武者修行への恨み言
今考えてみても、ああいう光景を地獄絵図と呼ぶんじゃないか、と思う。毎日誰かしらが泣き、泊まっているホテルでは怒鳴り声ともつかぬ叫び声が聞こえ、時には自室で泥のように眠っている友人たちがいた。2人部屋なのに・・・。
初めから、おかしいところはあった。2週間の海外インターンシップとして、紹介されたそのプログラムのキャッチコピーが、「きみの変態を支援」。もう怖い。ただ、動画を見て惹かれる自分がいたことは確かだった。僕は決してマゾヒズムの気があるわけではないのだが、今のうちに挫折を経験しておきたくて申し込むことにしたのだった。
そして、初めの感想に戻る。本当にひどいものだった。いまいちチームのメンバーと距離が詰めれないばかりか、メンバーの一人はベトナムのホイアンに着く前から、グループに期待していなかったということを後半に差し掛かるところで白状してくるし、ビジネスのアイディアは一日中頭をひねっても出てこないし。2週間もあったのに世界遺産都市ホイアンを回っている身体的余裕もなかったし、友人や家族からのSNSを確認する精神的余裕もなかったし、惰眠を貪る時間的余裕もなかった。
2週間は毎日寝不足だった。睡眠時間を引き換えに、同じタームに参加した人たちとたくさん話をしなければ、と思った。眠って一日を終わらせることがとても惜しかった。
武者修行への恨み言は、まだまだある。現地の社長には英語が下手だと言われ、和也さんにはビジネスモデル上の穴をばんばん突かれ、ファシリテーターには「人の気持ちが分かっていない」と泣かされた。メンバーの参加目的を踏まえて、チームの方向性やゴールを見出すのも、「海外」、「ビジネス」という環境であるからか、とても手間取った。
ビジネスありきのチームづくり、傷つかないための自分づくりをしているたのでは、と過去の自分を恥じた。他のチームが事業を進めている中、雑談や互いのバックグランドについて話すことは足を止めることになる気がして、その話を切り出すためには、勇気が必要だった。
いっぱいいっぱい失敗した。最初の「カフェを開く」という案は自分たちがやりたいことが先行し、顧客のニーズ、立地、ターゲット層の視点が欠けていた。次の「路上にゴミ箱を設置する」という案は、ビジネスにおける実現性、メンバーの合意形成が不十分だった。最後の「新商品としてエコバッグを置く」という事業は時間が足りず、魅力的なバッグを安く仕入れる方法を確立できなかった。僕たちのグループは、他のグループと比較しても二転三転していたグループだったと思う。
とてもとてもつらく、迷いに迷った2週間だった。その分、タームの仲間たちを通じて自分と向き合っているような、充実した2週間だった。
同じような経験をしているからだろうか。時々、イベントやら何やらで武者生と知り合うことがある。みんなやりたいことをやっていて、快活で、面白い人が多い。自分もそのような人物の一人になれていたらいいと感じる。
2020年の今年は、和也さんが残したプログラムはコロナにも負けず、国内の武者修行として、夏のタームを終えたという話も聞いた。また、新たに武者の洗礼を受けた人がいると思うと、自分も負けてられないと感じる。自走式エンジンが音を上げて、温まっていくような心持になる。
和也さんは喜んでくれるだろうか。いや、それは甘すぎか。時たまほったらかしにしてしまう自分の悪い癖を、和也さんは注意してくるだろう。そして、叱咤激励してくれるかもしれない。あのエネルギッシュな目で僕をまっすぐ見ながら。
和也さん、あなたからたくさんのことを学びました。ありがとうございます。今度、またじっくりお話聞かせてください。僕自身も面白い話ができるよう、それまで走り続けてみたいと思います。