日本にナーゲルスマンが居ない理由
日本サッカーに違和感を覚えることに一つに、「Jリーグに若い監督が1人として現れないのはなぜなのか?」という疑問があります。なぜなのでしょうか?"若い監督"といえばドイツ・ブンデスリーガで指揮をとるユリアン・ナーゲルスマンですが、日本でナーゲルスマンの様な才能ある若い監督が居ない理由は何なのでしょうか?
この記事では、以下のことについて触れていきます。
①事実
②若い監督が頭角を現さなければならない理由
③原因と解決方法
私は日本サッカーにとって、この問題は何よりも先に取り組むべきものであり、またこれを解決できれば一石を投げるだけで二鳥も三鳥も、もしかしたら四鳥に当たるかもしれないと思っています。原因がわかれば、必ず解決方法が見えてきます。
■Jリーグ監督の現状
まずはこちらのデータをご覧ください。
2014〜2018年(5年間)シーズンスタート時における【J1リーグ監督平均年齢(最年少)】です。これを見ると、J1リーグ(5年間)において監督の平均年齢が46歳を超えていることがわかります。さらにJ1リーグでは5年間、シーズンスタート時に40歳以下で起用されたの監督が「0人」という事実も見えてきます。この年齢を若いと見るか若くないと見るか、現時点ではお任せいたしますが、ここでは事実のみを把握して頂ければと思います。
■日本代表監督の現状
次に、これまでのW杯における日本代表歴代監督を把握していただきます。
W杯過去5大会(2018年6回目予定)の日本代表監督を見てみると、岡田武史さん以外は全て「外国人監督」であることがわかります。またアギーレ監督解任後の監督候補者に日本人が「0人」であったことは、記憶に残っている方もいるのではないでしょうか?この時、日本代表監督を務める権利のあるS級ライセンス保持者は400人を超えています。
まずここで見えてくるのは、日本という国を任せられる監督は現時点では「育っていない」という事実です。
■世界のリーグ監督の現状
一方で、世界の現状はどうでしょうか?
2016年、ブンデスリーガ(ドイツ1部)に所属する「TSG1899ホッフェンハイム」の監督に、当時28歳のユリアン・ナーゲルスマンが就任したことは大きな話題になりました。彼は、ITを駆使した独自のサッカー理論を展開し、2016-17シーズンは数ある強豪を抑え、リーグ4位という成績を残しています。彼を筆頭に、2017年におけるブンデスリーガでは、シャルケの監督を務めるドメニコ・テデスコ(32歳)など、6人もの監督が30代での就任でした。
イングランド1部リーグでは、当時31歳のエディ・ハウが「ボーンマス」の監督に就任し、アルゼンチンで1部リーグでは当時27歳のルイス・スベルディアが「CAラヌース」の監督に就任、彼はその後リーガ・エスパニョーラ(スペイン1部リーグ)所属の「デポルティーボ・アラベス」の監督に就任しました(当時36歳)。ポルトガル人のビラス・ボアスがポルトでリーグ制覇をしたのが33歳、その翌シーズンにはイングランドの名門チェルシーの監督に就任しています。
これは氷山の一角に過ぎません。欧米や南米では、これまで多くの30代・20代監督がトップリーグで起用され、計画的な監督(指導者)=リーダー養成が行われています。
■世界の代表監督
また、W杯の歴史を見てみると、過去20大会におけるすべての優勝国の監督は「自国出身」であるという事実があります。他国出身の監督がW杯で優勝をした例は一度もありません。
直近7大会のデータを見てみると、ベスト16に進出した国の72.3%が自国監督、ベスト8に進出した国では78.6%、ベスト4になると90%を超える国が自国監督。優勝だけでなく、これまで決勝戦を戦った他国出身の監督は0人です。サッカー強豪国である、ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、スペイン、イタリアなどの国々は、過去に他国出身の監督を招いたことは1度もありません。
※参照:http://www.huffingtonpost.jp/2014/04/24/worldcup-data_n_5203268.html
さて一度、今のサッカー界にある事実を整理します。
①Jリーグ(シーズン開始時)には少なくとも5年間40歳以下の監督が居ない
②日本を代表する監督が育っていない
③世界では若い監督が多く起用されている
④W杯で上位の国は自国監督である(過去の優勝国は全て)
これら4つ事実を元に、話を進めていきたいと思います。
■なぜ若い監督が頭角を現さなければならないのか?
