第6合『酒も見た目が9割』:酒役〜しゅやく〜
俺たち日本酒サークルのメンバーは、事務所として利用している日本酒バーで、ミーティングをしている。
サークルのメンバーは、それぞれに個性があって、なんだか日本酒と同じだな、なんて感じる。
俺が、どのお酒を注文しようかと、メニューを見ながら迷っていると、代表のソニアが声を掛けてきた。
「まずは、飲んでみることです」
「え?」
「メニューには、いろいろな、じょうほうが、書かれています。ですが、飲んでみないことには、そのお酒の味は、わかりません」
「んー、でも、どのお酒を飲んでみたらエエのかさえ、わからへんねん」
「優柔不断の男はモテないよ。特に、相手がイタリア人女性なら……」
相変わらず男前のマスターは、女性を熟知している。
「前に、私のイメージに、よく似たお酒を、おいしいと、言ってくれたことが、ありましたよね? この物語の、第3合『宝石好きのイタリア人』の回で」
後半、理解できない言葉が並んだけど……たしかに、そんなこともあった。あのお酒がきっかけで、俺は日本酒サークルに入会したんだった。読んでない人は、リンクからアクセスしてみよう。
「自分のイメージに、よく似たお酒を選んでみればいいってこと?」
「いかにも、そうです」
「あ、でも、どうやって?」
すると男前のマスターは、自分の頬を軽く2回叩いてみせた。そしてすかさずイケメンフレーズ。
「男の魅力は、顔で決まるんだよ」
マスターは、男が嫉妬してしまう程に男前なので、そろそろ腹が立ってきた。
なるほど。顔……つまり、ラベルか。
「いわゆる『ジャケ買い』ってやつだね!」
ちなみに、右隣に座っている、サークルのメンバーで1番地味な男で、ニックネームが「ジミー」という、辺土里 楠太郎(へんどり くすたろう)が、なにを注文するのか聞いてみた。沖縄出身。
今日は一言も喋っていないし、地味すぎて、最初は隣にいたことにも気付かなかった彼は、どのようなお酒を注文するのだろう。
「ぼくは、『龍勢の特別純米酒 夜の帝王』を頼みます」
その注文に、大きな目をした男前のマスターの、目が点になった。
「このラベルが、ぼくのイメージにピッタリだと思いまして――」
珍しくマスターは動揺しているようで、お酒を注ぐ手が少しばかり震えている。
目の前に置かれた『夜の帝王』を、一口飲んだジミーは、嬉しそうな顔をして、こう言った。
「やっぱり、自分のイメージとよく似た日本酒は、おいしいですね」
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