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人間の脳には『“思考態度”のエラー』と『“思考回路”のエラー』が存在する

スポーツ競技とは「争」うことであり、事前に定められたルールに基づいて、どちらが多くの得点を奪うか、どちらがより美しいか、どちらが先に目的を達成するか、などの「優劣」をつける行為であることは間違いないが、では、「“競う”ことで争う」行為と「“闘う”ことで争う」行為、この両者に違いはあるのだろうか。

▼前回の記事(Vol.1)

前回の記事では「サッカーとは何か?」を把握するために、存在するスポーツ競技を単純化することで「6つ」の競技に分類し、その分類方法を『Competition and Struggle Theory(競争闘争理論)』と定めた(以下CST)。

今回は、この分類の中で最も大きな差異である『競争(Competition)』『闘争(Struggle)』について、さらに理解を深めるための準備をしていきたい。


■定義の確認

競争:「異なる時間」または「異なる空間」において、その優劣を競い合うスポーツ競技である。そのため、競い合う者同士は、相手競技者に対して妨害を加えることが出来ない、または許されていない。
闘争:「同じ時間」または「同じ空間」において、その優劣を競い合うスポーツ競技である。そのため、競い合う者同士は、相手競技者に対して何らかの妨害を加えることが出来る、または許されている。

上記の定義を見ればわかるように、この両者の違いで最も大きなポイントとなるのは「時空間」「妨害」である。「時空間」とはその名の通り時間と空間のことを指し、「妨害」とは「競技者が目的を達成しようとする過程において、相手競技者に意図して干渉をする行為」のことを言う。競技中における「干渉」とは、「邪魔(阻止等)」をすることはもとより、相手競技者を「援助」する(結果的にしてしまう)ことも含まれるが、競技者自ら「援助」を選択することは通常考えにくいため、『CST』の定義においては「妨害」と表記した。

つまり、「競争における競技者」「闘争における競技者」が最も自覚しなければならない点は、この「時空間」「妨害」の相違であることがわかる。


■競争における「時空間」と「妨害」

例えば「短距離走」または「競泳」など、主に「レース」と呼ばれるスポーツ競技では、競技者は「異空間」で優劣を争う(目的に向かう)ことになる(上図)。可視できる形で「空間」が定められている競技もあれば、不可視ではあるが、規定として「妨害が許されていない」競技もある。

また「走り高跳び」や「体操」など、主に「記録・採点競技」と呼ばれるスポーツ競技では、競技者は「異時間」で優劣を争う(目的に向かう)ことになる(上図右)。相手競技者と「同空間」ではあるが、実際に行為を行う「時間」が異なるため、意図して妨害を加えることは出来ない。


■闘争における「時空間」と「妨害」

一方『闘争(Struggle)』においては、競技、「個人(Individual)」または「団体(Team)」に関わらず、全ての競技が「同時空間」にて行われるため、同じ空間で同じ時間に、両競技者が優劣を争う(一つの目的に向かう)ことになる。よって両競技者は、相手競技者の意思に関わらず、意図して「妨害」を加えることが出来る、または(規定内の方法で)許されている。


■「競争的思考態度」と「闘争的思考態度」

この「時空間」と「妨害」という概念があることによって、それに付随した形で様々な「違い」が両競技分類(競争・闘争)の間に発生する。そのため、各分類における競技者は、スポーツ競技の目的(相手競技者よりも優れた結果を残す=勝利)を達成するために、異なる「思考態度(Mindset)」が求められることに疑いの余地はない。

『CST』では、それぞれの競技者が持つべき「思考態度」のことを「競争的思考態度(Competition Mindset)」および「闘争的思考態度(Struggle Mindset)」と呼ぶ。

この両者の間には、様々な違い(詳しくは後述)が存在しているが、スポーツ競技者は時として(または常に)正しい「思考態度」を選択することが出来ていない。例えば「競争」における競技者が「闘争的思考態度」をもって行為を行なった場合、または「闘争」における競技者が「競争的思考態度」をもって行為を行なった場合、どのようなことが発生するだろうか。


■思考態度のエラー(Mindset Error)

