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サくら&りんゴ #46 秘密のアカウント/あなた、彼とセックスしました?

今朝 突然舞い込んで来たメッセンジャー。


なにこれ?

よく見ると友人の名前

なりすまし?


I can’t believe Ethen lied to me about you.
( 信じられない、イーサンがあなたの事について嘘つくなんて)

と始まっている。
いったい誰?

それは友人イーサンのメッセンジャーである。

イーサンのガールフレンド ノアよ。彼が私にメッセンジャーをオープンにしてくれているの。

なんでまた?

I am absolutely heartbroken. I asked him if there was anything going on between you and him
(ひどく失望しているの。彼に聞いたの彼とあなたの関係のことを)

そして
あなた、彼と近い関係でしょう?セックスしてるの?
と続くのである。


たまげた。

私、7月から彼のガールフレンドなの。でも彼、あなたと会っているでしょう?

7月からガールフレンドって、彼はまだ婚姻中である、私の知る限り。
別居中ではあるらしいが。
あ~また私の頭を混乱させるこちらの人の男女関係である。

イーサンは、元はと言えば夫の年の離れた友人である。自分の息子のように気にかけていた。
小さいころに母を亡くし、父はアル中。
そんなイーサンの生い立ちは孤児であった自分の姿と重なるところがあったのだろう。病床についてからも夫は、何かにつけイーサンを呼んだ。そんな夫を通じた彼と私の仲である。

何がきっかけか知らないが、自称ガールフレンドのノアは疑い深くイーサンの携帯メッセンジャーを全部洗っていたのである。

確かに、メッセンジャーにはイーサンが私に会いに来ると言っている記録が残っているはずである。そして実際来ているわけで。
しかし会うは会うでもそれはいわゆる英語で言う seeing , つまり付き合っているという意味ではない、まったく。
あぶないあぶない。うっかりYESと言ったらとんだことになる。


妻と別居になってから彼は、
仕事から帰って誰もいない、子供たちだけでなく犬まで持っていかれたと意気消沈していた。
妻の方が勝手に出て行ったような状態で(彼が言うには)いっときメッセンジャーでその苦境を頻繁に送ってきていたのは確かである。
パンデミックで仕事もなくして彼は、時折ふいと来ては、裏庭の整備をしてくれたり、重い物を動かしてくれたりしていた。
主に建築関係の物ではあったが、まだ使えそうな夫の道具をイーサンに分けていたのである。

しばらく音沙汰がなかったので、少しは落ち着いて離婚の手続きが進んでいる頃かと思っていた。新しい彼女が早くできればいいなと。

そしたらこれである。

イーサンに私との関係を聞いて
And he said no(彼は何もないと言った)

とノアは送ってきていて、それなら何の問題があるのだろう。

ジュリアに話を聞いて、色々彼の事が信じられないの

ジュリアとは、まだ一応婚姻が続いていることになっているイーサンの別居中の妻である。

ジュリアとすでに話をしていることにも驚いた。
そして別居中とはいえ自分がイーサンの浮気相手のような存在でありながら、ほかにも彼が浮気をしているのではと心配するって、どゆこと、である。

イーサンはそんなに信頼のおけないヤツだったか。。。

どーなっているのとイーサンに直接聞きたいところだが なんせケータイをノアに乗っ取られているので連絡のとりようがない。


しかし、ケータイとは曲者だとつくづく思う。
そこには恐ろしいまでの記録が残る。
イーサンが別居を始める前の去年。
私を訪ねてくれたその時、彼は嵐の真っただ中にいた。最初は妻とトラブっているとぽつりと言っただけだった。
しかし最後には妻の浮気相手との赤裸々なチャットのスクショまで私に見せて、怒りを新たにしていたのである。

そんなもの見せられたら、こっちにしたって慰めようがない。

すみません浮気しました。
その言葉を受け取るだけでは済まない。
ひとたびその具体的なチャットを目の前にすれば、怒りは煮えたぎる。
私が見たその会話は細部にまで至っていて、なんとあからさまだったことか。。

へ~そんな風に言うんだと、英語ネイティヴでない私はイーサンの怒りをそっちのけに勉強(?)したものである。(将来使い道があるかどうかは別として)


とにかく、あなたがイーサンの事を信じられないのなら、それはあなたとイーサンの関係であって、私を巻き込まないでほしいと返しておく。

やれやれ、ったく。

夫が知ったらどんな反応を見せただろう。

しかし、ノアの行動は私と夫がまだ不安定な関係だったころのことを彷彿とさせた。

私たちは付き合っているような関係だったが、私はまだ別居中の前夫との離婚届けを正式には提出していなかったのである。

ココだけの話、もしものこと(どんな?)に考慮して私たちは、二人だけのGメールアカウントを作った。つまり、そこに上がって来るのは夫からのメールだけ。夫のそのアカウントに上がって来るのは私からのメールだけである。隠しておけばパソコンなどのスクリーン上にも出てこない。
私はしばしその秘密のメールボックスにわくわくした。
しかし結局、そのわざわざ開けにいかなければ見ることのできないGメールのパスワードを夫が忘れて、私が怒りまくるという結末となっている。
私がひとりで東京に居たころの話である。

離れていた私たちは不安で、お互いをまだ信じ切っていなかった。
相手の事を丸ごとでは信頼できない状況。
それは結構やっかいである。
相手の事を好きであればあるほど。
そして信頼どころから疑惑が湧き出ようものなら
その関係はもう苦しい。
疑惑を明らかにしようとしたら大抵それは破綻へと転げていく。

そんなことすでに経験済みであった私は
夫との信頼関係をなんとしても守りたかった。


そして今はもう、二度と使うことのなくなったその秘密のアカウント。
でもその存在を私は忘れたことはない。

夫のアカウントを開けることはできなくても、そこにある私たちのメールはすべて私の方から見ることができるわけで、でも私は、その秘密のアカウントを開けることはない。
不安定で何もかもが手探りだったその頃。
いつかまた、まだ危うい関係のメールを
懐かしく思える日が来るかもしれない。
そんな夫とのすっかり大人なのに幼いやり取りを
思い出したくなる日が来るかもしれない。

今はそんな日がとても来るようには思えないけれど、
もし来たとしたら
その秘密のアカウントを開けてみようと思っている。

パスワードはducklings

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ながつきかず
日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。