯機と床のわずかなすき間も綺麗に掃除をしていく。

ほほ~!

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どおりで帰宅した時、リビングの床が埃ひとつなくピカピカだったはずである。
部屋中を3回ほど回った頃ふいに、ぐわ~んぐわんと音がスローになり、赤いランプをともしながらスタスタスタとソファーの下に入り、カチリと充電の位置に戻った。

なんと

アーニャの話では、帰り道に必要な余力を判断して仕事を終えるらしい。

なんと、優れもの

毎日決まった時間に出てきて部屋の掃除をしてくれる。


こんな風に元居た場所を得た私たち、私はソファーの上で、彼(彼女?)はソファーの下で

ただ今充電中である。


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ながつきかず
日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。