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白うさぎから、ちなじゅん(久高島)

沖縄・那覇
白うさぎとヒロコさんは、カラオケ好きな人たちに付き合って明け方まで飲んでいたらしい。
ユタさんのお店まで車で迎えにきてくれたふたりは眠たそうだったが、とても良い笑顔を見せてくれた。

白うさぎ
「どこに行きたい?他の人たちは北部の方に行くらしいからそれに合流するのもありだけど。」

北部か。美ら海水族館や植物園やビーチに行ったらきっと楽しいだろうなと思った。

でも最近はまだ訪れたことのない沖縄本島の南部に興味があった。


「南部に行ってみたいです。」

白うさぎ
「南部?うーん。」
「久高島に行ってみる?」

久高島。
世界遺産にもなった斎場御嶽(せーふぁうたき)から見える「神の島」


「行きたい!」

思いもよらぬ提案に驚いたが、逆に
今日を逃したらこのまま一生行けないか行かない気がした。と同時に行くのが何だか怖いような気もしていた。

しかしそんな不安を口にする間もなく、車は南城市に向かっていた。

白うさぎは南城市にもルーツがあるそうで、南部の地理も何となく察しがついているようだった。

同時に助手席のヒロコさんがすぐに色々と調べてくれて、南城市の港から久高島へ向かう高速船が出ていることが分かった。

出港時間は11時半。
那覇市内から港までは車で約40分程だが、既に11時を過ぎていた。

船に間にあわなかったらどうするんだろう。
ヒロコさんは海が見たいと言っていたから、南部の美しい海が見られたら御の字かな、などと当たり障りのない落とし所を頭の中で探していた。

白うさぎとヒロコさんは特に何も言わなかった。
とにかく港に行ってみようと思っているのだろう。

港に着くとヒロコさんがすぐに窓口に向かってくれた。ヒロコさんはいつも動きに無駄がなくて頭の回転も身のこなしも素早い人だ。そして関わる人達をある時は優しく見守り、ある時はさりげなく勇気づけて笑顔にさせてくれる人だ。

ヒロコさんが窓口で話している最中、待合所の窓から高速船が出航するのが見えた。

ヒロコさん
「まだ分からないけれど、臨時便が出るかも知れないって。」

どうやらいま出港した高速船が久高島から戻ってきてまたすぐに臨時便として出港するかも知れない、でもそうするかしないかは船長次第、ということらしい。
窓口の女性は臨時便を出すと船長さん達が昼食を取れないことを気にしていた。

ただ待つしかないというのは何とも落ち着かない。でも白うさぎとヒロコさんと一緒だと、逆に行けない理由がない気がし始めた。

白うさぎは待合所の売店の女性に久高島ではどこに行ったら良いかを聞いたり、ヒロコさんは麦わら帽子や船長さん達への差し入れのパンを買ったりしていた。私はイラブー(ウミヘビ)の燻製を見比べながらシュハスコのリングイッサみたいだなと罰当たりなことを考えたり、久高島の手描きの地図を眺めたりして過ごした。

そんな風に思い思いに過ごしながら待っていたら、無事に臨時便を出して貰えることになった。
白うさぎが言うところの「勝手に起きるんだよ」は今日も健在だ。

あとで調べたら、久高島は神様に呼ばれた人しか訪れることができないと言われているそうだ。
久高島に行こうと話してから約2時間。
神話などでは白うさぎは神様のお遣いとして描かれていたりもするので神様が白うさぎを呼んだのだろうか。

船に乗り込む途中、ヒロコさんが船長さん達にパンを差し入れし船を出してくれることへの感謝を伝えたが、海の男たちは何とも愛想が無くてそれがまさに海の男という感じがして可笑しかった。

梅雨が明けたばかりの南部の海を高速船で進むのはとてもドラマチックだった。
エンジンの爆音を響かせ白く激しい波飛沫をあげながら進む高速船の後方のデッキから、離れていく海岸線と梅雨明けしたばかりの夏の太陽の日差しに照らされた美しい海を眺めていた。

沖縄・久高島
久高島までは高速船で約15分程だった。
そして港の売店の女性の話だと、徒歩で久高島を巡ると2時間はかかるとのことだった。

港の近くに3人乗りのトゥクトゥクが停められていたが予約済みとのことで借りられなかった。
炎天下の中を自転車で廻るのは辛そうだが、徒歩よりは自転車の方がまだ良いしと思いながらその先のレンタサイクルショップに向かうと、電動キックボードが数台並んでいた。

あっ、まただ。またこの感じだ。
白うさぎの言うところの

「勝手に起こっちゃうんだよ。」

帰りの船の時間から逆算すると島での滞在時間も限られていた。そんな時に予想だにしなかった電動キックボードが目の前に現れるこの感じだ。

電動キックボードを3台レンタルし、白うさぎを先頭にヒロコさん、私、と続いて走った。

久高島は、南北に細長い地形をしていて港は島の南側にあった。そこから売店の女性に勧められた通りに看板娘のいるお店に立ち寄った後は、島の西側の海岸の景色を見ることが出来るように西寄りのルートで島の最北端の岬を目指した。

途中、御嶽(うたき)や拝所(うがんじゅ)があると、白うさぎはキックボードを停めてお詣りをするので、後に続いてお詣りをした。

島の中央あたりからの道は、舗装されていない石灰石のような白い砂利に覆われていた。
北に向かって真っ直ぐ伸びるその白い道は、夏の強い日差しに照らされてまるで別世界に繋がっているかのように眩かった。
そして道の両側にはクバやビロウなどの亜熱帯性の群生林が神の道を守るかのように生い茂り、何匹もの蝶が舞っていた。

約30分程走ると久高島の最北端、ハビャーン(カブール岬)に到着した。
ここは沖縄開闢(かいびゃく)の祖アマミキヨが降臨したと言われる聖地だ。

そこには圧倒的な程に美しい海と静寂が広がっていた。
人影は無く、聞こえてくるのは風と波の音だけだ。
黒い岩と白い砂、青々と茂る群生林。
白い花が一輪だけ咲いていた。
ここは光と影、隠と陽、それらが混じり合うところ、きっとそんな場所だ。

ハビャーンで感じた光と影は、前日のユタさんとの出会いに続き私が最近感じていた違和感を紐解くヒントを与えてくれた。
光と影、隠と陽。それらはある時は調和し、ある時は対立し新しいエネルギーを生み出すだろう。そして更にはその二つの要素の境界線があいまいなまま存在し続けることにも意味があり価値があると思えた。

終わりに
以前、白うさぎに尋ねたことがある。


「何で他人のためにそんなに一生懸命になるんですか?自分のことに集中したら良いと思うけど。」

白うさぎ
「他人のためって言うか、次々と起きちゃうんだよ。自分の分はもう持ってるしこれ以上持てないのに、また転がってきた、こっちにも転がってる、って。こんなにいっぱい転がってるから要りませんか?って知らせてるだけなんだよね。それでその人が要らないなら要らないでいいし、必要ならどうぞ、って思うんだよね。」

白うさぎと一緒に過ごしたら、
不思議な出来事、神の島、素晴らしい時間、大切な人達、大切な価値観、が目の前に転がってきていつのまにか繋がっていた。

そう。それが、白うさぎから、ちなじゅん。

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