【short story】百春
両親は、『100歳まで元気に生きるように』と願いを込めて、春に生まれた少年に、「百春」と名付けた。
そうして、いまは亡き両親の願いを背負った百春は、長い年月を生き抜いている。
「おじいちゃん、お誕生日おめでとう。100歳まで元気でいてね!」
この日、百春90歳の誕生日会で、孫は声を掛けた。
現役時代は、高等学校の数学教師として、『鬼の百春』と恐れられていた彼も、老いには勝てない。
物忘れが酷く、毎日つけている日記を読み返すことで、記憶の断片を補っている。
あれだけ得意だった数学も然り。もう簡単な計算でさえ、ほとんどできなくなってしまっていた。
百春は、この日の日記に、こう綴った。
本日、90回目の春を迎えた。
支えてくれた皆に感謝している。
100回目の春まで、あと1年だ。