サくら&りんゴ #134 サンドチェリー
曇り空の朝
いつものようにリンゴの木を見に行こうと思ったら、ふっと柔らかい空気が目の端っこを捉えた。
サンドチェリー(sand cherry)が満開である。
ほんの数日前はまだほとんどがつぼみだったのに、こんな風に↓
冬に逆戻りしたかのような寒い朝をほんのり暖かくしてくれた。
湖にドックが出されて、日課にしているウォーキングも昼間は暑くてダメだと思っていた矢先
今朝は3℃まで急降下。
野菜の苗たちの外植えはまだできないなあ。
同居人Eのおばさんが用事のついでに立ち寄ってくれた。
あんなに元気で強いジェイ(私の夫)が病気になるなんて信じられなかったわ。
そしておばさんはお悔みを言ってくれた。
本人が一番信じられなかったと思います
私は答えた。そして窓越しにリンゴの木を指して、夫のリンゴ物語を伝えた。
まあ、あれがリンゴの花ね。
ついこの間、ほころびだしたばかりの花を見ておばさんは言った。
うちにある木にちっともりんごがならなくてね。そうしたら何年も経ってペアー(洋ナシ)がなったのよ!
おばさんの話に一緒に笑いながらも私の気持ちは夫に大きく揺り戻された。
何が、と言うことではないのだ。
おばさんが帰った後
悲しくなった。
湖畔の家は建築中であることに変わりはないが、同居人ができて、近所の子ども達が定期的にやってくることで、生活は確実に変化していた。
私は夫との記憶がどんどん薄れて行くことがもう怖くはなくなっていた。だって気づけばいいことばかりでなく、夫が病気になる前だって大変なことが山ほどあったのだ!
それらの事をもう抱え込まなくてよくなった今この瞬間は、心地いいと言ってもいいくらいだった。
なのに
時折ふっと悲しくなる、
どうしようもなく。
サンドチェリーの枝はまだ弱々しくて。わずかな風に大きく揺れる。それでも折れることなく毎年こぼれんばかりの花をつけてくれる。
夫がこの木を植えて5年。
時は後戻りすることなく流れている。
サンドチェリーは私たちの結婚記念樹である。