私は、上記したJリーグの平均年齢は高すぎると思っています。また、これから日本サッカーが世界で戦うためには、20代・30代が監督として頭角を現さなければならないと思っています。Jリーグの監督は固定循環を繰り返すか、もしくは外国から監督を招聘するのか、どちらかがメインになってしまっているのが現状であり、「監督=リーダー」を育てる場所でもあるはずのJリーグは機能していません。
現代のサッカーでは、IT(データ)を駆使して戦うことが常識となってきいます。 そのため「経験」が浅い人間が上にいく可能性が高まっています。その証拠が、ITサッカーで独自の理論を作り上げ、28歳で監督になったユリアン・ナーゲルスマン(ドイツ1部リーグ)ではないでしょうか。「経験がデータに置き換えられる時代」になったことは、良いか悪いかはここでは触れませんが、事実です。 情報を経験で蓄積して知識に変えていく時代とは違い、現代ではデータで手に入る分だけ知識を高める速度が圧倒的に上がっています。
また、今では日本にいても海外の情報がタイムラグなしで届く時代になりました。科学としてのサッカーは(誤解を恐れずに言えば)日本でも学ぶことが可能です。
※"科学としてのサッカー"の定義はプロローグをお読みください
加えて「外国語」が扱えるようになった指導者は、それだけで情報量に雲泥の差が出てきます。日本語でしか情報を得ることが出来ない場合はその分知識をためるスピードは落ちます。 今では外国の情報を扱える日本人も増えていますが、現時点で既に日本のトップトップも知らない情報を持っている20代の指導者は大勢います。
つまり何が言いたいのかというと、経験によって知識を得ていた時代は終わり、知識を得ることに長い年月を有さなくなったということです。若い=知識が薄いという時代はとうに終わっているのです。「知識」や「正解」の価値はこれからどんどん落ちていきます。では、これからの時代は「知識」以外に何が一流と二流とを分けるのか?ということが鍵になってきます。
■若者という価値
本来「若者」という存在は、非常に価値のあるものです。
①リスクを犯せる:新しいものを生み出す際には「リスク」が必ず付いて回ります。年齢を重ねるごとに犯せるリスクの範囲は必然的に狭くなっていきますが、若ければ若いほど失敗の傷跡は浅くなる上に回復が早いので、積極的にリスクを犯してトライすることが出来ます。
②固定概念がない:若者の価値として「知らない能力」があります。例えば世の中のシステムやしがらみを「知っている」と、人間は途端に動けなくなります。頭の中が「出来ないこと」で埋め尽くされますので、この方法はいける、この方法はありえない、と固定概念が蓄積されていきます。ただ、その固定概念は崩せるものがほとんどです。
近年の日本ではビジネス界で頭角を現す20代の起業家や、若くして頂点に立つスポーツ選手が次から次へと出てきています。
ネットショップ業界に革命を起こした、個人で簡単にネットショップが作成できるサービス『BASE』の代表取締役は現在28歳(起業当時22歳)の鶴岡裕太さん。2017年3月、App Storeでダウンロードランキング1位を獲得した、レシピ動画サービス『クラシル』を運営する株式会社delyの代表取締役は現在25歳の堀江裕介さん。将棋の藤井翔太さんは現在15歳です。
この2つの価値を持っている若者を、日本サッカーは「活用」出来ていないということになります。「ナーゲルスマンが日本に居ない理由」は、単なる実力不足ではなく、ある原因が存在します。
■前提:間違った認識
直接的な原因の前に、まず前提として、日本には間違った認識が存在していることを理解していただきます。
この監督になるためには「コーチとしての長い下積み」が必要、という認識は非常に厄介なものだと感じています。世界を変えてきた起業家が全員社員を経験したのち社長になっているのかと言われればそうではないのと同じように、私は監督になるためには必ずしもコーチとしての長い下積みを積む必要はないと思っています。
それは「コーチ」と「監督」は違う仕事だからです。もちろん共通したものはありますが、分業化が進んでいる現代サッカーにおいては、全くの別物だと考えていいと思います。コーチとして長い下積みを積むよりも、監督としての経験を積むことの方が重要です。これから海外の科学としてのサッカーを知っている指導者は増えていきますので、必然的に日本人の優秀な「コーチ」は育ちますが、この間違った認識によって日本で優秀な監督は生まれません。優秀な監督となる人材を5年で現場に出せるのか、それとも10年かかってしまうのかは、サッカーの発展にとって死活問題になりえます。
サッカー界に限らず、日本社会では「長い下積み」が美徳とされる傾向があります。世界が「下積み」の時間を減らし、その分の時間を「イノベーション」を起こす為に使っていることに、日本人は気付いていません。
■原因:Jリーグ監督の条件
このような前提の上で、日本でナーゲルスマンが生まれない原因を書いていきます。Jリーグには、明らかに若い監督が出てこないような「構造的制約」が存在します。つまり「Jリーグ監督就任に必要な条件」が、これまで日本サッカーに「若い監督」= 新しいリーダーが1人として頭角を現さないたった一つの原因です。
