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サくら&りんゴ #71 発酵食品のように寝かせておいた方が物事いい結果になることあり。

一時帰国のフライトが確定。そこからの逆算でやらなければならない事、確認しなければならない事続出、メモメモ。
PCRの予約  (日本に有効な証明書が出せるか確認、出国前72時間以内の陰性証明、あれ?トロント出発バンクーバー経由だとどの時点が出国?)
日本入国後の隔離期間、方法(指定宿泊施設での隔離など地域や国別に指定されている)
ワクチンの種類(入国できるワクチンの種類が決められている)
ワクチン証明書のダウンロード(証明書として有効な発行元の国と地域が指定されている)
入国時に必要なアプリのインストール

訂正だったり規制変更があるので直前まで厚労省水際対策のウェッブを確認しなければならない。

それからまだ作業進行中の弁護士との連絡
レンタカー予約
ローカル野菜の定期購買の解約
そして
一番の悩みがこの湖畔の家の管理である
管理会社に頼む(コストは?)
近所の人に見てもらう(誰に?)
夫の娘に頼む(遠すぎる)
エリックが湖でアイスフィッシングしたいから、時々見に来ると言ってくれているが、仕事が忙しそうでお願いするのも気が引ける。
色々考えながらもぐずぐず決めかねていた。
そして気づいたら帰国まで2週間を切っている

ヤバイヤバイいいかげんどうにかしなくちゃ

そんな時

石、仕事終わったら見に行くから

エリックからメッセージが来た。

裏庭野菜ガーデンを整備していて出てきた石が、どうしても動かせなくて時間あるときに手伝ってほしいとメッセージを送っていたのだ。

私もない知恵を絞りスコップを使い動かしてみた。てこの要領でわずかに石を持ち上げ、その下にブロックをスライドさせていく。ようやくグランドレベルまで持ち上げたがそこで力尽きた。

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エリックは何かにつけすぐ、手伝いに来ると言ってくれるが仕事が長引いて無理なことが度々あって、私はあてにするようなしないような。

その日も午後遅くになってやっと、玄関のガラスドアをたたく音がした。

そして入って来るなり

日本に戻っている間、僕がここにステイして家を見るよ、それでいいなら
仕事場にもここの方が近いしね

そう言った。

ホントに?!

実はここだけの話、というか、このnoteに重要人物としてこんなに登場しているとは本人知りもしないのだけど、彼は今、複雑な状況の真っただ中にいた。

その後のアップデイトを聞いて、とりあえず冬の間の数か月だけでも、湖畔の家にいることで何か助けになるかもしれなかった。

そして彼はさらに

地下の断熱材とかドライウォールとか、やれることあったらやっておくよ

エリックは夫の手伝いで屋根はりをしてくれたことがあった。

ふたりで地下に降りる。
地下は夫が最後に断熱材を入れていたそのままで 時が止まっている。

壁を見渡してエリックが

仕切りをするとか、やりたいように言ってくれればそんな風にするよ

彼の背後で私はふっと涙がでそうになる。

家中のどこを拾い上げても、夫との会話や夫の姿が思い出されていちいち傷ついてきた。
夫の薬がぎっしり詰まった引き出しは、まだ開けることができない。
夫と一緒に食べた最後の夕食、すごくすごく美味しかったチーズフォンデュ。そのポットは触ることができない。苦しすぎてチーズフォンデュはもう一生食べることはないと思う。
そして地下はとりわけ悲しい場所で、それは夫が元気で働いていた最後の姿がまだそこにあったから。

でもだからと言って、この場所を変えたくないわけじゃない・・。

返事のない私を振り返って、エリックも少し言葉を詰まらせたように見えた。具合が悪くなる直前までここで夫が断熱材を入れていたと私は何度も何度も彼に話していた。


エリックは私よりうんと年下だが、夫との歴史はずっと長い。なんせ彼がまだおむつの頃から、夫のハンティングについて行っていたのだから。
夫は短気で、周りにいるほとんどすべての人と一度は大げんかをしている。でもエリックは別だった。ICUを出て夫が私に言った言葉は

エリックを呼んでくれ。
ライフルを譲るから。

夫は、孤児院出身と言う自分の境遇と彼の境遇の一部を重ね合わせて自分の息子のように気にかけていた。

部屋に仕切るなら、このパイプのところだな

エリックは天井を見上げる。
綿のようなクモの巣が垂れている。



そんなわけで寝かせていた悩みは突然解決に向かった。家の管理だけでなく夫が残した建築作業も進められることとなった。そのうえ、

もうすぐハンティングに行くから、戻って来たら食べられるよう肉を冷凍しておくよ!

ムースかディアかはたまたベアか?
寝かせておいたおかげで、おまけまで付くこととなった。




私自身のエネルギーがなかったり、世の中ロックダウンだったりで、息を止めて同じ場所にいた湖畔の家は、でもほんとうは少しずつ変化をしていた。

キッチンからはかつて、PCを前に仕事をする夫の後姿が見えた。そのオフィス、のちの真夜中の911コールや苦しい苦しい時を過ごした夫のベッドルームは、今は卵色に壁が塗り替えられ、子供たちを預かるためにクレヨン色のおもちゃで彩られている。

ふっと、あれは夢だったのかなと思った
あの苦しかった日は

大丈夫だから、何かあったら私が来るから

そう言って暗闇に消える看護師シャノンを
この部屋の窓から震えながら見送ったのは

ほんとうは夢だったのかもしれない


ヘッダー写真は以前エリックがハントしたムース肉で作るチリビーンズ。ムース肉はあっさりして脂が苦手な人におススメ。



日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。