
サくら&りんゴ #104 アマリリス
朝起きたらカナダの湖畔の家のご近所さん、リタからメッセンジャーが来ていた。
あなたがくれたアマリリス、もう咲きそうよ

送られてきた写真は、窓辺で姿勢正しくすくっと伸びたアマリリス。その先に今開かんばかりのつぼみをつけている。
♪み・ん・な・で・聞こう~
た・の・し・い・オルゴールを
ラ・リ・ラ・リ・ラ・リ・ラ~
し・ら・べ・はアマリリス~
小学校の時にならったアマリリスの歌が思い出される
ラ・リ・ラ・リ・ラ・リ・ラ~
つい声に出して歌ってしまう軽快なしらべ。
🌸🌸
それは
夫とオランダに行ったとき。
スキポール空港で。
私はアマリリスの球根を買って帰ろうと企てていた。
昔オランダに住んでいた友人が日本帰国時、そこで買った球根から素晴らしいアマリリスが育っていると言っていた記憶があったのだ。
しかし球根の輸入は規定が厳しくて、残念ながらカナダに入国できる検査済みのアマリリスの球根を見つけることができなかったのである。
そんなことがあったので、カナダ湖畔の家から一番近いウォールマートでその球根を見つけた時は心が躍った。
秋も深まった時期である。
球根は売れ残ったように無造作にワゴンに乗っていて、果たして芽が出て育つのかと不安にさせる様子であった。
夫と過ごす最後の秋のこと。
球根に付いていた説明書を見ると、すぐに植えるとちょうどクリスマスに花を咲かせるような具合であった。
クリスマスのアマリリス?
私はアマリリスとはてっきリ5月頃に咲くものだと思っていたのだ。半信半疑ながらも球根をカートに入れた。
日本にいるときは、クリスマスにアマリリスは全然結びつきもしなかった。しかしカナダではクリスマスの時期に、フラワーショップで真っ赤なアマリリスを度々見かける。
それも贈り物にしつらえたような豪華なものである。
しかしこの球根は果たしてクリスマスに花が咲くのかと思いながら、水やりは土が湿る程度にと言う説明書どうり、霧吹きでシュッシュ。
そして芽が出るのを待った。
それはなんと、ひとつきほどでつぼみを付けた。

ラ・リ・ラ・リ・ラ・リ・ラ~♪
しかしその後夫の容態がストンと落ちた。
訪問のドクターエマソンが、
今ならホスピスの病床が空いているわよ
と言ってくれた。
彼女はRVHという病院に所属しつつそのそばにあるホスピスの患者も見ていたのである。
でも私は湖畔の家で夫と最後まで一緒にいると決めていた。
それでも看護師のシャノンが確認のためにもう一度聞いてきた時
私の心は揺れた。
最後まで一緒にいると決めていたけれど、その時私ひとりであったら、それをちゃんと受け止めて強くいることができるだろうかと、本当のところ自信がなかったのである。
しかしクリスマスに落ちた夫の容態はまた回復して、そんな次の日のこと。このアマリリスが大きく開花したのである。
それも4つ。

4つの花が同時に咲いたわけではない。最初の3つがいつ咲いたのか。夫の容態が悪すぎて写真に撮っておく余裕がなかったのである。
そんなアマリリスを冬の日本帰国に際してリタに託した。
アマリリスは夏の間外植えにして葉を伸ばし、秋が深くなるとその葉を切り落として屋内の鉢に植えなおすのである。アマリリスにとって湖畔の冬は外では超せない厳しさなのだ。
リタとその夫マークは夫と私の野菜ガーディニング仲間。夫は素晴らしい緑の指を持っていたが、彼らも同じ仲間だと私はわかっていた。
夫が残した言葉から私は
目に見えない物の存在をすごく思うようになって
とりわけ花に宿る命を私は信じていて
だから
クリスマスの翌日
危篤状態から脱出した夫の横で咲いていたアマリリスを思い出すと
どうやってもやっぱり胸は苦しくなるけれど
夫をよく知るリタとマークが
そのアマリリスを見守ってくれて
また花を咲かせること
それがわたしは
かなりうれしい
ラ・リ・ラ・リ・ラ・リ・ラ~はスタカートで歌う
そう小学生の時の音楽の先生に習った。
“しらべ”と言う言葉が大人びていて、とても気に入ったのを覚えている。
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