真夜中の訪問者
午前0時をまわったころノックがなった。
タポツのはすぐにわかる。独特のリズムを刻むからだ。鍵を開けると、タポツが玄関に滑り込んできた。同時に匂いが漂う。煙草と安っぽい香水、そしてなんとも言えない無駄話の予感。奴はスエットのパンツにヨレたシャツを着て、顔には生気がなく、手にはコンビニ袋をぶら下げていた。
「よぉ。暇か?」
「あぁ、寝るところだったよ」
「そうか、この部屋くさいな。なんかしてたか。酒、ある?」
そう言うとタポツは冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。俺の冷蔵庫にはいつも缶ビールが揃っている。俺は酒がまったく飲めないが、バーテンダーをやっているとそういう物が自然と集まる。
こたつに座ったタポツは、俺のグラスにビールを注ぎ、ひと口飲んで顔をしかめた。
「飲まねぇくせに、いい酒置いてるなぁ」
「カッコつけるための小道具だ、で、今日はなんだ?」
タポツは鼻で笑った後、こう切り出した。
「お前、ムチムチ熟女が集まる、ムチムチ熟女バーって知ってるか?」
「は?いきなりなんの話だよ、ムチムチバーって!」
俺はタポツが持ってきたコンビニ袋をテーブルにぶちまけた。缶コーヒーと袋詰めのピーナッツ、そしてどうでもいい雑誌。予想通りだ。雑誌はデラべっぴん。
「昨日な、そのバーでムチムチの熟女に会ったんだ」
俺はタポツが買ってきた缶コーヒーを開ける。「ほう、それで?」
「彼女は一人で飲んでてさ。俺に話しかけてきた」
「お前、それって幻覚じゃないの?」
「違うって。本物だ。肌の張りも素晴らしくてさ、まるで芸術作品だ」
俺は煙草に火をつける。「それで、どうなった?」
「まぁ、別に。一緒に飲んで、話して、ただそれだけだ!」
「そうか、でもお前、やるな」
「いや、俺はただ身を任せただけさ」
「で、今度は俺に何をしろって?」
「その店、紹介してやろうかと思ってな。お前も楽しめるぜ」
俺は缶コーヒーをひと口飲む。「俺はいいよ。そういうのは性に合わない」
「相変わらず真面目だな。でも、人生一度きりだぜ?」
「分かってるさ。だが、俺には俺のやり方がある」
タポツは肩をすくめる。「ま、無理強いはしないさ。ただ、お前にも息抜きが必要だと思ってな」
「気遣いはありがたい」
タポツは立ち上がる。「じゃあ、俺はこれで。まだ他にも用事があるからな…この部屋、なんかくさいな…」
「あぁ、気をつけてな」
タポツは手を振って部屋を出て行った。残された静けさの中で、俺は煙草の煙を見つめながら考える。ムチムチの熟女の集まるバーか。悪くない話だ。