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新聞で重用される混合2軸グラフの難点とその解決策

先日、日経新聞のこのような2軸グラフが批判されていました。

出所はこちらの記事。グラフのタイトル通り、日米で家計の資産所得(利子・配当収入)には大きな差があるという話の補足として示されたグラフです。

こうした混合2軸グラフ(これは私の命名。通常の2軸グラフとも少し作法が異なるので便宜的にこう呼んで区別します)が批判されがちな理由はいくつかあります。

まず最大の難点が、軸のスケールが不明瞭であること。左軸では日本の資産所得が5〜30兆円のスケールとされています。他方で右軸を見ると、米国の資産所得は「空中」から始まっています。一般的には2軸グラフは双方の軸がグラフ下端から始まりますが、米国の金額の大きさを表現するためか中途半端なところからグラフが始まっています。私が先ほど「通常の2軸グラフとも少し作法が異なる」としたのはここに理由があります。これにより、実質的には2つあるグラフが1つになっているように見え、日本と米国のスケール差がわかりにくくなっています。

このグラフを単純に1つの軸で表現すると以下のようになります。数字としては最新年で約35倍の差になりますが、最初のグラフからこれを直感的に理解するのは難しいでしょう。

難点の2つ目が、左軸と右軸が混同されがちであること。最初のグラフには2つの折れ線と2つの軸が存在しますが、図表にも記事にも「日本が左軸」「米国が右軸」という説明は出てきません。単位や金額から類推することは可能ですが、直感的にわかりやすいとは言えない。素直に左側からグラフを眺めると、まるで日本と米国がかつて同程度の資産所得であったかのようにも見えます。一瞬そう考え、後から右側にも軸があることに気づいた方も少なくないでしょう。

なぜこのような表現になっているのか?

推測できる理由は、タイトルに「大きな差」と書きつつ、実際にはグラフで「時系列的な推移」も暗黙的に盛り込もうとした結果生じたミスマッチでしょう。そもそも「大きな差」だけを表現するなら、日米の最新データ(本件で言えば2022年)のみ比較すればよいはずです。

そうしていないのは、記事部分にある「比較可能な形で遡れる1994年のピークと比べると半分程度にとどまる」という文言も表現しようとしているから、と考えることができます。「日米の資産所得の金額と推移を同時に表現したい」→「双方を同じ軸で表現すると日本の金額が小さすぎて時系列を表現できない」→「米国だけ軸をずらしてしまえばよい」というロジックです。

それに限られた紙幅の有効活用が加わると、このような形になると考えられます(紙面は確認していませんが、きっと想像よりもずっと小さな図表なのではないでしょうか)。この種類のグラフは新聞や一部の雑誌で、紙の時代からの習慣として続いてきました。

このようなデータを実際に可視化するにはどうすればよいか。今回の場合、1つのグラフにするメリットが薄いため、「素直に2つのグラフにする」という解決策が最も早いでしょう。現代では多くのグラフがデジタル上(PCやスマートフォン上)で表現されるでしょうから、そこまでスペースに敏感になる必要はないはずです。そもそも、2つのグラフに分割したところで発生するスペースはそこまで大きくもないはず(だからこそ本件のグラフが批判されているのですが)。

シンプルに同じ形式のグラフで日本と米国を表現するのもよいでしょうし、もう少し工夫を凝らすとしたら「日本と米国を異なる色にする」「米国の方には参考情報として日本のデータを入れ込むことでスケール感が異なることを直感的に示す」といった方法もあります。

グラフを作る目的は、多くの場合「読み手に対してデータを直感的に理解できる形で提示すること」です。表現方法に迷ったら「素直」な方法を取るのが最終的には近道になると考えます。


8/23 追記:記事を改めて読むと別のグラフに差し替えられていました。

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