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FC東京vs桐蔭横浜大学:サッカーにおけるベンチ(≒監督)の役割の再考察

サッカーにおけるベンチ(≒監督)の役割に対する認識について、日本と諸外国の違いから見る、文化レベルの考察です。

日本でサッカーを観るとき(特にプロ以外)と、諸外国でサッカーを観るときの違いのひとつとして、ベンチの様子があります。そこから考察することが出来るのは、日本における「指導者(監督も含む)」と他国における「指導者」との、そもそもの認識が異なる、つまり役割の捉え方が異なるということが伺えます。

先日FC東京のサブ組vs桐蔭横浜大学を観戦しに行って、そのことがやはり顕著だったので、ここに簡単に纏めます。


監督とは

日本におけるサッカー監督の役割と、例えば僕が住んでいるアルゼンチンにおけるサッカー監督の役割の認識は、異なります。別の欧州国でもサッカーを観てきましたが、私にはそれらの国とアルゼンチンは同じ認識を持っているように思います。

サッカーにおいては、外国人の監督を見ればわかるように「監督=プレイヤー」です。ピッチでボールを触ることは出来ないけれど、勝敗を大きく左右する「プレー(影響を与える行為)」をすることが出来る権利を与えられています。ここは他のスポーツとは異なる部分かもしれません。なので、ベンチにおける態度や表情、コーチング、ジェスチャーによって、選手には判断が難しい修正を行ったり、状況をリアルタイムで選手に伝えるような「プレー」をするのが、ベンチワーク、つまり監督という役割の基本ということになります。

日本サッカーには、この認識がありません。「選手のみがプレイヤー」であり「監督は評価する人orハーフタイムにアドバイスする人 etc...」という認識があるのではないでしょうか?

その証拠として、日本のゲーム中の多くは(もちろん全部じゃないですが)、監督がハーフタイムまで特に何もしません。もしくは「決断の横取り(詳しくは後述)」および「評価」を目的としたコーチングが目立ちます。ゲームが始まったら、黙って試合を観察し、前半のうちに何かを修正しようとする気配は一切伺えません。

ここでこのような疑問をもつ指導者が居ます。

①育成年代のベンチは違うのでは?(=選手が自分で考えてサッカーをするようにするにはベンチは黙っておくべきなのでは?)
②練習試合(もしくはサブチームのゲーム)では違うのでは?(=誰がスタメンでプレーするのか判断する場でもあるからベンチは黙っておくべきなのでは?)

日本ではよくこの点で議論されるように思いますが、この認識は誤りです。説明していきます。


選手は選手だけでプレーはできない

そもそもなぜ、このような同じスポーツで認識の違いが出てきてしまうのか、についての考察ですが、まず第一に「サッカーとはピッチに立つ選手だけで行うスポーツ」という捉え方があるからだろう思います。「選手は自分で判断してプレーするのだ」という外国人もよく言う台詞を、間違えて捉えてしまってはいけません。

サッカーで、いくら能力の高い選手たちであったとしても、例えばゲームを俯瞰して、戦術的な修正を行ったり、もしくはシステムを変えたり、細かい立ち位置を変えたり、そういった大いに勝敗を分ける作業を、ピッチでプレーしながら完璧にこなすのは、ほぼ不可能です。であるから、ベンチから全体を見ることができ、また相手の全体も観察することができる監督が必要になります。先ほども言った通り、監督もプレイヤーです。選手と監督の違いとしては、前者は基本的にゲーム中に「考える時間」は極めて少ないですが、後者は「考える時間」があります。「考える時間」が必要な修正においては、監督が役割を担います。

またサッカーはある種時間との戦いでもありますが、「ハーフタイムに修正する」は正解であり不正解です。前半のうちに修正をしなければならない問題もたくさんありますし、後半に入るタイミングでは手遅れな場合、もしくは相手が後半プレーの仕方を変えてくる可能性も大いにあるので、効果が薄くなります。

それは、育成だろうが、練習試合であろうが、変わりません。


①育成年代のベンチについて

ではまず、選手が自分で考えてサッカーをするようにするにはベンチは黙っておくべきなのでは?という指摘についてです。

サッカーというスポーツにおいて、監督が退場しない限り(滅多にありません)は「監督なしでプレーする」という場面は永久に訪れません。いくら観客が多くて声が届かなかったとしても、ライン側で直接話すことも出来れば、ジェスチャーで示すこともできます。だから外国人の監督は基本的には表情豊かで、ジェスチャーが大きくなります。あれは、選手に何かを伝えようとしているのです。つまり、ここが重要な点ですが「監督がいなくてもプレーできるようになる必要性」は基本的にはありません。

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