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サくら&りんゴ #107 ウクライナとアレックス
ウクライナのニュースを見るとアレックスを思い出す。
英語でウクライナはユークレインと言う音なので、夫が出身はとアレックスに聞いた時、それがウクライナの事だと最初はピンと来なかった。
アレックスが在宅緩和ケアに入った夫のために、週末看護師としてやってきた初日の事である。
以前にも書いたが私は共感覚(Synesthesia)があって、文字に色がつく。つまり、ウクライナはこげ茶色として私の頭にあって、しかしユークレインは白に近いクリーム色である。
だからアレックスのイメージも彼女の背後にユークレインのその淡いクリーム色が添えられることになった。アレックスの看護師ユニフォームはいつも赤色だったけれど。
訪問の回を重ねるごとに,、アレックスがウクライナにいたのは18歳までとわかった。その後イスラエルに移住している。ジューイッシュである彼女にはそれが容易だったのかもしれない。ロシア語についでヒーブルも堪能になったという。
イスラエルの後、何がカナダへの移住を決意させたのだろう。
看護師の資格をとりそして私たちと出会った。
最初はとっつきにくそうだったアレックスに夫はあまり好感を示していなかったが、彼女の出身を聞くうち親近感を覚えたようだった。夫はウクライナに仕事で行ったことがあったし、イスラエルの大学で心理学を学んでいたのである。
私たちは平日に毎日来るレギュラー看護師シャノンを信頼していて、どんな時も即座に対処してくれる彼女に私は何度も助けられた(夫が助けられたと言うべきか (笑)
その若くて快活なシャノンの一方で、アレックスは
今週末は吹雪の予報だから来ないわ
なんていう予告があったり
しかし夫と取っ組み合いの喧嘩になったときは、シャノンの代わりにやってきて私に危険がないよう慮ってくれたりした。(車いすの夫と!今思うと私が家庭内バイオレンス?というような状態である (笑)・・・)
オフィスから派遣されてくる看護師や、朝晩のお手伝いの人たちは、患者が亡くなった後も一度家族を訪問する。それは業務内としてのスケジュールに組み込まれている。夫が亡くなったすぐ後にシャノンもマーガレットもアレックスも看護師やお手伝いのユニフォームのまま来てくれた。みんな夫が野菜の苗を育てていることをもちろん知っていて、キュウリの花の話をすると私と一緒に号泣してくれた。その時にはもう三つも四つも咲いていたキュウリの花である。
アレックスはその後にもコーヒーを持って訪問してくれた。私は夫のリンゴの苗木を見せることができた。私の中で彼女は変わらぬユークレインのクリーム色で、その色のままそっと気持ちに寄り添ってくれた。
考えれば私たちももちろんそうなのだけれど、”死ぬために生きていた”夫の最後の1年をユークレイン色で見守ってくれたと、私が勝手に感じた色で勝手に思っている。
彼女は旦那さんと休暇に日本へ旅行することを決めていて、まだ夫がいるころ旅行者だけが買える割引JRチケットや温泉の話を一緒にしていた。
感染症のためにぎりぎりまで待っていたが、結局航空券をキャンセルしたとリンゴの苗木のそばで彼女は言った。
毎回の彼女の看護師の業務、それは私たちの日常であった。その日常を共有していたが、彼女の背後には私が計り知れない人生があった。ここに来るまでに、どれだけの決断と行動力が必要だったのだろうかと考える。国々をまたいでの人生。
私が日本に生まれたこと。戦争のない時に生まれたこと。
それは私が意図したことでも努力して勝ち取ったことでもない。
アレックスがウクライナに生まれたこともまたしかり。
そんな私たちがカナダの湖畔のリンゴの木のそばで時間を共にしていることが、ふいに感動を覚えるくらい貴重な事のように思えた。
夫は看護記録を書くアレックスの横でこんな話もしていた。
仕事でウクライナに行ったとき。
ある男性から、長期滞在するなら自分の娘を身の回りの世話に雇ってくれと申し出があったという。それはセックスも含めて。
90年代の頃だろうか。アメリカのビジネスマンはいい収入源だったのかもしれない。私はウクライナの人々の経済状態を詳しく知らないけれど。
そんなウクライナに今も親族は残っているのか、友人はいるのか ウクライナとロシアの緊迫情勢をニュースで見ながらアレックスの事を考える。
リンゴの木のそばでのコーヒータイムを思い出す。
カナダでのシムカードだけでつながっていたアレックス。カナダに戻ってカードを入れなおしたら、着信をスクロールしてテキストメッセージを送ってみよう。
ヘッダー写真はアレックスも毎週見ていたきゅうりの苗。5種類の種から芽が伸びて来たばかりの頃、2020年2月。
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