アリとキリギリスと女王蟻
昔々、ある森の奥深く、アリの王国がありました。
女王アリを中心に、働きアリたちが一生懸命働き、食べ物や住居を集めていました。一方、同じ森に住むキリギリスは、毎日歌ったり踊ったりして、陽気に過ごしていました。
ある日、アリはキリギリスに声をかけました。
「キリギリスさん、もう秋ですよ。冬が来る前に、食料を貯めておくべきではありませんか?」
しかし、キリギリスは笑いながら答えました。
「アリさん、心配無用です。私は歌って踊ることで、冬を乗り越えることができます。」
そんな答えにアリは少し心配になりましたが、「そうですか、ではまた、私達が女王様のために働く間、あなたのうたを聞かせて下さい」とキリギリスに言いました。なぜならアリは美しいキリギリスのうたが好きだったからです。
「いいでしょう。あなた達が働く間、私のうたを聞かせてあげましょう。」そう言ってキリギリスは夏から秋が終わるまで、アリたちのために歌い続けました。
そして、秋が過ぎ、冬がやってきました。森は雪に覆われ、食べ物もろくにありませんでした。寒さに震えながら、キリギリスはアリのもとを訪ねました。
「アリさん、どうか助けてください。私は何も食べるものがありません。」
アリ達は喜んで答えました。「いいでしょう。あなたに私達の蓄えをあげましょう。あなたは私達が働く間、ずっとその美しい声で私達のために歌い続けてくれたのですから。」
しかし、その答えを隣で聞いていた女王蟻が遮りました。「キリギリスに私達の蓄えを与えてはなりません。」
その答えに驚きアリ達は女王に聞きました。「女王様なぜですか?キリギリスは1日中働く私達の為に、夏から秋の間ずっと歌い続けてくれたのです。」
しかし、女王蟻の答えは変わりませんでした。「うたをうたうなどということは仕事ではありません。うたうことで、食べ物が集まり、子どもたちが生まれますか?そんなことはあなた達にすらできることです。キリギリスに私達の蓄えを与えてはなりません。」
キリギリスに同情するアリ達の声もありましたが、キリギリスに食料は与えられませんでした。キリギリスは悲しみに暮れ、森の中を彷徨いました。そして、寒さと空腹に耐え切れず、死んでしまいました。
春が訪れ、森は再び緑に包まれました。女王アリは、働きアリたちにこう諭しました。
「今年の夏、キリギリスのような真似をしてはいけません。しっかりと働いて、冬に備えましょう。」
働きアリたちは女王アリの言葉を胸に、再び一生懸命働きました。
しかし、今年の夏はキリギリスのうたはありません。働くに連れアリ達の苛立ちは増していきました。
「俺達はなんのために、こんなにも働いているんだ」「キリギリスのうたが恋しい。あれだけが私の唯一の慰めだった」「女王が私達からキリギリスのうたを奪った。女王のためだけに私達が働くように」
「女王をころせ」
アリ達の怒りは頂点に達しました。そして、ある日アリ達の一人が女王蟻を食い殺してしまいました。
その日からアリ達は働く意味を見失い、働くことをやめました。新たにアリ達の子が生まれてくることはなく、住居も崩れ古びて行きました。
そして、ある日王国を嵐が襲いました。古びた住居は嵐を防ぐことはできませんでした。アリ達は死んでしまい、その日、アリ達の王国も滅びてしまいました。