それぞれの競技者がそれぞれにおいて正しい「思考態度」を取ることが出来ていない状態を、「思考態度のエラー(Mindset Error)」と呼ぶ。この現象は無意識的に発生している場合がほとんどであるが、各競技者が習慣として持ち合わせている「思考態度」は、あらゆる段階を経て、実際に競技中に行われる「行為(身体的表現)」に影響を与える。

つまるところ、『CST』では、この『「思考態度のエラー」が発生している状態で競技を行なっている競技者』のことを、『競争』の場合「競っていない」と表し、『闘争』の場合「闘っていない」と表す。もちろんこれは、ネガティブな要素である。『競争』の競技者が相手よりも優れた結果を残すためには「競わなければならない」し、『闘争』の競技者は「闘わなければならない」からだ。

ではこの「思考態度」には、それぞれどのような要素が関与するのか、という点が非常に重要であるわけだが、その前に、そもそも①「思考態度」とは何か?また②「思考態度」はどのような段階を経て「行為(身体的表現)」に影響を与えるのか?を確認していくことにしたい。


■「思考態度(Mindset)」の定義

スポーツ選手が、頭(脳)を使って「思考」し、身体を使ってそれを「実行」するまでの間に、私は「3つの段階」があると考えている。そのうち1段階目のことを、『CST』では「思考態度(Mindset)」と定義する。

思考態度:認識→解釈

これは、人間がある特定の事柄を「認識」し、それをもとに「解釈」していく段階である。つまり「どのように捉えるか?」の段階であるため、「実行」に至るまでの「前提」であると言える。


■「思考回路(Thought Process)」の定義

それに続いて、2段階目は「思考回路(Thought Process)」である。これは、人間がある特定の状況を「認知」し、それをもとに「決断」(判断)するまでの段階である。

思考回路:認知→決断

つまり「どのように考えるか?」の段階であるため、「実行」に至るまでの「過程」であると言える。

上図を見ればわかるように、「思考態度」は「思考回路」に影響を与える。特定の事柄を「認識」し、どのように「解釈」をしているのかによって(前提によって)、その後の状況(事実)を「認知」する際の「決断」に違いが生まれる。「決断」が異なれば、結果として表れる「実行」にも、違いが生まれるはずである。

なお『CST』では、ここで言う「認識」と「認知」の違いを、前者は「ある対象を、主に事前に持っている知識(知見)から得た情報をもって把握する」こととし、後者は「ある状況を、主に知覚(五感)から得た情報をもって把握する」こととする。

つまり、前述したように「思考態度のエラー」が起きている状況とは、「前提」の段階(どのように捉えるか?)を誤っている状態であって、その後に続く「どのように考えるか?」という「過程」においても、また「実行」においても、同様にエラーを起こす状態であると言える。


■「考える」ことは最初の段階ではない

問題は、多くの人が、スポーツ競技において人間が頭(脳)を使って「思考」し、それを身体を使って「実行」するまでの段階において、「最初の段階は“認知”である」と考えていることである。しかし、これは明らかな間違いだ。「どのように考えるか?」が「どのように捉えるか?」の先に来ることはない。つまり「考える前に捉える」必要があるのだ。

「考える前に捉える」

たとえば、サッカーにおける「思考態度」とは「ピッチ外(競技外)領域」のことを差し、また「思考回路」とは「ピッチ内(競技中)領域」を指す。ただし、ここで確認しておきたいのは、たとえばサッカーの競技中における「戦略/戦術」等に関する事柄や、競技中に発生しうる状況パターン(後に「認知」すると予測できること)を把握することは、あくまでも「認知」へのアプローチであるため、それをピッチ外(例えば机上)で思考をしようとも、それは「思考回路」の段階である。


■認識の違いか?認知の違いか?

ここで私たちが気をつけなければならないのは、例えば競技中、結果として表れた「実行」が望ましいものではなかった時、それは「認識の違い」によるものなのか、それとも「認知の違い」によるものなのか、を確認することである。「認知」がエラーを起こしていても、「認識」がエラーを起こしても、どちらにせよ「実行」にはエラーが発生するからだ。

仮に「思考態度のエラー」を起こしている状況では、いくら「思考回路」にアプローチしようとも、短期的・断続的な改善に至るに過ぎない。

もちろん「実行」のみにアプローチをしても同様である。


■サッカーについて

さて、ここで少しサッカーの話をしよう(もちろんここまでの全てのつまらない定義付けはサッカーの話をするためだ)。

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