【1】S級ライセンス保持者
まず私のように「Jリーグで監督をしたい」と思った指導者は、S級ライセンスの取得を目指すという流れが普通です。
しかし、S級ライセンスを取得するには多くの「お金」と「人脈」と「時間」を必要とし、決して若い人間が取得できるような条件ではありません(現在の最年少取得者は36歳)。それに魅力を感じない指導者が、協会とは違う方法や考え方で「選手育成」をしている、という現状が日本サッカーにはあります。これはおそらく誰にも否定できない事実です。
以上のような状況であると知った私は、初めからこの道を通るという選択肢は持ちませんでした。図にあるように多くの問題に波及し、土俵に立つまでに時間がかかるのであれば、その間に野心が失われ、世界の監督には一生かかっても敵わないと思ったからです。
【2】S級ライセンスと同等以上の資格保持者
残された道はもう一つの条件しかありませんので、自然と「海外で修行を積み、海外の監督ライセンスを取得する」という発想が出てきました。しかし現状日本では、"S級ライセンスと同等以上の資格"という部分がグレーのままで明確に定義されていません。そのため過去に海外のプロ監督ライセンスのみ(日本人)でJリーグの監督に就任した例がありません。
これが「日本人指導者が海外に出ない理由」であり「日本人指導者が海外から帰国しない理由」です。
これによって現状日本では、海外に出て学ぶことに対して後ろ向きな傾向があり、さらには海外で経験を積んだ指導者が日本サッカーの発展の力になることが難しいという奇妙な状況が生まれています。ある種 "分離した状態" で活動をせざるを得ないので、メディアで海外の知識を発信するのが限界です。
海外で修行を積んだ指導者は、再びお金と時間をかけ、コネを作り直し、日本のS級ライセンスを取得し直さなければならないジレンマがあります。ただでさえ小国・島国で、欧米や南米と地理的・言語的に離れている日本にとっては致命的な状況です。「指導者が海外に学びに行き、その指導者が日本に帰国する」という循環が生まれないので、いつまで経っても世界に追いつくことはありません。
※上図は日本人監督の場合。例えばアルゼンチンでは、最速2年でプロライセンスが取得可能(現時点)で、FIFA(国際サッカー連盟)加盟国で5年間監督経験を積めば、UEFA(欧州サッカー連盟)加盟国で監督をすることが可能。
■日本サッカーの発展を妨げているもの
私は、このJリーグ監督になるための条件が、日本サッカーの発展を妨げている大きな原因だと考えています。前述しましたが、日本という国は西ヨーロッパのように情報が行き交うような状況を作るのは不可能です。それは地理的・言語的な問題ですので仕方のないことですが、であれば日本は工夫をする必要があります。少なくとも、日本人指導者が海外に出やすい環境を作ること、そして日本に戻ってくるような仕掛けを作ること、また既存の海外にいる指導者を有効に活用していかなければなりません。
選手の前に、監督をはじめとした指導者の基準を世界にしなければ、いくら良い選手がいようとも育てることは出来ませんし、優秀な監督がいなければ国際試合で勝つことは出来ません。
■S級ライセンス
日本の指導者養成は機能しているとは言えません。私はそこにお金を使うよりも、若い指導者をどんどん海外に出し、そして日本に戻ってくるという循環を作れば、自然と指導者は育っていくと考えます。これからは外国語を扱えることは指導者が世界基準になるには必須だと私は考えますが、現状の方法では方法論は一点集中(日本サッカー協会)なのでそれは出来ませんし、多様性も生まれません。
それを解決するには、私はJリーグ監督就任に必要な条件に対して、私のような若い人間がアクションを起こしていかなければならないと考えています。
■3つの条件
私は日本サッカーの現状(実力のある若い監督が頭角を現すことができない現状)を変えるには「3つの条件」が必要だと思っています。
【①議論の活発化】が起きていない状態、つまり世論を伴わず、メディアにも取り上げられず水面下でアクションを起こしても恐らく何の変化も起きません。
これまで同じような問題提議があったかもしれませんが【②監督としての結果】を伴った人物が見直しに向けてアクションを起こした例がないので、誰も動き出そうとはしません。
「供にJリーグで戦いたい」という意思のある【③クラブからの後押し】がなければ、到底日本サッカーという大きな相手に挑むことはできません。
この「3つの条件」を満たすためには、まず私はアルゼンチンへ行かなければなりませでした。なので今、私はアルゼンチンにいます。
■解決方法・計画
では実際に、今私がどのようなアクションを起こしているのか、またこれからどのような方法・段階を踏んで実現していくのか、これから説明していきたいと思います。
続く・・・
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