雨とコブダイの日常
高野コブダイの家は、いかにも腐った感じが漂っていた。朽ちた木材と苔むし雨漏り、古びた瓦が歴史の重みを感じさせる。なんとも言えない、衰退の香りが漂う場所だ。
雨音が響く度に、高野の心の中の沈黙も深くなる。彼の生活は破綻しているように見えた。
ある日、俺は彼の家を訪れた。あきちゃんには「少し見舞いに行ってくる」と言って出てきた。
ドアをノックすると、中からゆったりとした足音が聞こえ、ドアが開いた。コブダイはなぜか髪を銀色に染め、長い間光を浴びていないようで、表情は陰気だった。
「こんにちは、コブダイ。」俺は言った。
「ああ、また雨だな。」彼は呟いた。
彼の家の中はゴミが散乱していた。濡れた紙片、湿っぽい食べかけのパン、無数に転がるビールの空き缶、そして苔むした壁。俺は彼に金を貸した記憶がある。少なくとも何度か。彼は、人に金を借りて生活している。コブダイは俺に椅子を示し、自分は湿っぽい床に座った。
「まだあの仕事やってるのか?」彼は聞いた。
「うん。」俺は短く答えた。
俺は彼の生活について考えていた。彼には何の夢もなく、何の希望もない。ただ彼の日々は、他人の好意に依存している。
コーヒーでも飲もうと提案するも、彼の家にはコーヒーを入れる器具さえなかった。
「こんな生活やめたらどうだ、コブダイ?」
彼は苦笑して、「何を始めればいいと言うんだ?」と答えた。
それに対して俺は「人に依存しない生活をさ」と返した。
コブダイは床に頭を打ちつけるように倒れ、いつもの驚くほど大きなクチビルで笑い始めた。その笑いは、どんどん大きくなって、部屋中に響き渡った。そして突如として止んだ。
「ありがとう、でも俺はこれでいい。」彼は静かに言った。
俺は何も言えなかった。彼の生活は彼にとっては、それで満足なのだろう。外はまだ雨が降っていた。
夜が訪れる。あきちゃんが待っている。コブダイの家を後にすると、その苔むし雨漏りの家は俺の背後に静かに佇んでいた。俺はあきちゃんに電話をかけた。彼女の声を聞きながら、俺はコブダイの笑い声がまだ耳に残っていることに気づいた。
高野コブダイの家の雨漏りは、いつか止むのだろうか。それとも、彼はその音楽を愛しているのだろうか。俺には、わからなかった。
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