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上野・アメ横とチカヒロさん――「麵屋どうげんぼうず」前史

川口和正

東京・中野の人気ラーメン店「麵屋どうげんぼうず」の店主が語る仕事論、『どうげんぼうずという仕事』（※）。9月1日発売のこの本で、私は店主の「チカヒロさん」こと、近廣直也さんの話を聴き、その言葉を書き留めた。

〈 困っている人がいたら手を差し伸べ、理不尽なことには声を上げる。ラーメン屋であり、町のコミュニティであり、プロテスターでもある。そんなやさしくも、気骨あるラーメン店主が語る渾身のメッセージ。読むと、勇気が湧いてくる。「ばっちこい、明日！」 〉（本書、帯裏より）

※…この本の読みどころについて、チカヒロさんと私が語り合った対談も、ぜひお読みください。
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「どうげんぼうず」を始める前、チカヒロさんは上野のアメ横で働いていた。先日、その思い出の店をいっしょに訪ねた。「アメ横での2年間は、ラーメン屋という今の仕事に生かされとる」と彼は言う。

以下、「どうげんぼうず前史」と題した、本書のサイドストーリーをお届けする。

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チカヒロさんと上野・アメ横に繰り出した。

彼が「どうげんぼうず」を始める前に働いていたA商店（以下、店名や氏名は仮名）を訪ねた。食料品を扱っている店で、年末にはマグロやカニが飛ぶように売れるという。実に10年以上ぶりの再会になると、チカヒロさんが教えてくれた。

「Ｊさん、お久しぶり！」
チカヒロさんが声をかけると、長身の男性から笑みがこぼれた。
「チカちゃん、変わんないねえ」
「Ｊさんも、元気そうでよかった」
「いやいや、もう歳だから（笑）」

年輩の男性Ｓさんも、うれしそうだ。
「中野でラーメン屋をやってるんですよ」とチカヒロさんが言うと、「前の店に行ったのは、もう10年前になるのか。10年商売続けてるって、すごいことだよ」と目を細めた。

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Ａ商店を出た後、チカヒロさんとアメ横を歩きながら、そして、店の近くの居酒屋で飲みながら、当時の話を聴いた。

「ミュージシャンをやってた頃、仕事を探してて、友人のツテでA商店に電話したんです。『雇ってほしい』と言ったら、『いま、求人はしてない。でも、明日、遊びに来い』。当時、店を仕切っていたＫさんにそう言われて翌日行ったら、『メシ食えてねぇのか、じゃあ明日から来い』って採用されました（笑）。

Ｋさんは、気風のいい人やった。かつては学生運動の闘士で、上野駅前にメーデーを妨害する右翼の街宣車がくると、喧嘩する気満々で鼻息を荒くしてた。口は悪かったけど、『チカちゃんは人間力がある』と、ワシのこと、買ってくれてた。

バックパッカーだったのが、Ｓさん。店で稼いだお金を貯めて、休みをまとめて取って、世界各地を旅しとった。博識な人でもあった。

アメ横の店はマッチョなところが多いんやけど、A商店はそれだけじゃなかった。年末はメシ食う時間もなくコキ使われるけど、暇な時はみんなでサボったり、繁忙と閑散のメリハリがあった。それが、ワシの性分に合ったんやろね」

最初のうちはうまく売れず、よく叱られていたとチカヒロさんは言う。ただ、売り方を覚えれば、あとは任せてくれた。最低限の売値をクリアすれば、どんなふうに売ってもいい。立ち寄る客を一人ひとり見て、売り文句を考える。客とのやりとり、掛け合いが勝負である。仕事を続けるうちに、その腕を磨いていった。

「A商店で働いたのは2年ぐらいやけど、その経験がラーメン屋という今の仕事に生かされとる」とチカヒロさんは言った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　撮影：沼田学


この夏、地元・鍋横商店街の祭りで、どうげんぼうずは模擬店を出した。われわれ本の制作チームや、チカヒロさんの友人たちが手伝った。

祭りの終盤、チカヒロさんはこう言った。
「これとこれをセットにして、割引して売ろう」「買ってくれた人には『やっちゃえ！　やっちゃえ！』と威勢よく声をかけてくれ」
商売人としての勘と気風の良さを感じた。

われわれは売り子として客に懸命に声をかけた。でも、チカヒロさんの呼び込みは、ケタ違いだった。声が通り、一語一語に迫力があった。瞬時に周りの空気が変わり、客の視線が集まっていた。

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「実は今度、本を出すことになって」

別れ際、チカヒロさんがＡ商店の人たちにそう告げた。フリーペーパー『どうげんぼうず通信01』を手渡すと、「ええっ！　本？　すごいねえ」と、店の人たちは食い入るように眺めていた。

Ａ商店の人たちが、『どうげんぼうずという仕事』のページを繰る姿を見てみたい。

近廣直也 『どうげんぼうずという仕事』
取材・構成／川口和正
発行／TUK TUK CAFE
定価 本体 2,000円＋税
B6サイズ／オールカラー／156ページ
編集／杉山敦、撮影／沼田学、デザイン／下山ワタル

麵屋どうげんぼうず店頭
及び、TUK TUK CAFEの通販サイト「TUK TUK CAFE」で予約販売開始中。通販の発送は9月1日以降になります。
※ 9月1日（日）18時30分～21時に店頭で発売記念イベントあり。

※ 9月1日（日）19時より「ポリタスTV」でどうげんぼうず特番あり！（引き続き、見逃し配信でご覧になれます！）



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